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4.やっと地上に降りられました
しおりを挟む速度を上げて落ちてくる人影が徐々に大きくなり、それに比例するように聞こえてくる何やら叫ぶ声も大きくなる。それまで呆然と見ていた男二人もハッと我にかえった。
「お、おい!さすがにまずくないか?!」
「ええ。このままだと怪我では済みませんね」
「ヴォルディックを呼ぶか?!」
「人間と鳥では体格差がありすぎますよ。よくて体当たりで軌道を変えるくらいしか出来ません。多少軌道をずらしたぐらいでは現状然程変わりませんね」
ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!!
しぬしぬしぬしぬしぬ!!
ガチで!!
えーとえーとえーと!と、とりあえず衝撃を抑えるには体を丸めた方がいいのかな?
最早どんな体勢でも意味を成さないでしょうけどね!
せめて!せめて!
「即死でお願いしまーすっっ!!」
目の前に迫る水面に思わず瞼をぎゅっと閉じ、咄嗟に頭の中では南無阿弥陀仏を唱えていた。
このシチュエーションで南無阿弥陀仏って意味あるんだっけ?
ああっ!神様仏様銀髪発光美女さまーっ!たーすーけーてー
ドボンっ
ガボッコボッガボガボガボッ
…あ、生きてる。
水面…上はどっち?あたし水中で目を開けられないのよ!水中眼鏡プリーズ!
ガボカボッ…服が纏わりついて邪魔…ガボカボッ…さ…酸素が足りない…ガボカボッ…水めっちゃ冷たい…ガボカボッ…生きてる…けど…このままだと溺れる!てか、溺れてる!
するとグイグイと右腕が引っ張られた。それと同時に水の流れも感じる。
…あれ?もしかして上に向かってる?水圧が軽くなった気もするし、心なしか息苦しさも軽く…なるどころか呼吸出来てる?!
「なんで?!」
プハッ!
はぁはぁ…出た!水面に出た!助かったーっ!
岸はどっち?落ち着け…落ち着け…
自分に言い聞かせながらゆっくり周りを見る。首だけを動かし辺りを見回すと人らしきものが見え、わたしは首の動きを止める。
あ、あそこに人がいる、ということは岸かな?何か言いながら手振ってるけど、こっちへ来いってこと?
あれ?もう一人いる…って、ぇえっっ?!入ってきた!湖に入ってきたよあの人?…こっち来るの?!わたし不審者だって思われてないよね?捕まったりしないよね?…気持ち的に逃げたい…追われると逃げたくなるのよね。…あ、今のモテ女のセリフみたい!
…じゃなくて、このまま水の中にいたら体冷えるし、すでに軽く寒さで震えてきてるし、体力もそろそろやばそうだし…結局は泳いで岸まで行くしかない…。
残念なことにわたしのいるこの場所から一番近い岸が、誰かもわからない二人の人物のいる方向なのだ。心の底から逆走したい気持ちに駆られるが、確実に遠泳になる。だって反対側の岸が遥か彼方に見えるからね!
バシャバシャとゆるいクロールのフォームで人が立つ岸に向かって泳ぎだすと、これもまた不思議と水の抵抗を感じずスイスイと進んでいく。
おおっ!簡単に進むじゃないか!これガチ泳ぎしたらもっとスピード出るんじゃない?!はっ!!しかもわたし水中で目も開けてる!いつの間にこんなスペックが?!
…イケる!イケるわ!
完全にテンションが上がりきり気分はトップスイマーだ。それらしく腕を回して、それらしく脚をバタバタさせ、それらしく息継ぎをして、最後はドヤ顔フィニッシュで岸に近付く。
浅瀬になり泳ぎの体勢から下半身を下に下ろし、しっかりと水底を足の裏で踏み歩く。未だに浮力や抵抗を感じさせないせいか、体力を意識せず、いとも簡単に一歩二歩と進むことが出来る。
…これ逆走出来たんじゃね?
「うひゃっ!!」
えっ?!何?!手首掴まれた!
ビクリとして不意に水中に入ったままの右手を見ると、手首には透明な何かが巻き付いている。
この湖はかなり純度が高いようで透明感が半端ない。だいぶ深いと思われる底もはっきりと見えているくらいだ。それと同化するような透明の何かが巻き付いているのだけど、ぼんやりとだが輪郭がある…ある…あ…全体が見えて…き…た?!
「ぎゃっ!!蛇?!」
驚きのあまり右腕を大きく振り上げると、そのままバランスを崩しそうになり何とか踏ん張ろうとしたが、もちゃもちゃと足が絡み結局後ろへ倒れていく。しかし上半身が水面に付く前にピタリと止まった。
あ…あれ?背中に…壁?
「怪我はありませんか?」
「へ?」
「このままでは体が冷えてしまいます。早く出ましょう。」
「…いや…あの…誰…っひえっ!!」
「少し我慢してくださいね」
ふっ…ふおぉぉぉぉぉぉぉっ!お姫様抱っこされてる~!!人生初ですよ皆様!皆様って対象は特にないけど!
ひぇ~!!さっきの蛇みたいなやつより衝撃的~!!
きゃ~!!背中に手が~!!
ひょ~!!服の上からでもわかる(多分)ガッシリした身体が~!!
でもでもお姫様抱っこって意外と疲れる体勢なのねー!
あまり安定しないというか、変なとこに力が入って明日は確実に筋肉痛だよ…。あぁ、だからドラマや漫画の甘~い場面では首に腕をまわすのね!安定するものね!
なるほどなるほどと納得しているうちに湖から無事脱出出来たらしい。
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