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22.魔法ですか?スピリチュアルですか?
しおりを挟む翌朝、朝食に現れたヒューゴさんに話があると言われ、片付けが終わったら部屋で待つように言われた。こっちから声を掛けて話を聞こうと思っていたところだったからラッキーだった。
「お姉さん、大丈夫だよ!ヒューゴさんは見た目は怖いし口も悪いけど、とっても優しいから!」
「おはよう、リンデちゃん」
「おはよう!あのね、リンデもここに来た日にお部屋に呼ばれたんだけど、きっとお姉さんのことも助けてくれるよ!そのお話だと思う!」
「助けてくれる…?」
「そう!リンデのこの脚ね、リンデのじゃないんだよ!ヒューゴさんが作ってくれたの!」
「義足…なの?」
「それ!そう言ってた!だからお姉さんの欠けた身体もヒューゴさんが作ってくれるよ!お姉さんはどこが無いの?」
「わたしはこの濃い色素が目立つんだって」
「真っ黒の目はとっても不思議だもんね!」
リンデちゃんの義足発言には正直驚いた。昨日小走りする姿を見ていたけど、違和感のない足運びで義足を使っているとは到底思えないほどに自然だったから。ツンデレ少年の義手もまるで本物のように器用に指先を動かしていたし。
いくらプロの技師とてここまで精巧に造れるだろうか?温もりや硬質さは人間のそれとはほど遠いけど、ツンデレ少年の義手に触れた時の皮膚の感じは本物に近かった。
昨日中庭で遊んだ二十人近い子供達は一見して何が外見的特徴があるのかわからなかった。ツンデレ少年やリンデちゃんのように義手義足を使っている子供は何人だとか判別は無理。かといって、わたしのように色素が濃い子供は居なかった。
朝食を終えて洗い物などの片付けも終わった頃、ツンデレ少年にヒューゴさんが待ってると言われ、最初に言われた部屋ではなく、ガゼボがある中庭に連れていかれた。
明らかに昨日の中庭とは違うんですけど…。
西洋風の建築物の基本構造にに明るくないけど…そんな何個も中庭ってあるものなの?ここの建物の全体像がわからないけど、少なくとも中庭が二つ作れるくらいの豪邸なの?
中庭には日曜大工をするような作業台や道具、木材や鉄屑が散乱していて、そこに一人の男の人が座っていた。まぁ、ヒューゴさんなんだけど。
わたしの存在に気付くと片手を上げながら歩いてくる。
うん、確かに強面だけど雰囲気は柔らかい。
「よぉ、飯は口に合ってるか?」
「はい、とっても美味しいです」
「そりゃ良かった。お前この周辺諸国の人間じゃないだろ?だいぶ東の方の民族だと思ってんだが、生憎と東方にはまだ行ったことがねーからな、どんなもん食ってるとかわかんなかったんだよ」
「…お気遣いありがとうございます」
「ははっ!まだちっこいのに礼儀正しくていいな!」
「ちっこい…」
くそっ…またコンプレックス刺激したな?これでわたしは五回は転生しても覚えてるからな?根に持つ女、それがわたし!
「お?何だよ、気にしてんのか?バカだなぁ、これからどんどんでかくなるから安心しろって。まだまだ成長期なんだ」
それは無い。一般的に二十歳越えてどんどんでかくなることはないと思います。もう完全に止まりました。ええ、中三の身体測定から変わっておりませんとも。だいぶ早い段階で成長期終了しましたとも!
「そんなことより、わたしから聞きたいことがあります…いいですか?」
「ああ、そうだよな、急に連れて来ちまったからな!帰りたくなったか?」
え?帰してくれるの?
そんな疑問が顔にも出たのか、続けてヒューゴさんは言う。
「無理矢理連れていくことはしないぞ?ここにいるガキどもも自分の意思でついてきたんだからな。まぁ、お前の場合は完全に連れ去りになるけどな!わははっ!」
わははっ!じゃねー!こっちは花も恥じらう乙女なのに危うく人前でゲロ吐くところだったんだよ!わたしの守護霊全っ然守ってくれねーし!
全然守り強くねーじゃん…とぶつくさ愚痴ってしまう。銀髪発光美女様は大丈夫だって言ったのに。今この瞬間もどっかでわたしのストーカー行為してるのだろうか?
「そーいや、お前、強めの守りついてんのな」
はっ?!エスパー?!
一瞬心を読まれたと思って焦ったが、どうやら違うみたいだ。目線がわたしのお腹の辺りを凝視しているので「妊娠はしていませんよ」と言っておいた。が、それもどうやらお腹ではなく、お腹の前で組んでいた腕を見ていたらしい。
「その腕、何か飼ってんだろ?」
「はい?」
飼ってるって何?!ぎょう虫とか?!…いや、あれは肛門か?
「なんだ、わかってないのか?」
何のことやらさっぱり。むしろ、わたしの背後に何か憑いてませんか?と聞きたい。
まじまじと自分の腕を見てみたけど特に普段と変わらないし、開いて閉じてを繰り返しグーパーグーパーしてみても元気玉が出るわけでもビームが出るわけでもなかった。
何が見えるんですか?と訊ねたら「もやっとしたオーラのようなモノ」と言われてしまった。まさかのスピリチュアル発言。
ちなみに背後には何も見えないらしい。なんてこった。強力な守護霊説がここでガセ疑惑に変わるとは!
「お前に仇なすもんじゃねーから、腕のはそのままでも大丈夫だ。それより今後について話でもすっか!」
オーラの正体めっちゃ気になるのに軽くスルーされてしまった。でも今後の話と聞いて、やっと本題に入ってくれるらしい。
いつの間にかここに案内してくれたツンデレ少年は居なくなり、ヒューゴさんと二人きりになる。子供達の前だからと、今まで聞けなかったことが今は聞ける。
口を開きかけた時、ヒューゴさんはわたしの背後にある扉に向かって手をかざす。すると扉の下部から少しずつ消えていき、数秒でそれは姿を消してしまった。イリュージョン…。
中庭に出入りする唯一の扉のように見えるけど、それが消えたということは密室…?いや、中庭だから天井は筒抜けで雲一つ無い青空は綺麗だし、外の涼しい空気も入り込んでいるから、頑張ればもしかしたら出られるかもしれないけど…多分無理。中庭を囲む壁は高いし、登るような高さの木も無い。
途端に不安になってくる。ここが本当に凶悪な犯罪組織の中だったら…と。
「…ふっ!」
「むっ…。何がおかしいんですか」
完全にびびっているわたしが可笑しく見えたのか、堪えきれずといった風で笑われた。
「誰も取って喰ったりしねーよ。ただ、お前と話がしてーだけなの」
「話をするだけで扉ごと消したりしますかね…?」
「身の上話を他人に聞かれたくねーやつもいるだろうよ。まぁいいや、それで?お前の聞きたいことって?」
「ここにいる子供達は皆、身体に不自由があるのですか?」
「まぁ、八割方はそうだな。義足や義手をつけやってんだ。義眼のやつもいるぞ」
「義眼も…。医学や技師の心得が?」
「医学?いいや、俺がやってんのは魔法だ。魔石に俺が作った術式を組み込ませて、俺が作った義足や義手、義眼にそれを埋め込むことで本物に近い能力を引き出せんだよ」
え…どうしよう、一ミリも理解出来なかった。
魔石?…って何?スピリチュアル的ラッキーアイテムか何か?ラッキーどころじゃないよね、ミラクルアイテムよね、奇跡のアイテムよね!ツンデレ少年の腕に触れるまで気付かなかったくらいだもの。
どれだけ本物に近いかと言うと、青い血管もうっすら見えるし、シワなんかもあった。爪も指の関節も、指紋ですらあった。かなり至近距離でガン見してしまって、ツンデレ少年には鬱陶しがられたけど。
「魔法…って、万能なんですか?」
「はははっ!まさか。万能だったら体温も柔らかさも人間に近付けられるだろ?いや、むしろ新しい腕を生やすか」
なるほど。それを繰り返せば不死身の出来上がりだよね。
「それで?他に質問はあるか?」
ニヤリと目を細め口角を上げるヒューゴさんは、わたしが本物に聞きたいことをわかっているかのようだ。
少し間を置き覚悟を決めて訊ねる。
「あなた達は――特殊性癖の集団ですか?」
間違えた…。
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