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26.一つの恋が終わりました
しおりを挟むマノンさんとのまさかの初対面を果たし、“普通”とは違う『色』を持つ仲間としてなんやかんやで意気投合し空いた時間にはお茶をする仲にまでなっていた。自分でも、展開が早いな!と、つっこんでしまいたいぐらい。
結論から言うと、やはりマノンさんも自発的に此処に来たということ。ジルさんの証言通り、オッドアイは差別の対象になっていたみたい。わたしから言わせてもらうと意味がわからない。
「カズハさんは私の瞳を見ても気味悪がらないのね」
「えー?だってオッドアイでしょ?昔飼ってた猫も金と青のオッドアイだったし、人間にも現れることだってあるんだよ。例えばマノンさんのようにはっきりした色の違いばかりじゃなく、同じ色でも左右で微妙な濃紺差もオッドアイの一種だし、わたしの友達も同じ色の瞳だけど片方が痣のように一部だけ濃くなってる子がいるけど、それもオッドアイ。間近でよぉく見ないとわからないくらいのものなんだけどね」
「オッドアイ…。という名の…呪い?」
「違うってば!医学的にもちゃんと証明されてるってば!」
どうやらこの世界の医学はあまり進んでいないようで、何度説明しても呪いに持っていこうとする…。わたしの知識レベルだってほぼゼロだけど、オッドアイくらいはテレビや漫画なんかでも時々出てくる単語で知ってるし、昔飼ってた猫のこともあって好奇心で調べたり。海外の有名人なんかも実はオッドアイという人達が結構いるんだよね。
珍しいことには変わりはないけど、さすがに、呪いに行き着く思考は持ち合わせていないよ。
何度目かの説明でようやく理解が追い付いてきたのか、少しずつ会話になっていく。
「わたしはマノンさんの瞳、綺麗で大好きだけどなー」
「っ?!…綺麗って言われたのは初めて。ありがとう。ふふっ私もカズハさんの瞳は黒曜石みたいで魅力的で好きよ」
「こ…黒曜石?う…うん、初めて言われたけど嬉しいよ」
ふふっとはにかむマノンさんは、元々が柔らかい雰囲気の美形顔なので破壊力がエグい。マジ天使!
顔面偏差値が上の上を振り切るくらい魅力的でも左右の瞳の色が違うというだけで差別されるなんて理解が出来ない。
この世界の宗教観なんて全くわからないけど、少なからずそういうのも絡んでいるんだろう。ジルさんの話では、幼少の頃から神に見放されたとかイチャモンつけられてたみたいだし?
そう考えると、日本人の無宗教観は平和をもたらしているんではないだろうかとも思えてしまう。お葬式はお寺でやるから仏教なんだろうけど、初詣は神社にお参りするし、日常の道徳感も日本古来の神道による考えが大きいところもある。結婚式はチャペルで愛を誓う人も多いしね。つまりは無宗教とも言えるし多宗教とも言えるんじゃね?的な。別に宗教が悪いとは言わない。ただ、『神』という言葉を、存在を、免罪符みたいに使われるのには違和感を感じるのよね。
そもそもどんな理由があって見放されるんだよ。お前らの神、心狭すぎだろ。
「でも、マノンさんは初めてじゃないでしょ?ジルさんだって綺麗とか言ってくれたでしょ?」
「どうだったかしら…。この国に来た時から希望は打ち砕かれたし、あまりジル様のことも信用してなかったもの」
おっふ…。ジルさーん!愛の囁き足りなかったみたいですよー。アウトオブ眼中ですよー。
「カズハさんの国には差別がないのね。夢の国だわ」
「カズハでいいよ。いや、うーん、ネズミとその仲間たちが住む夢の国は確かにあるけど、それは置いといて。わたしの国にだって差別とかはあるよ?」
「?そうなの?」
「そりゃそうだよ。学校という世界でも社会という世界でも様々な理由でイジメがあるんだから」
「学校…。やっぱりカズハは裕福なところのお嬢様なのね」
「へ?いやいや、両親共働きの一般的な庶民だよ」
「一般的な庶民は普通学校にも通えないし、眼鏡なんて高価な物も持っていないのよ」
眼鏡くらい買えるでしょ?と、思ったけど、そういえばこの世界に落とされた時もそんなこと言われたなと思い出す。眼鏡三本で一万円とか普通にあるから、どうしても価値観がズレてしまう。
「ジル様もそれを知ってるから保護したんだと思うわ。今は豪商なんかは下級貴族より力を持つこともあるし、お金持ちに恩を売っておけば、後々自分に何かしら返ってくると思っているのよ。例えば後ろ楯とかね」
し…辛辣ぅ!ジルさん、これはもう完全に脈無しじゃありませんか?
…いやいや、例えわたしがお金持ちだとしても何のメリットもありゃしませんて。この世界の地図にも載らないような、誰も知らない本当に存在するんだかしないんだか得たいの知れない国の金持ち令嬢とか言われても説得力なんて皆無じゃでしょ。どんな後ろ楯が得られるというんだか…。
それにジルさんは変態かもしれないけれど、腹黒さはないと思うの、直感だけど。保護してくれた時の優しさに裏は無いと思うの、これまた直感だけど。
何とかジルさんの好感度を上げなければ!
「マノンさんはジルさんが嫌い?」
「好きも嫌いも無いわ。そんな感情で彼を見たことはないもの」
はい。アウトオブ眼中決定ー。
残念!成仏してください、変態その二…じゃなくて、ジルさんよ。
「どうかした?」
「いえ…、今一人の男性が精神的に召されたから合掌を」
合掌?と、聞き慣れない言葉だったのかコテンと首を傾げてしまった。うん、可愛い!
ここ何日かはこういう他愛の無い話をしては笑って、何だか日本で友達とカフェに来て恋ばなだったり試験の話だったりしていた感覚に戻ったように何だか懐かしい気分。
この世界に来てから一番穏やかに過ごせている気がする。
もういっそ、元の世界に帰れるまでこのままここに居座るのも悪くないなとまで考えてしまうほどにマノンさんとの時間が楽しい。
そんな事を考えながら目の前に出された紅茶と焼き菓子を口にする。
…うまっ!この焼き菓子うまっ!
「うふふ。そのお菓子美味しい?」
「うん、めっちゃうまい!」
「作った本人に言ってあげて。――ほら、隠れてないで出てきなさいな」
「へ?」
マノンはわたしの後方に視線を向けると、手招きして誰かを呼んでいる。お菓子を頬張りながら振り向くと、木の影から気まずそうに出てくる人影が見えた。
…って、ツンデレ少年?
あの一件以来顔を合わせることが無かったからすっかり存在を忘れてた!
そしてなぜそんな所に隠れてた?覗きか?この世界は変態多くない?銀髪発光美女様といい、変態お兄さんズといい、顔が良ければセーフとか言わないよね?
「この焼き菓子は全部この子の手作りなのよ。凄いでしょう」
「マジか…」
「別に…大したこと無いし。文句があるなら食べないでくれる?」
文句なんて一言も言ってねーだろーが。ツンデレも度が過ぎるとただの陰険野郎だからな?と、心の中で悪態をつく。顔は何とか笑顔を保ってますがね!わたし大人だからね!
「こら!そうじゃないでしょう?カズハにちゃんと言いたいことがあるんでしょう?ここ何日かそうやってこっちの様子を見てたの知っているのよ?」
「え…ここ何日か?いよいよ本格的な変態――」
「違うから!謝りたかっただけだから!…って…あっ!」
「謝る?何を?変態でごめんなさいとか?」
「変態から離れてくれるかな?!」
なんだなんださっきから叫んでばっかだな、少年よ。これだから思春期は面倒臭ぇーなーと、本日二度目の悪態をつく。心の中で。わたしは大人。わたしは寛容。
「…この前の廊下での事だよ。君の事情なんて全然知らないのに…一方的に八つ当たりして悪かったね…」
「え、いや、こっちも無神経なこと言ったみたいだし、ごめんね?」
急にしおらしくなったツンデレ少年に気が抜けたけど、一応仲直りという形になった。まぁ、恐らくこの少年も気に病んでたということなんだろう。ホッとしたような少し口角が上がった一瞬の笑顔はかなり貴重な瞬間のように思えた。
ふむ、ツンデレ、ごちです!わたしにショタ気質ないけど、さすがにキュンっときたわ。
「あらあらまぁまぁ。何だか年の頃合いも似たようなものだし、二人とも並んでるとお似合いよ!初々しいわぁ」
「はっ…はぁ?!何それ!意味わかんないし!」
「やだもう照れちゃって!見てるこっちが恥ずかしいわ~。若いって無敵ね☆」
「「……」」
マノン ガ キュウニ オバサンカ シタ……
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