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25 もう少し離れてください
しおりを挟むマティアスが準備してくれた湯で身体を拭く。本当ならシャワーでも浴びてさっぱりしたいところだけれど、まだ熱があるので、立ち上がるとくらくらする。それでも、硬く絞ったタオルで身体を拭くとスッキリした。明日は熱が下がれば洗髪もしたい。
パジャマに着替えて、ベッドに上がったところで、マティアスが戻ってきた。
白いシャツと、紺色のズボンという、ラフな格好をしている。
彼が食事を取ってくると出て行ってから、たいして時間は経っていないと思う。
使い終わった盥とタオルを片付けたマティアスは、世奈の側に来たかと思ったら、世奈を抱き上げた。
「ひえっ!!なっ、何??おろしてください」
頭一つ分以上背の高いマティアスに抱き上げられると、足は届かない。突然の事に慌てて、それでも抱き上げられた恐怖に、マティアスの首にしがみ付くと、彼は嬉しそうに頬を緩めながら、部屋を出た。
マティアスは廊下を大股で歩き、大きな扉の前まで来ると、彼は足でけり上げて扉を開ける。
ソファーとテーブル、本棚に執務机の置かれた部屋の奥の扉に向かい足を進めると、ゆっくりとその扉を開けた。
世奈の寝室より大きなベッドの置かれたその部屋に入り、ベッドにゆっくりと世奈を下ろす。
「え・・・・と?」
熱を出して、目が覚めてからの、彼の態度の変化が目まぐるしい。世奈は驚いて良いのか、恥ずかしがればいいのか、身の危険を感じるのが先なのか、訳が分からない。
取り合えず、マティアスの部屋に連れ込まれて、ベッドの上だ。これは、身の危険を感じるべきなのだろうか。
「もう一人にはしないと、言っただろう?」
「は?・・・えっと・・・だから一緒に寝ると・・?」
枕を整えて、世奈の横にマティアスが滑り込む。
「あぁ。何かあるか?」
獣人である彼が三人寝ても広々な大きなベッドの真ん中に寝かされる。どうやら拒否も逃亡も出来ないみたいで。しかも、すでに彼は寝る体制なのか、世奈の背中を自分の胸に抱き込み、横になって、後ろから首元に顔をうずめている。
触るのも嫌だと思っていると誤解していたとはいえ、それが一転、抱きかかえられてしかもベッドの上だなんて、展開が早すぎる。
熱のせいで痛む頭に、眉を寄せる。色々と考えたいことが有るはずなのに、思考はまとまらない。
背中に感じる体温は暖かく、大切そうに抱きしめられるこの行為は好意の現れ以外の何物でもない。
それはとても嬉しい事だけれど、やっぱり、あまりにも激しく動いた感情に付いていけない。
まだ熱も下がり切っていないのだし、お手柔らかにお願いしたい。
背中に温もりを感じながら、体調不良による眠気には逆らえず目を閉じた。
やがて、スースーと規則正しい寝息を立てる世奈の身体から手を離し起き上がったマティアスが、そっとベッドから離れたのを世奈は知らない。
「さて・・と。ちょっと仕事してくるか」
マティアスが本館へ慌ただしく戻っていったことも当然知る由もない。
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