魔法公証人~ルロイ・フェヘールの事件簿~

紫仙

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第一章 死霊使いの薔薇石 ~第三者による詐欺行為~

エピローグ 死霊使いの旅立ち

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 その後ルロイが悪徳鑑定士の
 アントニオをたたき起こし、
 せめて失った薔薇石ローゼスストーン相当の品で
 アナに弁償するよう諭すと、

 「二度と目の前に現れませんから」

 と命乞いのごとく
 金目の物をあらかた置いて、
 そのまま何か喚きながら
 逃げ出してしまった。
 プロバティオの能力で魂を抜かれた後、
 よほどひどい悪夢でも見たに違いない。
 自業自得なりに可哀想に
 とルロイは笑うのだった。
 事件が無事丸く収まってひとまず、
 生気を吸い取れて
 ぐったりきているルロイは事務所へ、
 泣きつかれたアナは旅籠へと戻っていた。
 そして、一夜明けた朝。
 ルロイとアナは、
 メルヴィルの墓前を訪ねていた。
 アナが祈りを込めて
 父の墓に鎮魂の霊咒を唱える。
 父の霊は現出もアナに感応もしない。
 もはやメルヴィルの霊魂は
 完全に彼岸へと旅立ったのだろう。
 冷たい朝靄が肌をなでる中、
 燦然と輝く朝日が周囲を照らし始める。
 無数の墓石の周りにも、
 小鳥たちが甲高く鳴きながら
 元気に戯れている。
 太陽の位置からして、
 そろそろ市の
 正門が開門する時間だろう。

「大丈夫そうですか?」

 見送りに来ていたルロイに
 アナは振り返り弱々しくも
 微笑んで見せる。

「ディエゴさんに後で
 聞いてみたんですけど
 あの薔薇石ローゼスストーンは、
 父が『冥府の泉』で非業の死を遂げた
 冒険者の霊を、
 慰めるためのものだったんです。
 なんであんな
 発掘され尽くしたダンジョンに、
 薔薇石ローゼスストーンみたいなレアものが
 あるか不思議だったんですけど。
 その話を聞いて腑に落ちました」

「それを公にしていれば、
 アナさんも被害にあわずに
 済んだでしょうに。
 でも、黙って天寿を全うするあたり
 きっとあの人らしいのでしょう」

「いえ、結局最初から最後まで
 自業自得だったんです。
 薔薇石ローゼスストーンで救われていた者から
 それを奪ってしまった。
 死霊使いが死者を
 怒らせてしまうなんて」

 卑屈さと後悔ではない、
 自戒を込めたアナの顔を
 ルロイは初めて見た。

「そろそろ、開門の鐘が鳴りますね。
 準備はいいですか?」

 問いかけるルロイに、
 アナは少しだけ寂しげに笑顔を作った。

「あの……一体、
 いつから気づいてたんですか?」

「まぁ、アナさんの様子から察して、
 最初からおかしいとは
 思ってたんですけどね。
 悪霊の正体について確信できたのは、
 ディエゴから情報を得たときです」

 ディエゴはふざけ半分で重要な情報を、
 さりげなく渡すことが得意であった。

「あの時、悪霊退治のために証書を
 作っておいたんですよ」

 ルロイは丁寧にアナに
 悪霊を退散させた証書を手渡す。
 純白に証書が輝いているのはなにも
 朝日を浴びているだけではない。
 プロバティオの能力により真実なら白、
 虚実なら赤と証書そのものが
 わずかに光るようになっている。

「本当に助かりました」

 改まって恐縮したように
 アナは証書を受け取る。
 ルロイは気恥ずかし気に
 アナから視線を反らせた。

「いえいえ、私こそ
 昨日の発言を撤回しますよ」

「ほえ?」

「真実を口にすることで
 プロバティオの力がそれを上回った。
 か、いや本当のところは、
 あの場所にメルヴィル氏の墓石が
 あること知らなかったんです。
 あの場所にたどり着いたのは……
 薔薇石ローゼスストーンの力のおかげかなって」

薔薇石ローゼスストーンは、
 死者の念を増幅する。
 あっ――――」

「父の愛は死してなおも、
 薔薇石ローゼスストーンを通して悪霊から娘を救った。
 そして、その役目を果たし終えた
 薔薇石ローゼスストーンは砕け散った。
 そういうことにしときませんか?」

 アナは瞳を潤ませながら
 目をきつく閉じていた。
 ここでの涙は二度もいらないのだった。
 これからはそれに相応しい人間へ
 なれるよう突き進むだけだから。
 未熟な死霊使いは目的を果たし、
 今や新たな出発の時を迎えるだけだった。
 それは今のアナにとって
 新たな出発を意味するはずだ。

「お父様……」

 精一杯涙をこらえた双眸を再び見開き、
 墓石を見守るやアナは
 きつく目をつむった。
 決して涙は流さなかった。
 しばらくの間、
 父とのそしてこの街との別れの
 余韻を味わった後、
 アナは足早に霊園の入り口まで走り
 ルロイに振り返ってみせる。

「今度こそ、立派な死霊使いに
 なってこの街に戻ってきます!」

 アナは笑っていた。
 嘆きのアナではない、
 卑屈さを消し去った屈託のない笑み。

「父メルヴィルの名に恥じないように」

 澄み切った空の下で
 教会の鐘の音が鳴り響く。
 それを合図にマッティ通りの東端に
 面した市の正門が開かれる。
 それぞれの事情でここを訪ねる者、
 去る者、
 それらを利用せんとする者、
 そして見守る者。
 そこに宿る感情も悲喜こもごもだ。
 多くの者が者は富、名声、
 野望を求めてこの街の土を踏むが、
 その多くは挫折と失敗により
 お宝の代わりに失意を抱え
 この街を後にする。
 更にある者は二度と
 故郷の土を踏むことはない。
 それでも今日もまた
 ダンジョン都市レッジョに
 多くの冒険者がやってくる。

 富、名声、野望それぞれの夢を抱いて。
 そう、いつも通りの騒がしい日常が。

「やれやれ、
 今日も一日騒がしくなりそうだ」

 精一杯正門へと走り去ってゆく
 アナの背中を見送りながら、
 ルロイもまた太陽に向かって
 精一杯背伸びをして見せる。
 あくびを一つ、
 脱力しつつルロイは晴れやかに笑う。
 有象無象の愛すべき冒険者を
 助ける魔法公証人の一日が、
 今日も始まりを告げる。
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