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Zessy

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学校祭篇

光を浴びて

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「悪ぃな、ユウ。忙しいのに手伝ってもらって」
「ううん、気にしないで」

 学校祭当日。空き教室の窓に布を貼り、カーテンを締めて簡単な更衣室が用意されていた。脚を怪我して不自由な怜思のために、雄星はメイド服の着替えの手伝いをしていた。手芸部に依頼して縫製されたメイド服はどれもデザインが細かく、サイズもぴったりだった。

「後ろ、しめるね」
「あぁ」

 ジッパーを上げると、怜思の屈強な肉体が上品な漆黒に包まれた。

「苦しくない?」
「大丈夫」

 エプロンの紐を後ろで縛り、怜思を椅子に座らせると、雄星はタイツを一足持って目の前に屈んだ。上靴と靴下を脱がせ、怜思の素足を掬う。爪先まで整えられた綺麗な足に、唇を落としたくなる衝動をぐっと堪えながら、ゆっくりタイツを履かせていった。タイツを引き上げるたび、しーちゃんの呼吸がわずかに揺れた。その息づかいの近さに、指先が震える。布越しに伝わる熱は、制服の頃とはまるで違っていた。捲れている箇所を直して立ち上がり、机の上に置いてあるヘッドドレスを手に取った。

「ちょっとだけ下向いてくれる?」
「ん」

 ヘッドドレスをつけて、髪を整えれば完成だ。

「いいよ、完成」

 鏡を持って見せれば、しーちゃんは満足そうに微笑んだ。

「最高。やるじゃん」
「よかった……、すっごく綺麗だよしーちゃん」

 学校祭でこのクオリティの女装をされたら誰だってビックリすると思う。こんなに体格がいいのに、女性みたいな色気があった。舞台で女性役をしている男性俳優みたいだ。
 きっと色んな人の目を奪うだろう。ちょっとだけ嫌だな……誰の視線にも奪われてほしくない。
 せめて今日くらい、あの笑顔がオレだけのものだったらいいのに。

「ユウ、耳貸して」

 しーちゃんはオレの頬を撫でると、首を少し傾げた。

「……?」

 オレは言われるがままに、しーちゃんの口元へ耳を近づけた。唇が触れそうな距離で吐息がかかる。

「終わった後の着替えで、好きなだけ俺ンこと触っていいぜ……二人きりで」

 周囲に着替えている人がいるにも関わらず、しーちゃんは見えないようにオレの手を軽く握って妖しい笑みを浮かべた。耳が、手が焼けるように熱い。心臓が破裂しそうだった。

「じゃあ、またあとでな」

 石のように固まっているオレを押し退けると、しーちゃんは松葉杖をついてさっさと更衣室から出て行ってしまった。一瞬の出来事過ぎて、オレはその場にしゃがみ込んでしまった。

「……何ソレ」

*

 教室の中は花の香りと甘い菓子の匂いで満ちていた。黒と白のフリルが揺れるたび、笑い声が弾ける。

「ファンサは極力応えてやれよ。変態は即報告な。接客だから愛想よく頼むぜ。あと、全員水分補給忘れンなよ‼特にメイドたち‼」

 怜思の声掛けに、メイドとは程遠い野太い声が上がる。それもこの出し物の醍醐味だ。

「怜思君、写真撮影とか頼まれたら私が受付引き継ぐから言ってね」
「あぁ、ありがとな」

 一般入場が開始され、瞬く間に怜思のクラスに大行列ができた。
 怜思の作戦は入念だった。校内で許可されている張り紙は、事前にコスプレした写真を使用して豪華に仕上げていた。他のクラスのポスターと比較してもその差は歴然だ。

「すごい……‼」
「後は接客だな」

 受付担当の怜思は、慣れた様子で対応していく。客の方が怜思を前にして緊張しているようだった。怜思はこの瞬間が好きで、大層気分が良かった。美しい俺、最高。
 笑い声の渦の中で、自分の声だけが少し遠く聞こえた。それでも笑っていられるように、今日の俺は完璧でいなきゃいけない。

「あの……、写真撮影いいですか?」

 他校の生徒が怜思に声をかけた。怜思は快諾すると、女子生徒からスマホを受け取って優しく肩を抱いた。

「撮るぜ。3…2…1……」

 こんな調子で接客するものだから、怜思目当ての客が続出してしまい、いつしか写真撮影コーナーが爆誕していた。そのお陰もあってか、他の生徒に過度なサービスが求められなくなっていた。

「アイツは将来、ホストになったほうがいいって」
「天職だよ。もうすでに才能の片鱗が見えてるよ」

 クラスメイトも怜思の様子を見ながら呆れる始末だ。実際、怜思は目を輝かせながら沢山の客を口説き落とし続けている。本人の色気が凄いせいか、一歩間違えればいかがわしい店になりかねない。
 一方、怜思だけではなく、絆侍も密かに人気を集めていた。サービス精神旺盛な怜思と対照的な塩対応。不愛想ながらも写真撮影には応じてくれるツンデレ具合が、客の心を掴んでいた。本人は内心、炎のようなストレスと格闘している真っ最中だ。

「怜思君、大丈夫?先にあがってもいいよ?

 伊藤は開店からずっと接客を続けている怜思に声をかけた。ずっと愛想を振りまいて、写真撮影を続けるには相当な気力が必要だ。

「じゃあ、お言葉に甘えて先に着替えるわ。ユウが来たら、ちょっと更衣室借りるな」
「おっけ~」

 学校祭終了まであと1時間だった。怜思は教室に置いてある休憩用のパーテーションの裏へ移動すると、雄星にメッセージを送った。

『着替えるから、教室まで迎えに来て♡』

 スマホの画面に「既読」の文字がつく。それだけで、胸の奥が少し熱くなった。
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