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No21.飛行
しおりを挟む不純物を取り去った私たちは、以前の倍ほど強くなった。
強くなったというと語弊があるかもしれない。
本来の力を発揮することができるようになった、というのが正しいだろう。
思考もクリアになり、魔力の流れを阻害するものも無くなった。
私はティラミのことを天才だと思っている。
しかし、彼女は影しか使わない。使えなかったのだ。
才能と比例しないその用途は、彼女が馬鹿ゆえに宝も持ち腐れとなっているものだと思っていた。
しかし、それは幼い頃からの教育だったのかもしれない。
まるで、ティラミが有能であると誰かが損害を被るかのように。
それは一体誰なのだろうか。
「お姉ちゃぁん、早く行こうよぉ」
監視の取れた私たちは、以前とは別ルートで王国の中へと向かっていた。
王国の入り口は三つある。
隣国から入国しやすいようにと配置されているようなのだ。
私たちは、安直な考えだが一番遠い入り口を目指すことにした。
母が待ち伏せているにしても、奴らよりも早く移動すれば見つかることはない。
「早く行こうって言ってたじゃん~」
ティラミはいつも通り文句をいう。
それは分かっている。
だが、この国に住んでいる奴らと道も知らない私たちでは、やはり、私たちが先に着くというのは困難だろう。
「落ち着きなよ。さっきあんたが言ってたじゃん、三番目の入り口の近くには小さな貧民街があるって」
貧民街。
私たちのせいで襲われたあの村には、申し訳ないことをした。
謝って許されることではないのかもしれない。
この国で、すべきことを終えたら罪を償いに行かなければならない。
私は罪悪感に襲われながらも、ティラミに説明する。
「普通に歩いてもまにあわないだろ? だから、飛ぶ」
「ほへぇ??」
ティラミはわけのわからなさそうな顔をしている。
なんとも察しの悪いやつだ。
「貧民街があるんだろ? それなら、どこも同じように見える森と違って、街があるところを目印に空から攻めれば早く着くだろう」
「そこじゃないよぉ! 飛ぶってどういうこと!?」
ティラミは慌てている。
飛ぶって、飛ぶ以外の意味があっただろうか。
「飛ぶよ。空を」
「だからぁ!」
妹は何やら抗議している。
変わったやつだ。
牢獄にいた時、逃げ出すために転移魔法を作ろうと躍起になっていた時期がある。
結果として失敗に終わった。
転移魔法は、転移先の空間と今いる空間を入れ替えることで実現できる。それ自体は可能なのだが、座標の設定を失敗してしまうと私は真っ二つになってしまう。もしも転移先に人がいたら大変なことになる。
それならば、と私は考えた。
空中なら座標を広くとっても差し支えない。
それでも、できる限り殺生は避けたい。
私は牢獄にいた頃、ネズミに悩まされていた。
ネズミだけではなく、不衛生な環境下で菌の媒介者となる小動物は生命に関わる問題だった。
駆除するのは簡単だが、それでは看守にバレてしまうし、何よりかわいそうだ。
そこで、私は動物が嫌いな臭いを発する魔法を考えた。
一番得意と言っても過言ではない。
「ティラミ、その街はどの方角だ?」
「方角? よくわからないけど、あっちじゃない?」
ティラミは指で北北西を指した。
なるほど。
私はその方角に魔力を込めた。広域呪文だ。
鳥などを巻き込んでしまうと大変なことになる。
『匂袋』
ついでに私とティラミにもかけておく。
「お姉ちゃん……きつい……」
私は聞こえないふりをした。
数分後。私たちは空中にいた。
闊歩するように、不自然に森が抜けている円を目指す。
そこが貧民街、すなわち王国への入り口だろう。
妹が何か叫んでいる。
しかし、その声は虚しくも風にかき消されて私には届かない。
仮に届いたとしても、私は無視するだろうけど。
大方、空気抵抗を直に受けていることに対する不満不平の一種だろう。
空中を経路にすると決めた時点で、それは避けることができないのだ。
もちろん、空気抵抗や温度などの関係で体に損傷が出るといけない。その可能性は考慮している。
魔力で私たちの体への負担は減らしているが、周りに魔力を内在した物質はほとんどない。鳥たちでさえも、私が逃がしてしまった。
私たちはものすごい勢いで移動する。
大砲の砲弾になった気分だ。割と楽しいものではないか。
あ、そういえば着地について考えていなかったな。
どうしよう。
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