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貧乏くじの雑誌記者
日野下寿一②
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五月二十日 木曜日 午後三時十分
日野下は都内の高級ホテルのラウンジでボックス席に座り、猫矢を待っていた。
すでに約束の時間から十分が経過している。
彼の風貌は高級ホテルの中では完全に浮いてしまっており、行き交う人々の視線が居心地を悪くさせていた。
『週刊リアル』は、芸能界やスポーツ界の話題を中心に、スキャンダルからインタビュー記事までジャンルを問わず、さまざまな話題を掲載する総合週刊誌だ。
ネットを中心に話題を集める人物として、猫矢ノアのインタビューが企画されたのだが、あいにく出版社の記者が急病により動けないという事で、日野下へ依頼が回ってきたのだ。
猫矢へアポイントを取るために連絡を取り、適当な会議スペースか彼女の事務所でのインタビューを希望したのだが、返ってきた返事は「高級ホテルのラウンジ」でインタビューをして欲しいというものだった。
しかも「謝礼は要らないから、そのホテルに一泊させろ」という注文まで付けてきたのだ。
ホテル宿泊の件は編集部へ確認を取り、何とか支払いの許可を得ることはできたのだが、インタビューを受ける側が場所を指定し、それも高級ホテルのラウンジだなんて、ちょっと聞いたことが無い。
一体、猫矢ノアとはどのような人物なのだろうと、日野下は落ち着かなかった。
「ちょっと失礼……あなたが日野下さんかしら?」
後ろから声を掛けられ、日野下が振り返ると、ベージュのワンピースに白いジャケット姿の女性が立っていた。
「はい、日野下です。あっ、もしかして猫矢さんですか?」
「ええ、そうですわ」
「これはどうも。初めまして、週間リアルの日野下と申します」
日野下は慌てて立ち上がり、名刺を差し出した。
猫矢は名刺を受け取ったのだが、それには目もくれず日野下の顔をじっと見つめている。
「あの……何か?」
「うん、やっぱりそう。あなた、一度会った事があるわね」
日野下は目をぱちくりとさせた。猫矢ノアと会った記憶など、彼の頭には存在していなかった。
「え……? いや、初対面だと思いますけど……」
「いいえ。私、自慢じゃないけど一度見た人の顔は絶対忘れないの。あなた以前、私の占いサロンに来たことがあるわよ」
占いサロン……そう言われて、日野下はずいぶんと昔の記憶をよみがえらせた。
「あっ! も、もしかして飲み屋街の雑居ビルの?」
「そうそう。あそこで一度占ったことがあるわよね」
確かに日野下は数年前、同僚と飲んだ後に雑居ビルのさびれた占いサロンへ足を運んだことがある。
面白そうだからと半ば強引に連れていかれ、興味のない占いをしてもらったのだ。
今のように小綺麗な装いではなく、申し訳ないが見すぼらしい格好の占い師だったと記憶しているのだが、まさかそれが猫矢だったとは……
しかも、一度来ただけの客の顔を覚えているなんて、恐ろしい記憶力だ。
「失礼、ホットコーヒーをいただけるかしら?」
猫矢との意外な接点とその記憶力に、日野下が面食らっている間に、彼女はしれっと注文を済ませている。
「オホン……すみません。改めまして、今日は取材に応じていただき、ありがとうございます。恐れ入りますが、原稿を書き起こすために会話を録音させていただいても宜しいでしょうか?」
「ええ、構いませんよ」
カバンから取材用のICレコーダーとメモ帳を取り出すと、慣れた手つきで録音を開始し、テーブルへ置いた。
出会って数分も経っていないのだが、日野下はすでに猫矢のペースに飲まれているような気がしていた。
日野下は都内の高級ホテルのラウンジでボックス席に座り、猫矢を待っていた。
すでに約束の時間から十分が経過している。
彼の風貌は高級ホテルの中では完全に浮いてしまっており、行き交う人々の視線が居心地を悪くさせていた。
『週刊リアル』は、芸能界やスポーツ界の話題を中心に、スキャンダルからインタビュー記事までジャンルを問わず、さまざまな話題を掲載する総合週刊誌だ。
ネットを中心に話題を集める人物として、猫矢ノアのインタビューが企画されたのだが、あいにく出版社の記者が急病により動けないという事で、日野下へ依頼が回ってきたのだ。
猫矢へアポイントを取るために連絡を取り、適当な会議スペースか彼女の事務所でのインタビューを希望したのだが、返ってきた返事は「高級ホテルのラウンジ」でインタビューをして欲しいというものだった。
しかも「謝礼は要らないから、そのホテルに一泊させろ」という注文まで付けてきたのだ。
ホテル宿泊の件は編集部へ確認を取り、何とか支払いの許可を得ることはできたのだが、インタビューを受ける側が場所を指定し、それも高級ホテルのラウンジだなんて、ちょっと聞いたことが無い。
一体、猫矢ノアとはどのような人物なのだろうと、日野下は落ち着かなかった。
「ちょっと失礼……あなたが日野下さんかしら?」
後ろから声を掛けられ、日野下が振り返ると、ベージュのワンピースに白いジャケット姿の女性が立っていた。
「はい、日野下です。あっ、もしかして猫矢さんですか?」
「ええ、そうですわ」
「これはどうも。初めまして、週間リアルの日野下と申します」
日野下は慌てて立ち上がり、名刺を差し出した。
猫矢は名刺を受け取ったのだが、それには目もくれず日野下の顔をじっと見つめている。
「あの……何か?」
「うん、やっぱりそう。あなた、一度会った事があるわね」
日野下は目をぱちくりとさせた。猫矢ノアと会った記憶など、彼の頭には存在していなかった。
「え……? いや、初対面だと思いますけど……」
「いいえ。私、自慢じゃないけど一度見た人の顔は絶対忘れないの。あなた以前、私の占いサロンに来たことがあるわよ」
占いサロン……そう言われて、日野下はずいぶんと昔の記憶をよみがえらせた。
「あっ! も、もしかして飲み屋街の雑居ビルの?」
「そうそう。あそこで一度占ったことがあるわよね」
確かに日野下は数年前、同僚と飲んだ後に雑居ビルのさびれた占いサロンへ足を運んだことがある。
面白そうだからと半ば強引に連れていかれ、興味のない占いをしてもらったのだ。
今のように小綺麗な装いではなく、申し訳ないが見すぼらしい格好の占い師だったと記憶しているのだが、まさかそれが猫矢だったとは……
しかも、一度来ただけの客の顔を覚えているなんて、恐ろしい記憶力だ。
「失礼、ホットコーヒーをいただけるかしら?」
猫矢との意外な接点とその記憶力に、日野下が面食らっている間に、彼女はしれっと注文を済ませている。
「オホン……すみません。改めまして、今日は取材に応じていただき、ありがとうございます。恐れ入りますが、原稿を書き起こすために会話を録音させていただいても宜しいでしょうか?」
「ええ、構いませんよ」
カバンから取材用のICレコーダーとメモ帳を取り出すと、慣れた手つきで録音を開始し、テーブルへ置いた。
出会って数分も経っていないのだが、日野下はすでに猫矢のペースに飲まれているような気がしていた。
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