22 / 43
21
しおりを挟む
「ファニーにお願いしますの?」
「そうだ。奴はかなりの変人だが、腕は一流だからな」
グランツはそう答えると、先に馬車を降りオルヘルスに手を差し伸べた。
そこでファニーが満面の笑みで出迎えた。
「待ってたよぉ~。今度はどんなドレスを作らせてくれるわけ~?」
「詳しくは中で話す」
グランツがそう答えると、ファニーは口を尖らせ屋敷内へ案内しながら言った。
「なにさ! もったいぶっちゃって! まぁ、いっか。またペッシュのドレスを作らせてもらえるんだもん! 僕ってばラッキーだよね~」
「そうだ、作らせてやるんだ。文句を言うな」
「は~い、はい」
ファニーは適当な返事をすると、使用人に指示をだして二人を客間に通した。
促されソファに腰かけると、すぐにお茶と軽食がテーブルに並ぶ。
「楽しい話は~、美味しいものを食べなからじゃないとね! んで、本題、本題! 早く早く!!」
そんなファニーを見て、グランツは呆れた顔をして答える。
「本当に落ち着かない奴だな。まぁ、いい。実はオリがカヴァロクラブの乗馬会に行く事になった。だからそれ相応の乗馬服が欲しい」
それを聞いて、ファニーは嬉しそうに目を見開いた。
「本当に?! この前は一通り揃えるだけで、普通の乗馬服をデザインしたけどぉ、それとこれとは段違いだよね~!」
そう言ったあと、突然そのまま動きを止めしばらくしてめをしばたたかせた。
「えっ?! ちょっと待って! 今、粘着王子がさらりと言ったから僕も聞き流しちゃったけど、ペッシュはカヴァロクラブの乗馬会に招待されたの?」
「そうですけれど、なにかありますの?」
オルヘルスがそう返すと、ファニーは目を剥いて叫ぶ。
「はぁ? ペッシュもなんでもないように言ってるけどぉ、それってものすごいことなんじゃないのぉ?!」
すると、グランツはニヤリと笑った。
「まぁな、だがオリなら当然のことだろう。それだけ素晴らしい存在なのだから」
確かに、カヴァロクラブにはほんの一握りの貴族しか会員になれず招待されることもほとんどない。
だが、オルヘルスがグランツの婚約者候補であったり、スノウのオーナーであることを考えたら招待があってもおかしくはないと思っていた。
なのでオルヘルスは、ふたりのこの反応をオーバーに感じた。
「私《わたくし》にはスノウが居るからですわ」
そう答えるとファニーはさらに驚いた顔をした。
「違うって! カヴァロクラブはぁ、成人した男性でそれなりの功績を残さないとダメ! とか、結構厳しいルールがあるんだよ?! それなのにこんなに若い女の子が招待されるなんて前代未聞だよ!」
「そうなんですの?!」
「そうだよぉ~。それにペッシュの愛馬のことで招待されるわけないって! もとはヘンドリクス卿の馬だったわけだしぃ、そしたらヘンドリクス卿が招待されるはずじゃん」
それを受けて、グランツが自慢げに話し始める。
「オリが招待されるのは当然のことだ。なぜなら、愛馬会でスノウが他の馬と違うことを一目見て見抜いていたのだからな」
オルヘルスは慌てて言った。
「殿下、あれはまぐれですわ」
「いや、父にスノウが他の馬とどう違うのか問われた君は、的確にプライモーディアル種の特徴を言い当てていた。それは紛れもない事実だろう? 私も父も、他のものもあの場にいたものは全員プライモーディアル種の特徴を知っていたのに、気づくこともできなかった」
オルヘルスは誉めちぎられ、恥ずかしくなりうつむいて小さな声で言った。
「敬愛する殿下にそれ以上褒められたら、どうにかなってしまいそうですわ」
それを聞いてグランツは目を閉じ眉間を揉むと呟く。
「グランツ、我慢だ……」
オルヘルスはさっと顔を上げると、グランツを見つめ尋ねる。
「えっ? ぐらまー? グラマーって殿下……。えっと、嫌ですわ」
オルヘルスは急にグランツに体格のことを褒められ、さらに恥ずかしくなりうつむく。
グランツは慌てて顔を上げオルヘルスを見て言った。
「いや、違う! いや、違わない。それはたしかなんだが……。いやいや、そうじゃない。まぁ、とにかくだ、君は素晴らしいということだ」
そこでそんなふたりのやり取りを見ていたファニーは苦笑する。
「ペッシュは天然だよね~」
そう言うと、グランツを同情的な眼差しで見つめた。
ファニー曰く、オルヘルスが乗馬しているところを実際に見る必要があるとのことで、しばらくリートフェルト家に滞在し行動をともにすることになった。
これに対してグランツは最初難色を示したが、ファニーがこれから必要なドレスもすべてデザインすると言うと、あきらめてそれを許可した。
そうしてその日から、オルヘルスはファニーと行動を共にした。
だからと言って、ファニーはずっとそばに張り付いているということはなく、付かず離れずの距離にいて、突然なにもない場所で立ち止まりぼんやりしていたり、何事かぶつぶつと呟いていたりと自由に行動していた。
それに、煩わしく思うような行動は絶対とらなかったので、そこまで気にならなかった。
乗馬服を用意してもらっているだけではなく、オルヘルスも熱心に乗馬の訓練を重ねた。
こうして着々と乗馬会の準備を整え、ついに乗馬会の当日を迎えた。
この乗馬会にグランツも招待はされていたが、外せない執務があったため参加できないとのことで、オルヘルスは少し心細く感じていた。
だが、イーファが護衛として一緒に参加してくれるのでそれが心強かった。
当日、乗馬服に身を包み鏡の前でその立ち姿を見つめる。
以前もらった乗馬服もとても動きやすく着やすかったが、この乗馬服はオルヘルスの動きの癖を的確に見てデザインされていた。
着てみると服による動きの制限が抑えられる作りになっていて、ファニーが一流と言われる意味がわかった。
デザインも素晴らしく、全体的に女性らしいラインを強調し、オルヘルスのスタイルをより美しく見せてくれた。
ジャケットも派手さはないが、所々のデザインがとても凝っていてボタン一つにしてもこだわりが感じられる。
それでいてポケットや袖口には女性らしく邪魔にならない程度にレースがあしらわれており、オルヘルスはこのデザインがとても気に入った。
そして、鏡の前で十分立ち姿を確認すると、最後に自分の顔を見つめ、今日は頑張ろうと自分に気合いを入れる。
そんなオルヘルスの背後からオルガが鏡越しに微笑む。
「行ってらっしゃいませ。お嬢様なら大丈夫です」
「ありがとうオルガ。行ってくるわね」
そうしてエントランスへ降りていくと、イーファも乗馬服に身を包んでオルヘルスを待っていた。
「そうだ。奴はかなりの変人だが、腕は一流だからな」
グランツはそう答えると、先に馬車を降りオルヘルスに手を差し伸べた。
そこでファニーが満面の笑みで出迎えた。
「待ってたよぉ~。今度はどんなドレスを作らせてくれるわけ~?」
「詳しくは中で話す」
グランツがそう答えると、ファニーは口を尖らせ屋敷内へ案内しながら言った。
「なにさ! もったいぶっちゃって! まぁ、いっか。またペッシュのドレスを作らせてもらえるんだもん! 僕ってばラッキーだよね~」
「そうだ、作らせてやるんだ。文句を言うな」
「は~い、はい」
ファニーは適当な返事をすると、使用人に指示をだして二人を客間に通した。
促されソファに腰かけると、すぐにお茶と軽食がテーブルに並ぶ。
「楽しい話は~、美味しいものを食べなからじゃないとね! んで、本題、本題! 早く早く!!」
そんなファニーを見て、グランツは呆れた顔をして答える。
「本当に落ち着かない奴だな。まぁ、いい。実はオリがカヴァロクラブの乗馬会に行く事になった。だからそれ相応の乗馬服が欲しい」
それを聞いて、ファニーは嬉しそうに目を見開いた。
「本当に?! この前は一通り揃えるだけで、普通の乗馬服をデザインしたけどぉ、それとこれとは段違いだよね~!」
そう言ったあと、突然そのまま動きを止めしばらくしてめをしばたたかせた。
「えっ?! ちょっと待って! 今、粘着王子がさらりと言ったから僕も聞き流しちゃったけど、ペッシュはカヴァロクラブの乗馬会に招待されたの?」
「そうですけれど、なにかありますの?」
オルヘルスがそう返すと、ファニーは目を剥いて叫ぶ。
「はぁ? ペッシュもなんでもないように言ってるけどぉ、それってものすごいことなんじゃないのぉ?!」
すると、グランツはニヤリと笑った。
「まぁな、だがオリなら当然のことだろう。それだけ素晴らしい存在なのだから」
確かに、カヴァロクラブにはほんの一握りの貴族しか会員になれず招待されることもほとんどない。
だが、オルヘルスがグランツの婚約者候補であったり、スノウのオーナーであることを考えたら招待があってもおかしくはないと思っていた。
なのでオルヘルスは、ふたりのこの反応をオーバーに感じた。
「私《わたくし》にはスノウが居るからですわ」
そう答えるとファニーはさらに驚いた顔をした。
「違うって! カヴァロクラブはぁ、成人した男性でそれなりの功績を残さないとダメ! とか、結構厳しいルールがあるんだよ?! それなのにこんなに若い女の子が招待されるなんて前代未聞だよ!」
「そうなんですの?!」
「そうだよぉ~。それにペッシュの愛馬のことで招待されるわけないって! もとはヘンドリクス卿の馬だったわけだしぃ、そしたらヘンドリクス卿が招待されるはずじゃん」
それを受けて、グランツが自慢げに話し始める。
「オリが招待されるのは当然のことだ。なぜなら、愛馬会でスノウが他の馬と違うことを一目見て見抜いていたのだからな」
オルヘルスは慌てて言った。
「殿下、あれはまぐれですわ」
「いや、父にスノウが他の馬とどう違うのか問われた君は、的確にプライモーディアル種の特徴を言い当てていた。それは紛れもない事実だろう? 私も父も、他のものもあの場にいたものは全員プライモーディアル種の特徴を知っていたのに、気づくこともできなかった」
オルヘルスは誉めちぎられ、恥ずかしくなりうつむいて小さな声で言った。
「敬愛する殿下にそれ以上褒められたら、どうにかなってしまいそうですわ」
それを聞いてグランツは目を閉じ眉間を揉むと呟く。
「グランツ、我慢だ……」
オルヘルスはさっと顔を上げると、グランツを見つめ尋ねる。
「えっ? ぐらまー? グラマーって殿下……。えっと、嫌ですわ」
オルヘルスは急にグランツに体格のことを褒められ、さらに恥ずかしくなりうつむく。
グランツは慌てて顔を上げオルヘルスを見て言った。
「いや、違う! いや、違わない。それはたしかなんだが……。いやいや、そうじゃない。まぁ、とにかくだ、君は素晴らしいということだ」
そこでそんなふたりのやり取りを見ていたファニーは苦笑する。
「ペッシュは天然だよね~」
そう言うと、グランツを同情的な眼差しで見つめた。
ファニー曰く、オルヘルスが乗馬しているところを実際に見る必要があるとのことで、しばらくリートフェルト家に滞在し行動をともにすることになった。
これに対してグランツは最初難色を示したが、ファニーがこれから必要なドレスもすべてデザインすると言うと、あきらめてそれを許可した。
そうしてその日から、オルヘルスはファニーと行動を共にした。
だからと言って、ファニーはずっとそばに張り付いているということはなく、付かず離れずの距離にいて、突然なにもない場所で立ち止まりぼんやりしていたり、何事かぶつぶつと呟いていたりと自由に行動していた。
それに、煩わしく思うような行動は絶対とらなかったので、そこまで気にならなかった。
乗馬服を用意してもらっているだけではなく、オルヘルスも熱心に乗馬の訓練を重ねた。
こうして着々と乗馬会の準備を整え、ついに乗馬会の当日を迎えた。
この乗馬会にグランツも招待はされていたが、外せない執務があったため参加できないとのことで、オルヘルスは少し心細く感じていた。
だが、イーファが護衛として一緒に参加してくれるのでそれが心強かった。
当日、乗馬服に身を包み鏡の前でその立ち姿を見つめる。
以前もらった乗馬服もとても動きやすく着やすかったが、この乗馬服はオルヘルスの動きの癖を的確に見てデザインされていた。
着てみると服による動きの制限が抑えられる作りになっていて、ファニーが一流と言われる意味がわかった。
デザインも素晴らしく、全体的に女性らしいラインを強調し、オルヘルスのスタイルをより美しく見せてくれた。
ジャケットも派手さはないが、所々のデザインがとても凝っていてボタン一つにしてもこだわりが感じられる。
それでいてポケットや袖口には女性らしく邪魔にならない程度にレースがあしらわれており、オルヘルスはこのデザインがとても気に入った。
そして、鏡の前で十分立ち姿を確認すると、最後に自分の顔を見つめ、今日は頑張ろうと自分に気合いを入れる。
そんなオルヘルスの背後からオルガが鏡越しに微笑む。
「行ってらっしゃいませ。お嬢様なら大丈夫です」
「ありがとうオルガ。行ってくるわね」
そうしてエントランスへ降りていくと、イーファも乗馬服に身を包んでオルヘルスを待っていた。
1,086
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
公爵令嬢は結婚式当日に死んだ
白雲八鈴
恋愛
今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。
「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」
突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。
婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。
そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。
その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……
生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。
婚約者とその番という女性に
『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』
そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。
*タグ注意
*不快であれば閉じてください。
侯爵家の婚約者
やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。
7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。
その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。
カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。
家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。
だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。
17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。
そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。
全86話+番外編の予定
悪役令息(冤罪)が婿に来た
花車莉咲
恋愛
前世の記憶を持つイヴァ・クレマー
結婚等そっちのけで仕事に明け暮れていると久しぶりに参加した王家主催のパーティーで王女が婚約破棄!?
王女が婚約破棄した相手は公爵令息?
王女と親しくしていた神の祝福を受けた平民に嫌がらせをした?
あれ?もしかして恋愛ゲームの悪役令嬢じゃなくて悪役令息って事!?しかも公爵家の元嫡男って…。
その時改めて婚約破棄されたヒューゴ・ガンダー令息を見た。
彼の顔を見た瞬間強い既視感を感じて前世の記憶を掘り起こし彼の事を思い出す。
そうオタク友達が話していた恋愛小説のキャラクターだった事を。
彼が嫌がらせしたなんて事実はないという事を。
その数日後王家から正式な手紙がくる。
ヒューゴ・ガンダー令息と婚約するようにと「こうなったらヒューゴ様は私が幸せする!!」
イヴァは彼を幸せにする為に奮闘する。
「君は…どうしてそこまでしてくれるんだ?」「貴方に幸せになってほしいからですわ!」
心に傷を負い悪役令息にされた男とそんな彼を幸せにしたい元オタク令嬢によるラブコメディ!
※ざまぁ要素はあると思います。
※何もかもファンタジーな世界観なのでふわっとしております。
婚約破棄に、承知いたしました。と返したら爆笑されました。
パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢カルルは、ある夜会で王太子ジェラールから婚約破棄を言い渡される。しかし、カルルは泣くどころか、これまで立て替えていた経費や労働対価の「莫大な請求書」をその場で叩きつけた。
婚約破棄された公爵令嬢は冤罪で地下牢へ、前世の記憶を思い出したので、スキル引きこもりを使って王子たちに復讐します!
山田 バルス
ファンタジー
王宮大広間は春の祝宴で黄金色に輝き、各地の貴族たちの笑い声と音楽で満ちていた。しかしその中心で、空気を切り裂くように響いたのは、第1王子アルベルトの声だった。
「ローゼ・フォン・エルンスト! おまえとの婚約は、今日をもって破棄する!」
周囲の視線が一斉にローゼに注がれ、彼女は凍りついた。「……は?」唇からもれる言葉は震え、理解できないまま広間のざわめきが広がっていく。幼い頃から王子の隣で育ち、未来の王妃として教育を受けてきたローゼ――その誇り高き公爵令嬢が、今まさに公開の場で突き放されたのだ。
アルベルトは勝ち誇る笑みを浮かべ、隣に立つ淡いピンク髪の少女ミーアを差し置き、「おれはこの天使を選ぶ」と宣言した。ミーアは目を潤ませ、か細い声で応じる。取り巻きの貴族たちも次々にローゼの罪を指摘し、アーサーやマッスルといった証人が証言を加えることで、非難の声は広間を震わせた。
ローゼは必死に抗う。「わたしは何もしていない……」だが、王子の視線と群衆の圧力の前に言葉は届かない。アルベルトは公然と彼女を罪人扱いし、地下牢への収監を命じる。近衛兵に両腕を拘束され、引きずられるローゼ。広間には王子を讃える喝采と、哀れむ視線だけが残った。
その孤立無援の絶望の中で、ローゼの胸にかすかな光がともる。それは前世の記憶――ブラック企業で心身をすり減らし、引きこもりとなった過去の記憶だった。地下牢という絶望的な空間が、彼女の心に小さな希望を芽生えさせる。
そして――スキル《引きこもり》が発動する兆しを見せた。絶望の牢獄は、ローゼにとって新たな力を得る場となる。《マイルーム》が呼び出され、誰にも侵入されない自分だけの聖域が生まれる。泣き崩れる心に、未来への決意が灯る。ここから、ローゼの再起と逆転の物語が始まるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる