悪役令嬢は救国したいだけなのに、いつの間にか攻略対象と皇帝に溺愛されてました

みゅー

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第百五十話 謝罪

「なにかあったのか?」

 アウルスは執務室に尋ねてくるなり、挨拶もなしにそう言った。

「急に呼び出してしまってごめんなさい。そこまで大事ではないんですの。イーデンから報告があったものだから共有しておきたいと思いまして」

「そうか、君から私を呼び出すなんてあまりないことだったから少し驚いてしまった」

 それもそうだろう。表向き特使ということにはなっているが、アウルスは皇帝なのだ。おいそれと呼び出すのは流石にはばかられた。

「アズルは心配しすぎですわ。とりあえず座りましょう」

「君は自分がチューベローズに狙われていると言うことを忘れてはいけない」

 そう言ってアウルスは苦笑しながらソファに腰かけた。

「わかってますわ。それで、イーデンの報告書なのですけれど」

 そう言ってアルメリアはイーデンの報告書をテーブルの上に置く。

 アウルスはそれを手に取ると、素早く目を通す。

「彼はうまくやっているようだね」

「本当に。ですけど上手くやりすぎですわ。彼は何者ですの?」

 アルメリアの鋭い質問にアウルスは一瞬たじろいだ。そして、逡巡したのち答える。

「元特殊軍隊情報部の人間だ」

「やっぱり普通の兵士ではなかったのですわね。で、今はクンシラン領の人間で間違いないのかしら?」

「元と言っただろう? 彼の身柄は君に渡したのだから、もちろんクンシラン領の人間だ」

 アルメリアはため息をつくと言った。

「よくあんなにも優秀な人間を手放しましたわね。わたくしが彼をどうにかしていたらどうするつもりでしたの?」

 アウルスは満面の笑みを浮かべて答える。

「君がそんな人間でないことを知っているからね、それに君なら彼の才能を見抜いてうまく使うだろうと思っていた。思っていた以上にうまく使ってくれているようだが」

「彼を帝国に戻すことはできませんでしたの?」

「戻すことも不可能ではないが、できれば君の元へ優秀な人材を置いておきたかった」

「護衛ということですの?」

「そんなところかな。彼は真面目な人間だから一度忠誠を誓えばその人間に付属し余程のことでなければ寝返ることはない。アンジー、君は否定するかもしれないが、君はとても尊敬できる人間だ。今さら私が彼を取り込もうとしても、彼は絶対に君を裏切らないだろうね」

「それは……とにかく彼のことは信じてますわ」

 話がそれてしまったので、アルメリアは本題に戻す。

「ところで、これからイーデンをどう動かすか相談したかったんですの。城下へきたならイーデンが独自にわたくしのことを調べて、ある情報を手に入れた。ということにして、わたくしが横領しているという偽の証拠をダチュラに流そうと思ってますの」

「そうか、ならば帝国の特使である私と組んで横領をしていることにすればいい……。だが、それには一つ問題があるな」

「なんですの?」

「私も独自にその令嬢を調べてみたのだが、どうも厄介なことに皇帝の顔を知っているようなんだ」

 アルメリアは驚いて質問する。

「アズル、貴男はダチュラに会ったことがありますの?」

「ない。なのに私のことを、特に私の容姿について詳しく知っているような言動を取っている。そこで考えたのだが、君の前世の話しに私のことが書かれているのではないか?」

 そう質問されアルメリアは、ゲーム内でロベリアを救国できずにバッドエンディングを迎えたときのことを思い出した。
 バッドエンディングを迎えると、帝国に侵略されロベリア国が帝国に吸収されるのだが、そのスチルに皇帝が描かれるのだ。

「サイドストーリーのようなものがあるんですの、そこで皇帝が少し出てきますわ」

「そうか、それで知っているのかもしれないね。ならば私はその令嬢に会わないようにしなければならないな。その令嬢に私の身元がばれてしまっては、横領の件が嘘だとばれてしまうだろうからね」

「そうですわね、鉢合わせしないように気を付けた方がいいですわね」

 するとアウルスが咳払いをして言った。

「ところで、先日のことなんだが」

「先日?」

 アルメリアはなにを指して言っているのかわからず、しばらく考えた。そんなアルメリアを見ながらアウルスは苦笑して答える。

「よかった、君はそんなに気にしていないようだ。君がムスカリと婚約した日のことだ。あの日のことを謝りたい」

 突然一番触れたくない話題をだされてアルメリアは戸惑った。

「謝るようなことは……」

「いや、君が婚約したと聞いて私もだいぶ動揺してしまっていたようだ。君を責めるようなことを言ってしまった。本当に申し訳なかった。君はこの国の公爵令嬢として当然の義務を果たしただけだというのに」

 どう答えて良いかわからず無言でいると、アウルスは優しく言った。

「それに婚約したからと言って、君が今すぐに婚姻をするわけではない。いつも冷静沈着でいなければならない立場だというのに、君のこととなると私はどうも判断が鈍るらしい」

 そう言って、自嘲気味に笑った。アルメリアはそんなアウルスを見ながら、こんなに自分の目の前では皇帝としてではなく、一人の人間として接してくれるアウルスが、自分の娘を隠すような嘘をつくとは思えず複雑な気持ちになった。

 不安な感情が表情に出ていたのか、アウルスは言った。

「きっと婚姻までには数年の猶予はあるはずだ。それに、こんなときに君だって他のことを考えている余裕などないだろう? それなのに君を責めるなんてどうかしていた。君を守りたいと思っているのに、本当に酷いことをしてしまった」

「謝る必要はないですわ。わたくしもあのときは感情的だったと思いますし。でも、今はその……、色々なことを考えている余裕がないのも確かですわ」

「そうだろうね、私たちのことはあとでゆっくり考えるといい。大丈夫、なにかあっても私が君を守るから安心して」

 そう言ってアウルスはアルメリアの頬にそっとキスをした。そして、微笑むと言った。

「君は自分の身の安全を第一に考えるんだ」

 アウルスはそう言ってアルメリアの頬を撫でると立ち上がった。

「これ以上、ここにいると君をどうにかしてしまいそうだ。私はこれで失礼するよ」

 そう言うとアルメリアに向き直る。

「なにかあればいつでも呼んでいい、遠慮する必要はない。いいね?」

 アルメリアは無言で頷いた。

「では、失礼する」

 そう言って去っていった。

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