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第百五十三話 もう一度誓いを
リカオンからの突然の告白に、アルメリアは驚いて言葉が出なかった。リカオンがアルメリアに忠誠の誓いを立ててからは、敬意を示してくれていることは理解していた。なので、珊瑚のブローチをもらっても感謝の印だと思い込み、好意の表れだとは思わなかった。
それに好意を寄せてくれているとしても、アルメリアはリカオンの気持ちには答えられないと思った。
「リカオン、でも私は」
「はい、わかっています。貴女は自分を殺し政治的な婚姻をしようとしている。きっとこうなることはわかっていました」
アルメリアはどう答えて良いかわからず、言葉を失った。そんなアルメリアを悲しげに見つめながらリカオンは言った。
「そんな貴女に僕の気持ちに答えて欲しいなんて、言えますか? 言えるわけがないんです。僕は、だから僕は貴女のそばにいてなにがあろうと貴女を支えることを選んだのです」
そしてアルメリアの前に立つと、跪きアルメリアを見上げ懇願するように言う。
「ですからせめて、せめて、ずっとおそばにいさせてください。僕はそれ以外、それ以上望むものはありません」
「リカオン、そんな悲しいことを言ってはいけませんわ。私に縛られず、リカオンには自由にしていて欲しいんですの」
そう返すが、リカオンはアルメリアの手を取りじっと見つめたままそこから動こうとしない。そんなリカオンを見てなおも説得を試みる。
「貴男は若いのですしもっと広い世界へ出て、視野を広げたほうがいいですわ。それに、あとから後悔するかもしれませんわよ?」
それでもリカオンは一向に諦める様子がなかった。
アルメリアは諦めて言った。
「わかりましたわ、でももし気が変わったらいつでも言ってちょうだい」
リカオンは微笑むと、アルメリアの手を取った。
「ありがとう御座います。僕はこれでやっと本当の意味で貴女に忠誠を誓えます」
そう言うと真っ直ぐ真剣な眼差しでアルメリアを見つめる。
「リカオン・ラ・オルブライト身も心も全てをアルメリア、貴女に捧げます。この命に変えてもお嬢様をお守りし、一生おそばにおります。このこころはいつも貴女のそばに……。貴女に永遠に変わらぬ忠誠と心からの愛を誓います」
そう言ってアルメリアの薬指にキスをすると、顔を上げて言った。
「おそばにいることを了承したからには、責任を取って下さいねお嬢様。僕の気が変わるなんて絶対にあり得ませんから。将来なにがあっても絶対にお嬢様を一人にすることはありません」
そう言うと、スックと立ち上がった。そして、はにかむと咳払いをした。
「お嬢様、僕のせいで本日の執務が滞ってしまって申し訳御座いませんでした。僕はお茶のお代わりを用意いたしますので、執務にお戻り下さい」
突然そう言われて、アルメリアは戸惑いリカオンから視線を反らして言った。
「そ、そうですわね……」
そう答えてから、そっとリカオンの顔を盗み見た。リカオンはとても熱のこもった視線でアルメリアを見つめており、アルメリアと目が合うとふっと笑った。
アルメリアは思わずまた目を反らして、素知らぬ顔で机に向かい書類を読み始めるが、気配でなんとなくリカオンが自分を見つめていることがわかり、緊張してぎこちない動きになった。
そうしてしばらく書類に目を通しているとドアの閉まる音がしたので、リカオンが執務室から出ていったとわかった。
アルメリアは顔を上げると大きく息を吐く。
「アウルスもリアムもリカオンも……これは一体どういう状況ですの?」
そう呟くと、アルメリアはどうしたらよいかわからなくなって机に突っ伏した。
その後いくら執務に専念しようとしても、落ち着かず集中できなかったアルメリアは、一度気持ちを整理し落ち着かせるため、少し外の空気を吸いに城の中庭を散歩することにした。
アルメリアが留守番を頼むとリカオンは少しだけ悲しげな顔をしたが、すぐに微笑んだ。
「そうですか。ペルシックはとても武術に長けておりますから、彼が護衛にいれば問題はないでしょう。お嬢様、お気をつけていってらっしゃいませ」
そう言って見送ってくれた。
ペルシックを伴って中庭を歩いていると、中庭に差し込む柔らかな日差しが花々を照らしている。
ちょうどそれらを楽しめるように向かいにガゼボがあるので、アルメリアはそこへ腰掛けると大きくため息をついた。
「お嬢様、ただいま膝掛けとお茶の御用意を致しましょう」
日差しは暖かいものの、まだまだ寒い時期だったので有り難く思いながら頷いた。
そういえばなにも考えずに、誰とも話すこともなく、一人きりでゆっくりとぼんやりする時間を過ごしたのはいつ以来かしら?
そう思っていると、そっと目の前に香りのよい暖かなお茶が供されペルシックがアルメリアの膝に膝掛けをかけてくれた。
「爺、いつも本当にありがとう」
「お嬢様、私ごときに勿体無いお言葉で御座います。では、失礼いたします」
ペルシックは一礼すると下がっていった。
その背中に向かって、本人には聞こえないように小さな声で呟く。
「爺、貴男にはどれだけ感謝してもしきれないぐらいですわ」
そうして目の前のお茶の香りを楽しみながら、アルメリアは前世の記憶が甦ってからのことを思い出していた。
お金もない中、苦労して試行錯誤しながら領民と一緒に檸檬栽培をしたことや、領地のインフラ整備に手をつけたこと。ペルシックと出会えたこと。
フランチャイズ展開をし、それによってアドニスやリアム、スパルタカスに出会い、登城するようになったこと。
そこでリカオンに出会い、殿下に親しくしてもらうようにもなった。
更には相談役として騎士団の編成にも関わり、パウエル侯爵と親しくなり、怪我の治療でフィルブライト公爵とも親しくなった。
ヒフラでアウルスと出会い、ツルスではヘンリーとアドニスとの仲を取り持ったりもした。
それら全ての行動の原動力となったのは、シルを探し救いたいというアルメリアの気持ちがあったからこそだった。
それらの努力が実を結び、信頼や様々な繋がりを生んだことで、やっとその目的を達成することができるかもしれない。
残念なことにルクとはもう会うことはできないが、スカビオサの悪事を暴くことができればきっと、孤児たちの情報が開示されシルの居場所もわかるだろう。
それに好意を寄せてくれているとしても、アルメリアはリカオンの気持ちには答えられないと思った。
「リカオン、でも私は」
「はい、わかっています。貴女は自分を殺し政治的な婚姻をしようとしている。きっとこうなることはわかっていました」
アルメリアはどう答えて良いかわからず、言葉を失った。そんなアルメリアを悲しげに見つめながらリカオンは言った。
「そんな貴女に僕の気持ちに答えて欲しいなんて、言えますか? 言えるわけがないんです。僕は、だから僕は貴女のそばにいてなにがあろうと貴女を支えることを選んだのです」
そしてアルメリアの前に立つと、跪きアルメリアを見上げ懇願するように言う。
「ですからせめて、せめて、ずっとおそばにいさせてください。僕はそれ以外、それ以上望むものはありません」
「リカオン、そんな悲しいことを言ってはいけませんわ。私に縛られず、リカオンには自由にしていて欲しいんですの」
そう返すが、リカオンはアルメリアの手を取りじっと見つめたままそこから動こうとしない。そんなリカオンを見てなおも説得を試みる。
「貴男は若いのですしもっと広い世界へ出て、視野を広げたほうがいいですわ。それに、あとから後悔するかもしれませんわよ?」
それでもリカオンは一向に諦める様子がなかった。
アルメリアは諦めて言った。
「わかりましたわ、でももし気が変わったらいつでも言ってちょうだい」
リカオンは微笑むと、アルメリアの手を取った。
「ありがとう御座います。僕はこれでやっと本当の意味で貴女に忠誠を誓えます」
そう言うと真っ直ぐ真剣な眼差しでアルメリアを見つめる。
「リカオン・ラ・オルブライト身も心も全てをアルメリア、貴女に捧げます。この命に変えてもお嬢様をお守りし、一生おそばにおります。このこころはいつも貴女のそばに……。貴女に永遠に変わらぬ忠誠と心からの愛を誓います」
そう言ってアルメリアの薬指にキスをすると、顔を上げて言った。
「おそばにいることを了承したからには、責任を取って下さいねお嬢様。僕の気が変わるなんて絶対にあり得ませんから。将来なにがあっても絶対にお嬢様を一人にすることはありません」
そう言うと、スックと立ち上がった。そして、はにかむと咳払いをした。
「お嬢様、僕のせいで本日の執務が滞ってしまって申し訳御座いませんでした。僕はお茶のお代わりを用意いたしますので、執務にお戻り下さい」
突然そう言われて、アルメリアは戸惑いリカオンから視線を反らして言った。
「そ、そうですわね……」
そう答えてから、そっとリカオンの顔を盗み見た。リカオンはとても熱のこもった視線でアルメリアを見つめており、アルメリアと目が合うとふっと笑った。
アルメリアは思わずまた目を反らして、素知らぬ顔で机に向かい書類を読み始めるが、気配でなんとなくリカオンが自分を見つめていることがわかり、緊張してぎこちない動きになった。
そうしてしばらく書類に目を通しているとドアの閉まる音がしたので、リカオンが執務室から出ていったとわかった。
アルメリアは顔を上げると大きく息を吐く。
「アウルスもリアムもリカオンも……これは一体どういう状況ですの?」
そう呟くと、アルメリアはどうしたらよいかわからなくなって机に突っ伏した。
その後いくら執務に専念しようとしても、落ち着かず集中できなかったアルメリアは、一度気持ちを整理し落ち着かせるため、少し外の空気を吸いに城の中庭を散歩することにした。
アルメリアが留守番を頼むとリカオンは少しだけ悲しげな顔をしたが、すぐに微笑んだ。
「そうですか。ペルシックはとても武術に長けておりますから、彼が護衛にいれば問題はないでしょう。お嬢様、お気をつけていってらっしゃいませ」
そう言って見送ってくれた。
ペルシックを伴って中庭を歩いていると、中庭に差し込む柔らかな日差しが花々を照らしている。
ちょうどそれらを楽しめるように向かいにガゼボがあるので、アルメリアはそこへ腰掛けると大きくため息をついた。
「お嬢様、ただいま膝掛けとお茶の御用意を致しましょう」
日差しは暖かいものの、まだまだ寒い時期だったので有り難く思いながら頷いた。
そういえばなにも考えずに、誰とも話すこともなく、一人きりでゆっくりとぼんやりする時間を過ごしたのはいつ以来かしら?
そう思っていると、そっと目の前に香りのよい暖かなお茶が供されペルシックがアルメリアの膝に膝掛けをかけてくれた。
「爺、いつも本当にありがとう」
「お嬢様、私ごときに勿体無いお言葉で御座います。では、失礼いたします」
ペルシックは一礼すると下がっていった。
その背中に向かって、本人には聞こえないように小さな声で呟く。
「爺、貴男にはどれだけ感謝してもしきれないぐらいですわ」
そうして目の前のお茶の香りを楽しみながら、アルメリアは前世の記憶が甦ってからのことを思い出していた。
お金もない中、苦労して試行錯誤しながら領民と一緒に檸檬栽培をしたことや、領地のインフラ整備に手をつけたこと。ペルシックと出会えたこと。
フランチャイズ展開をし、それによってアドニスやリアム、スパルタカスに出会い、登城するようになったこと。
そこでリカオンに出会い、殿下に親しくしてもらうようにもなった。
更には相談役として騎士団の編成にも関わり、パウエル侯爵と親しくなり、怪我の治療でフィルブライト公爵とも親しくなった。
ヒフラでアウルスと出会い、ツルスではヘンリーとアドニスとの仲を取り持ったりもした。
それら全ての行動の原動力となったのは、シルを探し救いたいというアルメリアの気持ちがあったからこそだった。
それらの努力が実を結び、信頼や様々な繋がりを生んだことで、やっとその目的を達成することができるかもしれない。
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