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第百七十一話 ムスカリ
「殿下? 笑い事ではありませんわ!」
ムスカリはなんとか笑いをこらえると言った。
「すまない、君があまりにも自覚なく物事を解決していたものだから、君らしいと思って笑ってしまった」
アルメリアは小首をかしげた。
「どういうことですの?」
「確かもう一人身近で同じ病になったものがいただろう? 君はそれを解決している」
アルメリアは少し考えて答える。
「お母様のことですの?」
「そうだ。これは公には発表されていないのだが、父も同じ病を患っていた。グレンはそれを知っていたから、君からその病の治療法を聞いたときすぐに父に報告にきたのだ」
そこでアルメリアは気づいた。
「では国王陛下が父とツルスにいらせられたのは……」
「そうだ、病気療養のためだった。君が丁寧に治療法を教えてくれたから、それにしたがったわけだ。父は君に命を救われたようなものだな」
「それは大袈裟ですわ。私は母を守ろうとしただけですもの。それにしても恐ろしいですわ、ダチュラは国王陛下を亡きものにして殿下に取り入り、国を操ろうとしていたのかもしれませんもの」
「そうだな、だが君のお陰でそれは食い止められた。君は伝承の救国の乙女ではないのか?」
突拍子もない質問に、アルメリアは思わず笑ってしまった。
「それはないですわね。それに私が病を治療しなかったとしても、殿下がダチュラに騙されることなんて絶対にありえませんもの。ダチュラの計画は失敗したはずですわ、断言できます。それに私はどこへも行きませんから、伝承からも外れてますわ」
「そうか? 君はすべてが終わったら帝国に行ってしまうのではないのか?」
まさかムスカリがそんなことを言うとは思わず、アルメリアは驚いてムスカリを見つめる。
「なぜそんなことを?」
「君は皇帝を、あの男を愛しているのだろう?」
そう言われアルメリアはどきりとした。そして先日のことを思いだし胸が締め付けられた。
どんなにアウルスを思い愛していてもアウルスは自分を見ることはない。アウルスは仮初めの花嫁として自分を欲しているだけなのだ。
帝国へアウルスを追いかけて行ったとしても、その現実が変わるわけはない。アウルスは表面上優しくしてくれるかもしれないが、アルメリアを愛することは決してないのだ。
つらい現実を思いだし、アルメリアはそこから目を背けようとした。
「殿下、こんなこと話すのはやめましょう」
アルメリアはそう言って顔を背けると、この話を終わらせようとした。だが、ムスカリはアルメリアの腕をつかみ自分の方へ向かせると言った。
「いやダメだ。なぜなら今君はあの男に苦しめられ落ち込んでいるからだ。ずっと見ていたのだからわかる。そうなんだろう?」
そう言うと、体を前にのりだしアルメリアの横に手をついた。
アルメリアは少し後ろへ下がりながら答える。
「違いますわ。そんなことありません」
ムスカリはそう言うアルメリアの方へ体を更にのりだし、顔を近づけた。
「違わない、君は傷ついている。なぜあの男なんだ? 彼は君を傷つけないがしろにしているというのに……」
アウルスとの晩餐会の夜から目を背け考えないようにしてきたことを、ムスカリにはっきり突きつけられついに我慢できなくなり、アルメリアは思わずぽろぽろと涙をこぼし堰を切ったように言った。
「そうですわ。でもだからってどうしようもないではありませんか! 私にどうしろというのですか? 殿下は婚約者として私に同情し、なぐさめてくださるとでも仰有るのですか?」
すると突然、ムスカリは思い切りアルメリアを引き寄せ抱き締めた。
「私がいるではないか! 私ではダメなのか? 婚約者だからではない。同情なんかでもない。君を愛しているんだ」
アルメリアは驚いた。大切にしてもらっていることはわかっていたが、まさか本当にムスカリが自分を愛してくれているとは思っていなかったからだ。そして、このタイミングでそれを告げられ激しく動揺した。
アルメリアはムスカリから少し体を離し顔を見上げると言った。
「殿下、酷いですわ今それを言うなんて、落ち込んでいるときにそんなこと……」
「だからこそだ、私は君が落ち込んでいるのにつけこんでいる。卑怯だと言われようとなんだろうと、私は君を手に入れられるならなんだってするつもりだ」
そう言うとムスカリはアルメリアの顔をじっと見つめた。
「アルメリア、私は君を愛している。大切にしたい、ずっと一緒にいたい、君を独り占めしたい。愛しているんだ……」
そこでアルメリアは、ムスカリも自分同様に苦しい思いをしていることに気づき思わず顔を反らした。
「ごめんなさい……」
「謝らないでくれ。君が傷つけられ寂しさから私を選ぼうが、同情で私を選ぼうがどちらでも構わない。だがそばにいればいつかその気持ちが本物になるかもしれないだろう? 私はそれでもかまわないんだよ。君がそばにいてくれるならね」
そう言ってもう一度強く抱き締め耳元で囁く。
「私は君が欲しい」
アルメリアはムスカリの胸の中でゆっくり首を振る。
「わからないですわ。今はもうなにも……」
「そうだろうな、アルメリア……君に気持ちをぶつけてしまってすまない。でも、私の君に対するこの気持ちは本物だ。それだけは、これ以上否定しないでくれ」
「はい……」
そうして体を離すとムスカリは、アルメリアをじっと見つめもう一度言った。
「愛してる」
ムスカリの告白にアルメリアは強く気持ちが揺さぶられた。そして、どう答えれば良いかわからなくなった。自分が今動揺しているのはムスカリを愛し始めたからなのか、それとも自分が落ち込んでいるから気持ちが揺れてしまっているだけなのか、答えが出せなかった。
そんな動揺した様子を見てムスカリは悲しげに微笑むと、アルメリアの額にキスをした。
「私は君がつらいとき、君の一番の支えでありたい。君が泣きたいときは私の前では、強がらずに泣いてほしい」
ムスカリは優しくそう言うと、もう一度アルメリアを抱き締めた。
アルメリアはその優しさに涙が止まらなくなってしまい、そのままムスカリの胸の中で泣き続けた。
そして思う。どうして私は、殿下を愛さずアウルスを愛してしまったのだろう、と。
ムスカリはなんとか笑いをこらえると言った。
「すまない、君があまりにも自覚なく物事を解決していたものだから、君らしいと思って笑ってしまった」
アルメリアは小首をかしげた。
「どういうことですの?」
「確かもう一人身近で同じ病になったものがいただろう? 君はそれを解決している」
アルメリアは少し考えて答える。
「お母様のことですの?」
「そうだ。これは公には発表されていないのだが、父も同じ病を患っていた。グレンはそれを知っていたから、君からその病の治療法を聞いたときすぐに父に報告にきたのだ」
そこでアルメリアは気づいた。
「では国王陛下が父とツルスにいらせられたのは……」
「そうだ、病気療養のためだった。君が丁寧に治療法を教えてくれたから、それにしたがったわけだ。父は君に命を救われたようなものだな」
「それは大袈裟ですわ。私は母を守ろうとしただけですもの。それにしても恐ろしいですわ、ダチュラは国王陛下を亡きものにして殿下に取り入り、国を操ろうとしていたのかもしれませんもの」
「そうだな、だが君のお陰でそれは食い止められた。君は伝承の救国の乙女ではないのか?」
突拍子もない質問に、アルメリアは思わず笑ってしまった。
「それはないですわね。それに私が病を治療しなかったとしても、殿下がダチュラに騙されることなんて絶対にありえませんもの。ダチュラの計画は失敗したはずですわ、断言できます。それに私はどこへも行きませんから、伝承からも外れてますわ」
「そうか? 君はすべてが終わったら帝国に行ってしまうのではないのか?」
まさかムスカリがそんなことを言うとは思わず、アルメリアは驚いてムスカリを見つめる。
「なぜそんなことを?」
「君は皇帝を、あの男を愛しているのだろう?」
そう言われアルメリアはどきりとした。そして先日のことを思いだし胸が締め付けられた。
どんなにアウルスを思い愛していてもアウルスは自分を見ることはない。アウルスは仮初めの花嫁として自分を欲しているだけなのだ。
帝国へアウルスを追いかけて行ったとしても、その現実が変わるわけはない。アウルスは表面上優しくしてくれるかもしれないが、アルメリアを愛することは決してないのだ。
つらい現実を思いだし、アルメリアはそこから目を背けようとした。
「殿下、こんなこと話すのはやめましょう」
アルメリアはそう言って顔を背けると、この話を終わらせようとした。だが、ムスカリはアルメリアの腕をつかみ自分の方へ向かせると言った。
「いやダメだ。なぜなら今君はあの男に苦しめられ落ち込んでいるからだ。ずっと見ていたのだからわかる。そうなんだろう?」
そう言うと、体を前にのりだしアルメリアの横に手をついた。
アルメリアは少し後ろへ下がりながら答える。
「違いますわ。そんなことありません」
ムスカリはそう言うアルメリアの方へ体を更にのりだし、顔を近づけた。
「違わない、君は傷ついている。なぜあの男なんだ? 彼は君を傷つけないがしろにしているというのに……」
アウルスとの晩餐会の夜から目を背け考えないようにしてきたことを、ムスカリにはっきり突きつけられついに我慢できなくなり、アルメリアは思わずぽろぽろと涙をこぼし堰を切ったように言った。
「そうですわ。でもだからってどうしようもないではありませんか! 私にどうしろというのですか? 殿下は婚約者として私に同情し、なぐさめてくださるとでも仰有るのですか?」
すると突然、ムスカリは思い切りアルメリアを引き寄せ抱き締めた。
「私がいるではないか! 私ではダメなのか? 婚約者だからではない。同情なんかでもない。君を愛しているんだ」
アルメリアは驚いた。大切にしてもらっていることはわかっていたが、まさか本当にムスカリが自分を愛してくれているとは思っていなかったからだ。そして、このタイミングでそれを告げられ激しく動揺した。
アルメリアはムスカリから少し体を離し顔を見上げると言った。
「殿下、酷いですわ今それを言うなんて、落ち込んでいるときにそんなこと……」
「だからこそだ、私は君が落ち込んでいるのにつけこんでいる。卑怯だと言われようとなんだろうと、私は君を手に入れられるならなんだってするつもりだ」
そう言うとムスカリはアルメリアの顔をじっと見つめた。
「アルメリア、私は君を愛している。大切にしたい、ずっと一緒にいたい、君を独り占めしたい。愛しているんだ……」
そこでアルメリアは、ムスカリも自分同様に苦しい思いをしていることに気づき思わず顔を反らした。
「ごめんなさい……」
「謝らないでくれ。君が傷つけられ寂しさから私を選ぼうが、同情で私を選ぼうがどちらでも構わない。だがそばにいればいつかその気持ちが本物になるかもしれないだろう? 私はそれでもかまわないんだよ。君がそばにいてくれるならね」
そう言ってもう一度強く抱き締め耳元で囁く。
「私は君が欲しい」
アルメリアはムスカリの胸の中でゆっくり首を振る。
「わからないですわ。今はもうなにも……」
「そうだろうな、アルメリア……君に気持ちをぶつけてしまってすまない。でも、私の君に対するこの気持ちは本物だ。それだけは、これ以上否定しないでくれ」
「はい……」
そうして体を離すとムスカリは、アルメリアをじっと見つめもう一度言った。
「愛してる」
ムスカリの告白にアルメリアは強く気持ちが揺さぶられた。そして、どう答えれば良いかわからなくなった。自分が今動揺しているのはムスカリを愛し始めたからなのか、それとも自分が落ち込んでいるから気持ちが揺れてしまっているだけなのか、答えが出せなかった。
そんな動揺した様子を見てムスカリは悲しげに微笑むと、アルメリアの額にキスをした。
「私は君がつらいとき、君の一番の支えでありたい。君が泣きたいときは私の前では、強がらずに泣いてほしい」
ムスカリは優しくそう言うと、もう一度アルメリアを抱き締めた。
アルメリアはその優しさに涙が止まらなくなってしまい、そのままムスカリの胸の中で泣き続けた。
そして思う。どうして私は、殿下を愛さずアウルスを愛してしまったのだろう、と。
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