189 / 190
第百八十七話 諦めるわけがない
しおりを挟む
「そうだ。クンシラン領のヒフラと隣のライオネル領のテイニの二つの土地を合わせると、羊の頭の形になる。私がヒフラの孤児院にいたころ、奴らはこの土地をヨベルと呼んでいた。そうすると『ヨベルのネ』はヒフラにある孤児院であり『ヨベルのボア』とは……」
「ライオネル領の孤児院ということですの?」
「その通りだ。彼らは油断していたのか変わらずいまだにそこを使っていたよ。もともとスカビオサはヒフラの孤児院にいた、だからあそこら辺の地理に詳しく使い勝手がよかったのかもしれないな。何はともあれ、私はあの書類を読んでライオネル領の孤児院か、その近くに子どもたちがまだいるかもしれないと思い急ぎ彼らの救出に向かった」
「子どもたちはいましたの?」
アウルスは微笑むと力強く頷く。
「そうだ。ライオネル領の孤児院付近の教会が管理する倉庫にいた。しかも、彼らは子どもたちを買った貴族を揺すっていたから、その詳細をしっかり記録していてそれらもきっちり保管されていた。それをたどれば売られてしまった子どもたちの行方もわかるだろう」
「アウルス、ありがとう」
そう言うとアルメリアはアウルスに抱きついた。アウルスもそれに答えアルメリアを抱きしめ返すと軽くキスをして話を続ける。
「君に書類を見せられ、急ぎ子どもたちを助けたあと城下に戻って君が捕らわれたと知ったときは、生きた心地がしなかった。だが、ペルシックから君が保護されたと報告を受けたので、あの箱のことを思い出し君の屋敷へ向かった」
捕らわれてからずっと、アルメリアも自身の屋敷がどうなってしまっていたのか気になっていた。
「私の屋敷はどうなってますの?」
「君の執務室を中心に他の部屋もざっと調べられたようだった」
そう言うとアルメリアを見つめる。
「君はいずれこうなることを知っていたのか? まさかあの部屋に隠し金庫があるとは奴らも思い付かなかったみたいで、あの部屋は無傷だった」
「違いますわ、こればかりはダチュラのお陰かもしれませんの」
そう言ってアルメリアは、自分が捕らえられたときの様子をアウルスに話して聞かせた。
「なるほど、欲をかいた結果ということか。何はともあれ、あの箱は無事だった。事前に君にあの箱の場所を教えてもらっていたのも幸いした」
「そう言えば城内にある私の執務室は無事かしら?」
「流石に彼らも城内までは調べられなかっただろうから、きっと無事だろう。なぜだい?」
「あそこには大切なものが置いてありますの、屋敷内に置いていたらきっとダチュラに盗られてしまっていたかもしれませんわ」
アウルスはふっと笑った。
「それはもしかして、私を模したあの人形のことか?」
アウルスに知られているとは知らず、アルメリアは恥ずかしくなり自分の顔がカッと赤くなるのを感じ、思わず両手で両頬を押さえた。
「知ってましたのね?! あれは、お詫びでもらったもので、ルクに見守ってもらえてるようなシルに見守ってもらえてるような、その……」
「うん、君は私をいつもそばに置いてくれていたということだね? あれを君の執務室で見つけたときは、とてもくすぐったいような照れくさいような気持ちになったが、とても嬉しかった。でもこれからは私が直接君のそばで君を見守るよ」
そう言うとアルメリアにキスした。アルメリアは恥ずかしくて俯く。
それを見てアウルスは呟く。
「これからは毎日こんな幸せが続くのだな……」
アウルスはしみじみそう言うと、アルメリアの顔を覗き込み、アルメリアに口づけた。
会場に戻ると、明らかに今までと距離が違うアルメリアとアウルスにみんな、なにかをさっしたような顔をした。
するとムスカリがアルメリアの方へ駆け寄り手を取ると言った。
「アルメリア、君がどんな選択をしようと私はそれを受け入れよう。だが、私を選ばないと言うのならひとつだけ願いを聞いてくれないだろうか?」
アルメリアは申し訳ない気持ちもあり、無言で頷く。それを見てムスカリは寂しげに微笑む。
「名前を、名前を呼んでくれないだろうか?」
「名前、ですの?」
「そうだ。君は一度も私を名で呼んだことがない。せめて一度でよいから名前で呼んでほしい」
戸惑いながら、無言でアウルスの顔を見る。アウルスは微笑んで言った。
「それぐらいなら」
アルメリアは頷くとムスカリに向きなおった。
「ムスカリ殿下……」
ムスカリははにかみながら答える。
「敬称も必要ない。ただムスカリと……」
少し躊躇したのちアルメリアは口を開く。
「ムスカリ、今までありがとう」
するとムスカリは満面の笑みを浮かべた。
「君が私の名を呼んでくれたら本気で君を諦めるつもりだったのだが……、気が変わった。そもそも君たちはまだ婚約したわけでもないし、婚約したとしてもそれが白紙に戻る可能性もあるのだしね」
そう言うと、アルメリアの耳元で囁く。
「君に名を呼ばれるのがこんなに心地良いものだとは……」
そして、そのまま首筋にキスをした。
アルメリアは驚き首筋を押さえて一歩後退る。
ムスカリはそんなアルメリアを見て満足そうに微笑んだが、アウルスは慌ててアルメリアを背後から抱き締め引き寄せる。
「お前に渡すつもりはない!」
「精々頑張ってください。ですが皇帝だとてアルメリアを縛ることはできないでしょう」
そう言ってムスカリは微笑む。その背後でリアムが言った。
「そうですね、考えてみれば殿下との婚約が白紙になったのですから、我々にもチャンスが巡ってきたと考えてもおかしくはありません」
そこでアドニスが言った。
「私はアルメリアが誰と婚姻しようが、諦めるつもりはありませんでしたけどね」
そこでリカオンが横から口を挟む。
「みなさん必死ですね、僕はお嬢様本人に直接忠誠を誓っている身ですから、僕はみなさんとは立場が違います。そんなに必死にならずともずっとお嬢様の一番そばにいることができますからね」
アウルスがその台詞に驚きリカオンを見つめる。
「まさか君は帝国までついてくるつもりか?」
「ライオネル領の孤児院ということですの?」
「その通りだ。彼らは油断していたのか変わらずいまだにそこを使っていたよ。もともとスカビオサはヒフラの孤児院にいた、だからあそこら辺の地理に詳しく使い勝手がよかったのかもしれないな。何はともあれ、私はあの書類を読んでライオネル領の孤児院か、その近くに子どもたちがまだいるかもしれないと思い急ぎ彼らの救出に向かった」
「子どもたちはいましたの?」
アウルスは微笑むと力強く頷く。
「そうだ。ライオネル領の孤児院付近の教会が管理する倉庫にいた。しかも、彼らは子どもたちを買った貴族を揺すっていたから、その詳細をしっかり記録していてそれらもきっちり保管されていた。それをたどれば売られてしまった子どもたちの行方もわかるだろう」
「アウルス、ありがとう」
そう言うとアルメリアはアウルスに抱きついた。アウルスもそれに答えアルメリアを抱きしめ返すと軽くキスをして話を続ける。
「君に書類を見せられ、急ぎ子どもたちを助けたあと城下に戻って君が捕らわれたと知ったときは、生きた心地がしなかった。だが、ペルシックから君が保護されたと報告を受けたので、あの箱のことを思い出し君の屋敷へ向かった」
捕らわれてからずっと、アルメリアも自身の屋敷がどうなってしまっていたのか気になっていた。
「私の屋敷はどうなってますの?」
「君の執務室を中心に他の部屋もざっと調べられたようだった」
そう言うとアルメリアを見つめる。
「君はいずれこうなることを知っていたのか? まさかあの部屋に隠し金庫があるとは奴らも思い付かなかったみたいで、あの部屋は無傷だった」
「違いますわ、こればかりはダチュラのお陰かもしれませんの」
そう言ってアルメリアは、自分が捕らえられたときの様子をアウルスに話して聞かせた。
「なるほど、欲をかいた結果ということか。何はともあれ、あの箱は無事だった。事前に君にあの箱の場所を教えてもらっていたのも幸いした」
「そう言えば城内にある私の執務室は無事かしら?」
「流石に彼らも城内までは調べられなかっただろうから、きっと無事だろう。なぜだい?」
「あそこには大切なものが置いてありますの、屋敷内に置いていたらきっとダチュラに盗られてしまっていたかもしれませんわ」
アウルスはふっと笑った。
「それはもしかして、私を模したあの人形のことか?」
アウルスに知られているとは知らず、アルメリアは恥ずかしくなり自分の顔がカッと赤くなるのを感じ、思わず両手で両頬を押さえた。
「知ってましたのね?! あれは、お詫びでもらったもので、ルクに見守ってもらえてるようなシルに見守ってもらえてるような、その……」
「うん、君は私をいつもそばに置いてくれていたということだね? あれを君の執務室で見つけたときは、とてもくすぐったいような照れくさいような気持ちになったが、とても嬉しかった。でもこれからは私が直接君のそばで君を見守るよ」
そう言うとアルメリアにキスした。アルメリアは恥ずかしくて俯く。
それを見てアウルスは呟く。
「これからは毎日こんな幸せが続くのだな……」
アウルスはしみじみそう言うと、アルメリアの顔を覗き込み、アルメリアに口づけた。
会場に戻ると、明らかに今までと距離が違うアルメリアとアウルスにみんな、なにかをさっしたような顔をした。
するとムスカリがアルメリアの方へ駆け寄り手を取ると言った。
「アルメリア、君がどんな選択をしようと私はそれを受け入れよう。だが、私を選ばないと言うのならひとつだけ願いを聞いてくれないだろうか?」
アルメリアは申し訳ない気持ちもあり、無言で頷く。それを見てムスカリは寂しげに微笑む。
「名前を、名前を呼んでくれないだろうか?」
「名前、ですの?」
「そうだ。君は一度も私を名で呼んだことがない。せめて一度でよいから名前で呼んでほしい」
戸惑いながら、無言でアウルスの顔を見る。アウルスは微笑んで言った。
「それぐらいなら」
アルメリアは頷くとムスカリに向きなおった。
「ムスカリ殿下……」
ムスカリははにかみながら答える。
「敬称も必要ない。ただムスカリと……」
少し躊躇したのちアルメリアは口を開く。
「ムスカリ、今までありがとう」
するとムスカリは満面の笑みを浮かべた。
「君が私の名を呼んでくれたら本気で君を諦めるつもりだったのだが……、気が変わった。そもそも君たちはまだ婚約したわけでもないし、婚約したとしてもそれが白紙に戻る可能性もあるのだしね」
そう言うと、アルメリアの耳元で囁く。
「君に名を呼ばれるのがこんなに心地良いものだとは……」
そして、そのまま首筋にキスをした。
アルメリアは驚き首筋を押さえて一歩後退る。
ムスカリはそんなアルメリアを見て満足そうに微笑んだが、アウルスは慌ててアルメリアを背後から抱き締め引き寄せる。
「お前に渡すつもりはない!」
「精々頑張ってください。ですが皇帝だとてアルメリアを縛ることはできないでしょう」
そう言ってムスカリは微笑む。その背後でリアムが言った。
「そうですね、考えてみれば殿下との婚約が白紙になったのですから、我々にもチャンスが巡ってきたと考えてもおかしくはありません」
そこでアドニスが言った。
「私はアルメリアが誰と婚姻しようが、諦めるつもりはありませんでしたけどね」
そこでリカオンが横から口を挟む。
「みなさん必死ですね、僕はお嬢様本人に直接忠誠を誓っている身ですから、僕はみなさんとは立場が違います。そんなに必死にならずともずっとお嬢様の一番そばにいることができますからね」
アウルスがその台詞に驚きリカオンを見つめる。
「まさか君は帝国までついてくるつもりか?」
応援ありがとうございます!
14
お気に入りに追加
668
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる