私は彼に選ばれなかった令嬢。なら、自分の思う通りに生きますわ

みゅー

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「なるほど。調べようにも、これだけ動きがないから調べられなかったということなのね」

報告書を目の前に、そう呟いたところでタイミングよく、ダヴィドが訪ねてきた。

そこでアレクサンドラは、とにかくまずはダヴィドに相談してみることにした。

「久しぶりね、ダヴィ。それにしても今日はどうしたの? あなた、忙しいんじゃなかったかしら」

「いや、まぁな。でも退屈でさ」

そう言って苦笑する。これまでダム建設で設計からギルドのまとめ役まで担ってきたダヴィドにとって、今の教養の勉強は確かに退屈なことだろう。

「そうなの、ちょうどよかったわ。少し折り入って相談があるの」

アレクサンドラは噂話の件を説明した。

「なるほどな、それで俺の出番ってわけか」

ダヴィドはアレクサンドラの説明を聞くと、目を輝かせた。

「危険かもしれないけれど、大丈夫かしら?」

「大丈夫だろ。危険って言っても、相手は一人だ。それに対して俺は一人ってわけじゃない」

「なにか考えはある?」

「少々手荒いかもしれないが、やるだけやってみる。その代わり、しばらく時間がほしいんだが……」

「わかったわ、こんなこと頼んじゃってごめんなさい」

「いいんだ、レックスには色々世話になってるからな。任せてくれ」

ダヴィドはそう言うと、楽しそうに部屋を出ていった。

ダヴィドが王都に来てからそう経っていないはずだが、その間に少し頼もしくなったように感じた。

その後何事もなく数日が過ぎ、アレクサンドラはダヴィドのことが気にはなっていたが、信じて待っていた。

「アレクサンドラ、少し話があるんだが」

そんなある日、そう言ってテオドールはアレクサンドラの自室のドアの前でそっと声をかけてきた。

「お父様、なんですの? そんなに改まって」

「うん、会ってほしい人物がいるんだ」

そう言った瞬間、テオドールを押しのけて勢いよくピンク色の塊が飛び込んできた。

「もう! クワイエットってば、まどろっこしい!」

「クワイエット?」

アレクサンドラは驚きながら改めてそのピンク色の塊を見つめる。するとそれは、ピンクのシルクハットにピンクの大きな羽根をつけ、ピンクの燕尾服を着た金髪碧眼の男性だった。

「お父様、この方は?」

「はじめまして! オーロラ姫。僕はファニー! これから君のドレスをデザインするデザイナーだよ~!」

「えっと、デザイナー?」

「そうそう!」

アレクサンドラは戸惑いながらテオドールの顔を見つめた。

テオドールは申し訳なさそうに答える。

「そうなのだ。彼がどうしてもお前のドレスをデザインしたいと言ってな。見た感じかなりの変人だが、彼は社交界でもとても人気の高い人物だ。お願いしてみてもいいんじゃないか?」

「クワイエットってば、ひっどーい! 変人なんて、僕これでも超人気デザイナーなんですけどぉ?」

テオドールはそんなファニーを横目にため息をつく。

「らしいな、世の中一体なにがどうなっているのか」

「みんな見る目があるってことだねぇ!」

そう言うとアレクサンドラの全身を上から下まで舐めるように見つめながら、アレクサンドラの周囲をぐるぐる回り出す。

「ちょ、あなたなんですの?!」

「うん、いいねぇ、いいねぇ。僕、インスピレーション沸きまくり!! これから社交シーズンだもん、たっくさんドレス作っちゃうよぉ!」

「お、お父様?! 本当にこの方、大丈夫なんですの?」

その質問にファニーがとびっきりの笑顔で答える。

「大丈夫だよぉ、僕に任せて!」

そしてファニーは突然手を叩いた。すると、一斉にお針子たちがアレクサンドラの部屋へなだれ込み、あっという間にアレクサンドラを取り囲んだ。

「お嬢様、ご安心くださいませ。ファニー様はかなりの変人ですけれど、腕は確かです。必ずやお嬢様のお気に召すドレスをデザインしてくださいます」

ファニーは高笑いをする。

「あははは!! そうそう、僕に任せちゃって! というわけで、オーロラ姫のことをもっとよく知るために、僕、今日からここに住むからよろしくねぇ!」

「はい? えっ?! お父様、本当にいいんですの?!」

「仕方あるまい。奇っ怪な人物だが、害はなかろう」

テオドールはそう言って部屋を出ていった。

後には途方に暮れたアレクサンドラと、とても嬉しそうに部屋の中をうろうろするファニー、それとアレクサンドラを採寸するお針子たちが残された。

ファニーはアレクサンドラがどこへ行くにもついてきた。とはいえ、ほとんど出掛けることがなかったので、ほぼ屋敷で過ごすだけだった。

「本当にこうして一緒にいることは必要なことなんですの?」

読みかけの本から顔を上げ、不満そうにそう質問すると、ファニーはわかってないとばかりに首をすくめた。

「なに言ってるのぉ、もっちろんだよ~! 夏の社交シーズンのときに、ちら~っと君を見かけて、それからずっとこの日を待ってたんだからぁ! それにしてもさ、探したんだよぉ? 一体どこにいたのさ!」

アレクサンドラは苦笑して答える。

「ちょっと色々あったのよ」

そのとき、いつものようにシルヴァンがデュカス家へやってきた。

とはいえ、騒ぎにならないように公にではなくお忍びであった。

その目的は、シルヴァン曰く『最近ずっと一緒に夕食を摂っていたのに、それがなくなると調子が崩れる』『君のコックが優秀すぎる』とのことだった。

とはいえ、アレクサンドラについての噂話やテオドールの土地買収の件など、デュカス家の周囲では不穏なことが続いていたため、この訪問を知る者はセバスチャンだけに限られていた。

「レックス、誰だこのピンクは」

シルヴァンはアレクサンドラの隣を陣取るファニーを見ると、開口一番そう言った。

「デザイナーのファニーですわ。わたくしのドレスをデザインしたいそうです」

「ヤッホ~、情熱の王子! そういうわけだからよろしくね~!」

シルヴァンはエクトルに向かって言った。

「エクトル、この変なピンクをなぜ追い出さないんだ」

エクトルは困り顔で答える。

「そりゃ僕だってこんなの追い出したいですよ! お姉様のそばから離れないし、本当に邪魔で仕方ありませんから。でも、お父様が許可してしまったんです!」

エクトルがそう言うと、テオドールはビクリと肩を震わせ、慌てて立ち上がる。

「殿下、申し訳ありません。少々おなかの調子が悪いようで……。私はあとでいただくことにして、失礼いたします」

「逃げましたわね……」

アレクサンドラは、食堂を出ていくテオドールの背中を見つめながらそう呟いた。

イネスは楽しそうに微笑みながら言った。

「なんだか家族が急に増えたみたいで、とても楽しいわねぇ。ふふふ」

それを聞いてエクトルががっくりしながら答える。

「お母様、勘弁してくださいよぉ」

「あら、いいじゃない。さぁ、お食事を始めましょう。殿下もどうぞお席に着いて、ゆっくりしていらしてね?」
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