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5.Epilogue.
『後日談.1 二人の騎士とユリウスの話』
しおりを挟む『後日談.二人の騎士がやらかすお話』
ロンに連れられ、ユリウスとアレクセイがやってきたのは都市から少し離れた村だった。
どうやら、ロンが幼少期に過ごした村らしい。数週間滞在しているが、何処となくガリュアス領に似ているとユリウスは思っていた。
ユリウスは屋敷の周りを探索しながら、ぴたりと足を止めた。林の方でひそひそとした会話を聞いたからだ。
「ん?」
こっそりと茂みの中を覗き込めば、そこには二人の騎士がいた。
ユリウスやアレクセイを心配してやってきたガリュアス領の騎士。二人は座り込んで何かを見ているようだった。
「何をしているんだ?」
「うわっ!?」
「なんスか!?」
二人の驚いた顔を眺め、ユリウスは彼らが見ていた物を見ようと二人の前に立つ。
すると、二人はそれを必死に隠した。むっとするユリウスに気が付いたのか、彼らは「これは本当にダメです!」と体を張って守ろうとする。しかし、にやりと笑んだユリウスからは逃げられなかった。
そして、数分後。
「これは酷い……」
「最低っス……」
ユリウスが『稽古で勝てば、さぼりを見逃す』と条件をつければ、彼らは木刀を掴み挑戦してきたが、結果的にユリウスに敗れ雑誌を手放した。ユリウスの手には彼らが必死に隠していた雑誌。
「なんでこれを必死で隠してたんだ? 水着? 海でも行くのか?」
「だって……ねぇ?」
二人が視線を合わせて肩を竦めた。本を開こうとしたユリウスから本を奪い取り、「本当にダメっス!」と抗議する。
「な、なんだよ」
「アレクセイにぶっころされる! いや、メアリさんにも!」
「なんで、あいつの名前が出てくるんだ? お前ら、いっつも影でこそこそするときあるよな。戦争の時も俺だけ除け者にしてな。ちょっとぐらい混ぜてくれたっていいだろ?」
二人が顔を見合わせ、困った顔を見せる。終いにはどうすると肘を突き合う。
「ユリウスさんももう三十歳近いもんなぁ」
「なあ……無垢すぎて心配だったし、もういいんじゃないのか」
「でも、あれだけ皆で協力してたっスよ。ユリウス様に見せないように」
ぼそぼそと話し合う二人にユリウスは肩を竦めた。
「な、なんだよ?」
「でも、こういうのはアレクセイに任せたほうが……」
「だから、なんでアレクセイが出てくるんだよ」
「アレクセイ可哀そうだよなぁ」
「ユリウス様はマシュマロみたいだし、無垢すぎるんっスよ。手は出せないっスよ」
だから、なんであいつが出てくるんだと三度目の呟きはユリウスの頭の中で消化された。二人の視線はやがて、ユリウスに向かい、どこか呆れたような、それでいて、諦めたような視線を向けてくる。
「ユリウス様だもんなぁ」
「ユリウスさんっスもんねぇ」
瞬きをして、二人を見つめるユリウス。二人はしょうがないと言わんばかりに突然立ち上がって、ユリウスの両肩にそれぞれ手を置いた。
怪しい二人の様子にユリウスは困惑しながらも、二人の顔を眺めた。
「な、なんだよ?」
「将来のアレクセイのためだ」
「そうっスよ。アレクセイのため……断じて、俺たちが悪いわけじゃないっス」
「そうそう。悪いのはユリウス様」
「お、おい? ちょっと、何処に連れていこうとして……」
ずるずると更に林の奥へ連行されていくユリウス。アレクセイが探しているとは知らずに。
一方、その頃のアレクセイ。
「あの、メアリさん。ユリウスさんを見てませんか?」
「ん? そういや、散歩に行くって出ていったね。まだ戻ってないのかい?」
アレクセイは屋敷でユリウスを探していた。勤務が終わったためだ。
ロンに頼まれ、彼が育った屋敷を管理しているが、現状としては居候という単語が正しいのかもしれない。
ユリウスはロンから仕事を貰い、会計の仕事をしているが、アレクセイやガリュアス領からやってきた騎士二人は村に侵入してきた魔物を討伐している。しかし、ガリュアス領よりも魔物は弱く、力を持て余しているのが現状だ。
「そうですか」
それならすぐ戻ってくるだろうと、アレクセイは自分の部屋に装備を置きに行く事にした。
屋敷は案外広いようで狭い。二階はユリウスとアレクセイの部屋となっており、一階ではメアリが診療所を開いていた。着いてきてくれた二人の騎士たちは近くの一件屋で暮らしている。
アレクセイが自分の部屋の前に立つと違和感を覚えて、立ち止まった。
「あれ?」
鍵を閉めたはずの部屋が小さく空いている。不思議に思い、警戒をしながら、アレクセイはゆっくりと扉を開けた。
「ん?」
まず違和感があったのは二人の騎士がいたことだ。彼らは何かを言っており、ベッドの中に何かを隠した。アレクセイの存在に気が付くと、彼らは顔を真っ青にして脱皮の如く逃げて行った。
珍しく何も言わない彼ら。また変な悪戯を思いついたのだろうと、アレクセイは肩を落とす。
そして、ベッドの方に向かった。布団の中に何かを入れていったのはあからさまだ。
「なんだ?」
アレクセイは布団をめくって、頭を抱えた。
「あの二人……」
そこにあったのは鍵だった。小さく息をつき、アレクセイが二人を捕まえに行こうとした時だ。押し入れがカタカタと音をたてた。
すぐにガタガタと音が大きくなり、アレクセイは押し入れを開けようとして、手を止めた。
何者かにより、鍵がかけられており、アレクセイは小さく息をつく。ベッドの上にあった鍵で押し入れの鍵を開けると同時に、白い何かがアレクセイにぶつかってきた。
「んんー!」
「ユリウスさん!?」
ドンっとアレクセイの腕の中に納まってきた者。アレクセイはユリウスを抱き留め、床に腰を打ち付ける。なんとか、腕の中の存在が床に転がらなかったことにほっとした。
「大丈夫……ですか?」
口には話せないように紐が結ばれ、真っ赤な瞳が助けてくれと見つめていた。それだけならまだ良い。アリアやマリアが着るような黒と白を基調としたメイド服だ。スケートの丈も短い。白い頭には白い猫耳がつけられており、メイド服の腰にはリボンが。そこからは猫のしっぽが伸びていた。
「ユリウスさん!?」
「んんん、んんーっ!」
心なしか、あいつらぶっ殺すと聞こえるような気もしないではない。彼はアレクセイの上でもぞもぞと起き上がって追いかけようとするが、両手も縛られているようだった。
彼は顔を真っ赤に染め上げて、メイド服がぐちゃぐちゃになるのも気にせず、起き上がろうとする。
「待ってください、ユリウスさん! 色々見えてます!」
「ん」
ぴたりと止まるユリウス。アレクセイは彼をゆっくりと抱き上げた。驚く彼の口についていた紐を取れば、大きく息を吸うユリウスがいた。
「落ち着きましたか?」
「あいつら、どこいきやがった!?」
「抑えてください。なんで、そんな恰好を?」
「知らねぇ。突然林の方に連れていかれたと思ったら、お前が奥手だからとか抜かしやがって、着せ替えてきやがって、そしたら、急にここに……おい?」
小さく息をつくアレクセイ。腕の中のユリウスはきょとんとして、アレクセイを見つめていた。
アレクセイは彼をそっとベッドの上におろし、髪をさらりと撫でた。困惑したように、ユリウスはアレクセイを見つめている。
「そう、ですね……触りあうことばかりが全てではないですから」
「は?」
呆けた顔を見せるユリウスにアレクセイは思わず笑った。
「いえ、貴方はそのままで良いと伝えたかったんです。けれども、これ女性服ですよね。下もそうですか?」
「あ、ああ……。なんか、履けって言われたから。すぅすぅして気持ち悪いって……なんて顔してるんだよ」
「いえ、忘れ物を思い出したので」
「いや、忘れ物って顔じゃなかったよな。何かを殺しに行く顔だったぞ」
困惑しているユリウスの顔に、アレクセイは思わず笑った。
そして、彼の頬をそっと撫でた。ユリウスは目を細めて、気持ちよさそうにしている。
「気持ち良いですか?」
「ああ。気持ち良い。お前の手、ひんやりとしてて」
「それはよかった。本当はどろどろに溶かしてやりたいなって思うんですよ。思いっきり、欲望のまま食べてやりたいって」
「ん? どろどろに? 食べるのか。忘れ物を?」
「それで、漬けた顔も見てみたいなって」
「漬物でもするのか? 倉庫にあったトマトを?」
「ふは」
「なんで笑うんだよ」
アレクセイは目の前で真剣な顔をしているユリウスの頬を撫でる。
恐らく、騎士団の中でも細心の注意を払って育てられてきたのだろう。王族でそれも二次成長もなかった彼のことだ。
何となく知っているかもしれないと考えたが、それもなさそうだった。もしかすると、子供はコウノトリが運んでくると本気で思っているかもしれない。
「まだ果実は青いので、赤くなった頃に食べようかなって」
「ふーん。んじゃ、まだあのトマトを食べるには早いのか」
「はい。けれども、きっと調理は難しいと思うので、食べ方は考えようと思ってます。きっと、辛いでしょうし、無理はさせたくないです。秘薬みたいなのがあって、触るだけで気持ち良くなるものがあればいいんですが」
「なんか、言っていることがわからない」
「でしょうね。俺も途中からわかりません」
「んだよ、それ」
はてなマークで埋め尽くされている彼を抱きしめて、そっと猫耳ごしに撫でれば、彼は心地よさそうに抱き着いてくる。
「にしても、貴方なら二人になら勝てるのにどうして言いなりに?」
「勢いというか、なんというか」
アレクセイの言葉にユリウスはバツの悪そうに視線を逸らす。アレクセイはそっと猫のしっぽをいじる。そして、触れるだけのキスを頬に送った。
「それで、こんな可愛らしい恰好もしてしまうんですか?」
「べ、別にそういうつもりじゃなかったんだ。お前が喜ぶだろうからって聞いて」
ユリウスはちらっとアレクセイを見ると、やがて困ったように笑う。
「喜んだか?」
「はい。猫耳メイドはばっちりです」
「やめろってそういう言い方」
んふふと彼は笑って、ぽんっと顔をアレクセイの胸元に押し付けて来た。
「この幸せが続くといいのにな」
「続きますよ。貴方と俺が望めばいくらでも」
「そうか。だったら、心配いらないか」
そういって笑う彼はとても幸せそうだった。
数時間後、アレクセイによってぼこられた二人の騎士がメアリの元に逃げてくるのは近い――。
終
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