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第一章
第九話
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「すごい顔ですね。何で寝なかったんですか」
「煩い。お前と一緒にするな」
次の日。
暗殺者の刺客がやってきて、レイジが表情一つ変えずに殺してしまった件。
あの後は眠る気にもなれなかった。また暗殺者が来るのではと考えていれば、すっかり鳥のさえずりが響き渡る朝だった。
何なら、カーテンの隙間からは朝日が差し込んでいて、新しい一日の知らせなんかも感じてしまう。エルはと言うと、眠れないせいでひたすら机の上に魔術師用タロットでカードタワーを作り上げていた。
暗殺者を殺めたレイジはすっきりとした顔をしており、隈も一つもない。それどころか、昨日よりも毅然とした態度。
内心なんて奴だと思いながらも、彼が氷の騎士と由来される理由を何となく理解した気がした。
「昨日の奴は?」
「処理しました。恐らくは第一皇子か貴族の差し金でしょう。暫く刺客が来てなかったので、すっかり忘れていました」
「その前に気が付けってぇの。てか、同族で殺し合ってるのかよ。どこも変わらねぇな」
舌打ち交じりに言って、そのままベッドに転がった。
考えることが多く頭が痛い。思わず手で視界を多い隠せば、暗闇が広がる。
「今日の昼食はこちらで食べましょう。月一回の王族の集まりには不参加で伝えておきます」
「ああ。そうしてくれ」
とてもじゃないが、あの中に自分を殺そうとしたやつがいると考えるだけで飯が不味くなりそうだった。
それどころじゃない。食事に毒も入っているかもしれない。自分はスラム育ち、今までの仕事のおかげで毒耐性が少しぐらいはあるが、それでも、あそこでは食べたくはなかった。
「そういや、孤児院の件どうだった?」
「あなたが言っていた通り、資金の流れが不思議なことになっているそうです。陛下に頼んで、調べてもらっています」
「ああ……金を渡しても、資金がそっちに流れるんだから、まあ、裕福にはなるわけねぇよな。よし、陛下の協力も得たし、後は実行するだけだ」
レイジがじっとこちらを見つめている。
「なんだよ?」
「いえ……」
「何か言いたそうな顔しただろ」
「別に」
彼はぷいっとそっぽを向くと、「朝食を取りに行ってきます。ノックがあっても俺の声がしない限りは開けないようにお願いします」とそのまま部屋を出て行った。
思わずため息をつきたくなる様子にエルは傍にあったカードタワーをデコピンして崩した。
「何で俺はこの仕事に本気になってるんだか」
それから暫くすると、レイジは一人の使用人を連れて来た。
気の弱そうなおどおどとしたメイドだった。長い黒い髪に水色の瞳。内気そうな雰囲気にエルは呆気に取られてしまう。大きいフレームの眼鏡が彼女の目を隠してしまう。
「誰?」
「使用人です。前、貴方が全員追い出してしまったでしょう」
「いや……誰だよ」
「す、すみません。私、レイナと言います」
彼女はぺこりと頭を下げる。
さらさらとした髪が揺れ、レイナと名乗ったメイドはエルを見て不思議そうな表情を作る。
「まあ、ざっくり言うと私の妹です。信用できる人材をと思ったので」
「だろうな!」
黒髪と水色の瞳でまさかと思ったわ!
フンッと鼻息を鳴らす勢いでいれば、レイナと名乗ったメイドはくすくすと笑う。
「普段頼みごとをしてこないお兄様から頼まれたんです。どうぞ、よろしくお願いします」
「まあ……よろしく」
ぺこりと頭を下げるレイナから視線を逸らす。そして、レイジに大丈夫なのかと意味合いも込めて睨みつけた。
「レイナは大丈夫です。おっちょこちょいですが、彼女も一応スキルがありますので。貴方を護るぐらいのスキルもあります」
「はい! 掃除洗濯暗殺! なんでもやりますよ!」
「は!? お前、最後なんて言った!?」
「え、なんでもやりますよ?」
「いや、その前!」
「何でも任せてください!」
力強くアピールする彼女の拳を眺め、その次にレイジを見る。彼はいつも通りの面構えだった。
「そして、これが今回の調査書類だそうです! 陛下から預かった書類になります」
変わらない笑顔のまま彼女が差し出してきたのは、一冊の羊皮紙だった。
「煩い。お前と一緒にするな」
次の日。
暗殺者の刺客がやってきて、レイジが表情一つ変えずに殺してしまった件。
あの後は眠る気にもなれなかった。また暗殺者が来るのではと考えていれば、すっかり鳥のさえずりが響き渡る朝だった。
何なら、カーテンの隙間からは朝日が差し込んでいて、新しい一日の知らせなんかも感じてしまう。エルはと言うと、眠れないせいでひたすら机の上に魔術師用タロットでカードタワーを作り上げていた。
暗殺者を殺めたレイジはすっきりとした顔をしており、隈も一つもない。それどころか、昨日よりも毅然とした態度。
内心なんて奴だと思いながらも、彼が氷の騎士と由来される理由を何となく理解した気がした。
「昨日の奴は?」
「処理しました。恐らくは第一皇子か貴族の差し金でしょう。暫く刺客が来てなかったので、すっかり忘れていました」
「その前に気が付けってぇの。てか、同族で殺し合ってるのかよ。どこも変わらねぇな」
舌打ち交じりに言って、そのままベッドに転がった。
考えることが多く頭が痛い。思わず手で視界を多い隠せば、暗闇が広がる。
「今日の昼食はこちらで食べましょう。月一回の王族の集まりには不参加で伝えておきます」
「ああ。そうしてくれ」
とてもじゃないが、あの中に自分を殺そうとしたやつがいると考えるだけで飯が不味くなりそうだった。
それどころじゃない。食事に毒も入っているかもしれない。自分はスラム育ち、今までの仕事のおかげで毒耐性が少しぐらいはあるが、それでも、あそこでは食べたくはなかった。
「そういや、孤児院の件どうだった?」
「あなたが言っていた通り、資金の流れが不思議なことになっているそうです。陛下に頼んで、調べてもらっています」
「ああ……金を渡しても、資金がそっちに流れるんだから、まあ、裕福にはなるわけねぇよな。よし、陛下の協力も得たし、後は実行するだけだ」
レイジがじっとこちらを見つめている。
「なんだよ?」
「いえ……」
「何か言いたそうな顔しただろ」
「別に」
彼はぷいっとそっぽを向くと、「朝食を取りに行ってきます。ノックがあっても俺の声がしない限りは開けないようにお願いします」とそのまま部屋を出て行った。
思わずため息をつきたくなる様子にエルは傍にあったカードタワーをデコピンして崩した。
「何で俺はこの仕事に本気になってるんだか」
それから暫くすると、レイジは一人の使用人を連れて来た。
気の弱そうなおどおどとしたメイドだった。長い黒い髪に水色の瞳。内気そうな雰囲気にエルは呆気に取られてしまう。大きいフレームの眼鏡が彼女の目を隠してしまう。
「誰?」
「使用人です。前、貴方が全員追い出してしまったでしょう」
「いや……誰だよ」
「す、すみません。私、レイナと言います」
彼女はぺこりと頭を下げる。
さらさらとした髪が揺れ、レイナと名乗ったメイドはエルを見て不思議そうな表情を作る。
「まあ、ざっくり言うと私の妹です。信用できる人材をと思ったので」
「だろうな!」
黒髪と水色の瞳でまさかと思ったわ!
フンッと鼻息を鳴らす勢いでいれば、レイナと名乗ったメイドはくすくすと笑う。
「普段頼みごとをしてこないお兄様から頼まれたんです。どうぞ、よろしくお願いします」
「まあ……よろしく」
ぺこりと頭を下げるレイナから視線を逸らす。そして、レイジに大丈夫なのかと意味合いも込めて睨みつけた。
「レイナは大丈夫です。おっちょこちょいですが、彼女も一応スキルがありますので。貴方を護るぐらいのスキルもあります」
「はい! 掃除洗濯暗殺! なんでもやりますよ!」
「は!? お前、最後なんて言った!?」
「え、なんでもやりますよ?」
「いや、その前!」
「何でも任せてください!」
力強くアピールする彼女の拳を眺め、その次にレイジを見る。彼はいつも通りの面構えだった。
「そして、これが今回の調査書類だそうです! 陛下から預かった書類になります」
変わらない笑顔のまま彼女が差し出してきたのは、一冊の羊皮紙だった。
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