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第五章
第四十五話
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「取引だって?」
エルは眉をひそめた。少女はエルの傍らに腰を落とし、「そうです」と言う。
困惑するエルをよそに少女は話を進めた。
「私は元に戻り、貴方も元の場所に戻る。たったそれだけです」
「まさか、お前」
「ええ。貴方の考える通りでしょう。私はエル・ラ・ローレン。第五皇子です。レン、と名乗った方が良いでしょうか」
「お前、女……」
にこりとほほ笑む少女。エルは胸を眺めそれから、少女――レンに視線を移した。色々考えることが多いが、きっとそういうことなのだろう。
「どうして、私が第五皇子と呼ばれるのか……本当に女なのか気になりますか?」
「いや」
「安心してください。ちゃんとした胸ですから」
肩ひもを見せて、レンはにこりと笑う。エルの顔がみるみるうちに赤くなり、ふいっとそっぽを向いた。少女がふふと笑いを零し、「本題に入りましょう」と言った。
「貴方は第二皇子を助けたいのでしょう?」
「アンタを信用するとでも?」
「確かにそうですね。本当は貴方を殺してしまおうと思っていたのですから」
エルが眉をひそめた。
「失礼。でも、こうして何もせずに会いに来ているでしょう?」
「んで、ラムダをどうしたんだ。お前はあの老人と繋がっているのか?」
「ふふっ」
緊張が漂い、エルが隠していた杖に手を伸ばそうかと考える。しかし、レンは何も言わなかった。
「取引次第では、ラムダも解放してあげましょう。アンバーの件の説得も私が行いましょう。貴方がやってくれる条件なら、彼も頷いてくれる。ハウリアもすぐに開放されるでしょう」
エルとレンの視線が交差する。レンは手紙を一通エルへ差し出した。優雅にメイド服を整え、「考えてみてください。貴方たちがこれから向かう研究所の内部に遺跡はあります」とほほ笑んだ。しかし、目は笑っていない。
「嫌だと言ったら?」
「私たちはそれまでだったということ。私、貴方のことは嫌いじゃないんですよ」
「何回も殺しに来て、良く言いやがる」
「だって、ある意味……私たちは運命のようなものですから」
レンはそれだけ言い残し、室内を後にした。エルは気配がなくなったことを確認し、深いため息をついた。
パチンと指を鳴らせば、隠していた杖が手元に戻る。すぐに防御魔法を出せるようにしていたのだ。
「危なかった」
小さく息をつき、エルは受け取った手紙を眺めた。そして、風魔法を発動させ、封を切る。手紙を開けば、簡潔に『遺跡で、妖精眼を使用してください』と書かれていた。エルは心底深いため息をついて、そのままベッドに転がった。手紙はふわりと宙を舞い、そのまま、エルが使用した術によって燃えて消えた。
「怪しすぎる」
暫くし、レイナが部屋に入って来た。食事の香りがふんわりと香り、エルがはっと顔をあげる。
辺りを見回し、レイナが小首を傾げた。
「エル皇子、誰か来ましたか?」
「いや」
カートが室内に入り、食事がセットされる。
「今日はスープとパンか?」
「はい。マルクス陛下もいらっしゃるそうです」
「何で?」
「一緒に食事を摂りたいとのことですよ」
エルは頭をかいた。レイナが再び辺りを見回し、「陛下を呼んできますので、もう少々お待ちください」と廊下へ戻っていった。
「レイナは感が鋭いな」
「ほぉ、感が鋭いとは……何かあったということかな?」
「ぎゃっ」
突然響いたマルクスの声にエルの肩が飛び跳ねた。扉が開き、マルクスが現れた。その後ろにはレイナが控えている。彼女が押すカートにはワインとオレンジジュースが乗せられており、料理や飲み物が机の上にあっという間にセットされていった。
「では、ごゆっくり」
レイナが頭を下げて、去っていく。残されたエルがマルクスを振り返る。
少しだけ寂しそうな表情をしているマルクスは、「何かあったかい?」と柔らかな声で尋ねて来た。エルは目線をそらし、ため息をついた。
「レンと名残るやつが、取引を持ち掛けてきた」
「レン?」
第五皇子、とは言えなかった。エルは「メイドだ」と話す。
マルクスは「なるほど」とだけ答えた。エルはそれだけでマルクスが、レンの正体を悟ったのだと知る。
「取引は?」
「遺跡で妖精眼を使ってほしいと言われた。俺は――」
「ダメだ」
即答された返事に、エルは目を見開く。
「だけど、ラムダやハウリアを助けるには……血を流さない方法だってあるかもしれない!」
「エル、遺跡での解放はしてはいけない」
※明日の投稿はお休みとなります。
エルは眉をひそめた。少女はエルの傍らに腰を落とし、「そうです」と言う。
困惑するエルをよそに少女は話を進めた。
「私は元に戻り、貴方も元の場所に戻る。たったそれだけです」
「まさか、お前」
「ええ。貴方の考える通りでしょう。私はエル・ラ・ローレン。第五皇子です。レン、と名乗った方が良いでしょうか」
「お前、女……」
にこりとほほ笑む少女。エルは胸を眺めそれから、少女――レンに視線を移した。色々考えることが多いが、きっとそういうことなのだろう。
「どうして、私が第五皇子と呼ばれるのか……本当に女なのか気になりますか?」
「いや」
「安心してください。ちゃんとした胸ですから」
肩ひもを見せて、レンはにこりと笑う。エルの顔がみるみるうちに赤くなり、ふいっとそっぽを向いた。少女がふふと笑いを零し、「本題に入りましょう」と言った。
「貴方は第二皇子を助けたいのでしょう?」
「アンタを信用するとでも?」
「確かにそうですね。本当は貴方を殺してしまおうと思っていたのですから」
エルが眉をひそめた。
「失礼。でも、こうして何もせずに会いに来ているでしょう?」
「んで、ラムダをどうしたんだ。お前はあの老人と繋がっているのか?」
「ふふっ」
緊張が漂い、エルが隠していた杖に手を伸ばそうかと考える。しかし、レンは何も言わなかった。
「取引次第では、ラムダも解放してあげましょう。アンバーの件の説得も私が行いましょう。貴方がやってくれる条件なら、彼も頷いてくれる。ハウリアもすぐに開放されるでしょう」
エルとレンの視線が交差する。レンは手紙を一通エルへ差し出した。優雅にメイド服を整え、「考えてみてください。貴方たちがこれから向かう研究所の内部に遺跡はあります」とほほ笑んだ。しかし、目は笑っていない。
「嫌だと言ったら?」
「私たちはそれまでだったということ。私、貴方のことは嫌いじゃないんですよ」
「何回も殺しに来て、良く言いやがる」
「だって、ある意味……私たちは運命のようなものですから」
レンはそれだけ言い残し、室内を後にした。エルは気配がなくなったことを確認し、深いため息をついた。
パチンと指を鳴らせば、隠していた杖が手元に戻る。すぐに防御魔法を出せるようにしていたのだ。
「危なかった」
小さく息をつき、エルは受け取った手紙を眺めた。そして、風魔法を発動させ、封を切る。手紙を開けば、簡潔に『遺跡で、妖精眼を使用してください』と書かれていた。エルは心底深いため息をついて、そのままベッドに転がった。手紙はふわりと宙を舞い、そのまま、エルが使用した術によって燃えて消えた。
「怪しすぎる」
暫くし、レイナが部屋に入って来た。食事の香りがふんわりと香り、エルがはっと顔をあげる。
辺りを見回し、レイナが小首を傾げた。
「エル皇子、誰か来ましたか?」
「いや」
カートが室内に入り、食事がセットされる。
「今日はスープとパンか?」
「はい。マルクス陛下もいらっしゃるそうです」
「何で?」
「一緒に食事を摂りたいとのことですよ」
エルは頭をかいた。レイナが再び辺りを見回し、「陛下を呼んできますので、もう少々お待ちください」と廊下へ戻っていった。
「レイナは感が鋭いな」
「ほぉ、感が鋭いとは……何かあったということかな?」
「ぎゃっ」
突然響いたマルクスの声にエルの肩が飛び跳ねた。扉が開き、マルクスが現れた。その後ろにはレイナが控えている。彼女が押すカートにはワインとオレンジジュースが乗せられており、料理や飲み物が机の上にあっという間にセットされていった。
「では、ごゆっくり」
レイナが頭を下げて、去っていく。残されたエルがマルクスを振り返る。
少しだけ寂しそうな表情をしているマルクスは、「何かあったかい?」と柔らかな声で尋ねて来た。エルは目線をそらし、ため息をついた。
「レンと名残るやつが、取引を持ち掛けてきた」
「レン?」
第五皇子、とは言えなかった。エルは「メイドだ」と話す。
マルクスは「なるほど」とだけ答えた。エルはそれだけでマルクスが、レンの正体を悟ったのだと知る。
「取引は?」
「遺跡で妖精眼を使ってほしいと言われた。俺は――」
「ダメだ」
即答された返事に、エルは目を見開く。
「だけど、ラムダやハウリアを助けるには……血を流さない方法だってあるかもしれない!」
「エル、遺跡での解放はしてはいけない」
※明日の投稿はお休みとなります。
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