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第五章
第四十八話
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エルはレイジを連れ、マルクスの言っていた遺跡に来ていた。腕には危険があれば、すぐに脱出するための魔道具も備えている。室内に設けられた遺跡は閑散としていて、ダンジョンのように入り組んでいる。岩と壊れた魔石が散らかっており、エルはその様子を見てため息をついた。
何も変わらないと思いながら。後ろにはレイジが控えており、エルの少し後ろをついて歩く。
「陛下は約束を?」
「ええ、少し離れた場所で待機しています。あの、どうして、過去にここを訪れたのですか?」
「師匠たち、まあ、俺を保護してくれた人たちがいたんだ。優しくてさ……あの人たちのためならなんでもしようと思った」
エルは当時を思い出すように小さく息をついた。
「師匠が、子供の病気を治すために、手を貸してほしいって言ったんだ」
「報告書に子供については記載はありませんでした」
「そうだよ。いなかった。当時の俺は信じ込んで、彼女の子供を助けたいって思ったんだ。そして、騙された。師匠たちは真っ黒な姿形をしていたのに、当時の俺は信じていたんだ」
エルはぴたりと足を止めた。目先には門がある。大きな門で、この先はハーヴェル境界と書かれている。レイジは青い魔石を外して、扉にはめた。
「ここから先は王家の加護から外れます」
「わかってるよ。もう一つの入り口は?」
遺跡には二か所から行く方法があるらしい。一つはスラムから入る森。もう一つは王家の森。
「レイナと護衛がついてます」
「了解。レイジ、行くぞ」
「ええ」
エルがゆっくりと門を押した。重たい門はゆっくりと音をたてて開いていく。中は礼拝堂のようになっており、中央には魔法陣が描かれていた。そして、白髪の少女――レンが立っていた。
レンはエルのことに気が付くと、ふっと笑んでみせた。
「待っていたわ。来ると信じていた。護衛は帰してくれるとありがたいのだけど」
「相棒だ」
「ふうん。まあ、いいわ。すぐ力を発動できるの?」
「もちろん。その前にハウリアを」
レンはため息をつく。そして、指を鳴らした。魔法陣の中央でぱんっと光が弾けたかと思えば、鎖に縛られたハウリアが現れた。
「エル!?」
「まったく、捕まっているのでは世話ないですよ。兄上?」
エルが頭をかいて言えば、酷く驚くハウリアの姿。
「レイジ、ハウリアを」
「はい」
レイジがすぐにハウリアの鎖を解き、肩を貸して魔法陣から降りた。
レンはにこりと微笑み、「約束よ」と言った。エルは小さく頷くと、レイジに目を配らせた。レイジもこくりと頷く。エルは魔法陣の中に入り、手を伸ばした。
「これで、私の復讐は完成する」
エルの様子を眺めたレンはうっとりとその様子を眺めた。魔法陣に魔力を注いでいく。
「天の目を覗く者。悲しみの先に伝え、その導き手を示す者。ダンジェリスト!」
エルの呪文と共に、魔法陣から風が巻き上がる。エルの長い髪を揺らし、レンの白い髪も風が巻き上げていく。驚くハウリアに、無表情で成り行きを見守るレイジ。そして、魔法陣が一度強く発光した。
「これは――」
次の瞬間、エルは水の中にいた。息はできる。自由に手足を動かせる。しかし、エルが目を凝らせば、その世界は少しずつ姿を変え、金色の世界へ変わっていく。その時だった。声がエルの頭の中で響く。若い男の声だった。
『汝、真実の名を――』
過去に聞いた問いかけ。エルは意を決して、叫んだ。
「我が名はエル・ラ・ローレン! 妖精眼を引き継ぐ者なり!」
『然り――』
声が消えたと同時に金色の世界は形を変える。魔法陣とエルの魔力で生み出される黄金の城、黄金の都市。それは黄金郷と言えるだろう。
その事に対し、エルは目を丸くした。そして、レンや、ハウリア、レイジもまたその場にいる。しかし、血に濡れたり、真っ黒な影たちが倒れる訳でもなかった。
やがて、エルの魔力で黄金郷が完成する。
――あの時とは違う。
ほっとしたエルだったが、レンが詰めかけて来た。彼女は水の中にいるように浮いている。いや、ハウリアもレイジも同じだった。エルは自分だけがこの空間を見ていることに気が付いた。
「騙したのね!?」
何も変わらないと思いながら。後ろにはレイジが控えており、エルの少し後ろをついて歩く。
「陛下は約束を?」
「ええ、少し離れた場所で待機しています。あの、どうして、過去にここを訪れたのですか?」
「師匠たち、まあ、俺を保護してくれた人たちがいたんだ。優しくてさ……あの人たちのためならなんでもしようと思った」
エルは当時を思い出すように小さく息をついた。
「師匠が、子供の病気を治すために、手を貸してほしいって言ったんだ」
「報告書に子供については記載はありませんでした」
「そうだよ。いなかった。当時の俺は信じ込んで、彼女の子供を助けたいって思ったんだ。そして、騙された。師匠たちは真っ黒な姿形をしていたのに、当時の俺は信じていたんだ」
エルはぴたりと足を止めた。目先には門がある。大きな門で、この先はハーヴェル境界と書かれている。レイジは青い魔石を外して、扉にはめた。
「ここから先は王家の加護から外れます」
「わかってるよ。もう一つの入り口は?」
遺跡には二か所から行く方法があるらしい。一つはスラムから入る森。もう一つは王家の森。
「レイナと護衛がついてます」
「了解。レイジ、行くぞ」
「ええ」
エルがゆっくりと門を押した。重たい門はゆっくりと音をたてて開いていく。中は礼拝堂のようになっており、中央には魔法陣が描かれていた。そして、白髪の少女――レンが立っていた。
レンはエルのことに気が付くと、ふっと笑んでみせた。
「待っていたわ。来ると信じていた。護衛は帰してくれるとありがたいのだけど」
「相棒だ」
「ふうん。まあ、いいわ。すぐ力を発動できるの?」
「もちろん。その前にハウリアを」
レンはため息をつく。そして、指を鳴らした。魔法陣の中央でぱんっと光が弾けたかと思えば、鎖に縛られたハウリアが現れた。
「エル!?」
「まったく、捕まっているのでは世話ないですよ。兄上?」
エルが頭をかいて言えば、酷く驚くハウリアの姿。
「レイジ、ハウリアを」
「はい」
レイジがすぐにハウリアの鎖を解き、肩を貸して魔法陣から降りた。
レンはにこりと微笑み、「約束よ」と言った。エルは小さく頷くと、レイジに目を配らせた。レイジもこくりと頷く。エルは魔法陣の中に入り、手を伸ばした。
「これで、私の復讐は完成する」
エルの様子を眺めたレンはうっとりとその様子を眺めた。魔法陣に魔力を注いでいく。
「天の目を覗く者。悲しみの先に伝え、その導き手を示す者。ダンジェリスト!」
エルの呪文と共に、魔法陣から風が巻き上がる。エルの長い髪を揺らし、レンの白い髪も風が巻き上げていく。驚くハウリアに、無表情で成り行きを見守るレイジ。そして、魔法陣が一度強く発光した。
「これは――」
次の瞬間、エルは水の中にいた。息はできる。自由に手足を動かせる。しかし、エルが目を凝らせば、その世界は少しずつ姿を変え、金色の世界へ変わっていく。その時だった。声がエルの頭の中で響く。若い男の声だった。
『汝、真実の名を――』
過去に聞いた問いかけ。エルは意を決して、叫んだ。
「我が名はエル・ラ・ローレン! 妖精眼を引き継ぐ者なり!」
『然り――』
声が消えたと同時に金色の世界は形を変える。魔法陣とエルの魔力で生み出される黄金の城、黄金の都市。それは黄金郷と言えるだろう。
その事に対し、エルは目を丸くした。そして、レンや、ハウリア、レイジもまたその場にいる。しかし、血に濡れたり、真っ黒な影たちが倒れる訳でもなかった。
やがて、エルの魔力で黄金郷が完成する。
――あの時とは違う。
ほっとしたエルだったが、レンが詰めかけて来た。彼女は水の中にいるように浮いている。いや、ハウリアもレイジも同じだった。エルは自分だけがこの空間を見ていることに気が付いた。
「騙したのね!?」
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