婚約破棄から始まるジョブチェンジ〜私、悪役令嬢を卒業します!〜

空飛ぶパンダ

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21.隠し扉を開く呪文は異世界でも共通です

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「行ってしまったわね……」

一人、部屋に取り残されたローゼリア。
一応、自分は保護対象のはずなのに、一人きり…。


………。



「奥様、こちらでしたか。」


ビクッ!!!


「奥様?私です。奥様の侍女です。」


「あ、えぇ。ごめんなさい、今一人だと思ってたから、驚いちゃって…」


「奥様がお一人?…執事のセバスはどちらに?」


「…さぁ?私を置いて部屋を出て行ったから、わからないわ」


「この状況で奥様をお一人に…?」


侍女も事の異常さに眉間にシワが寄る。
しかし、優秀な侍女はどのような時も慌てない。

「屋敷の様子がおかしいです。一階の部屋の窓が割られて、何者かの侵入を確認しました…が、その後、不審者の発見には至っていません。…奥様、念のため避難いたしましょう。」

そう言った侍女に連れられて、屋敷に隠されていた通路を通り避難することとなった。

侍女に案内されるままフェンリルの書斎へ向かい、書棚の一番下の本を手順通りにずらすと、パカっと下に隠し通路の入り口が開く。

でも、こういう通路の存在って、普通の侍女が知っている事なのかしら?

ローゼリアに侍女への不信感が芽生える。それを察した侍女に事情を説明されると一瞬で霧散したが。
いわく、

「私は奥様付きの筆頭侍女です。旦那様から、奥様の身に危険が感じられれば躊躇わず使うように、と隠し通路の存在は知らされておりました。」

愛されていますね、と微笑みながら言われたのだもの!!
フェル様ッ、好きっ!!!


隠し通路は換気が悪いのか、嗅ぎ慣れない変な臭いがするし、明かりがなければとても先に進めないほど暗い。
苦手な虫が飛び出して来そうで思わず躊躇したが、「奥様、お早く」と急かす侍女に促され、勇気を出して足を踏み入れた。

そうして薄暗い通路を侍女が持った明かりで照らしながら進む、進む、進む……ぜぇはぁ。
ローゼリアの体力が限界をお知らせする直前、剥き出しのゴツゴツした岩が目立つ場所に到着した。

これって、ここで行き止まりじゃない?
まさか、ここが避難場所?え、普通に嫌なのだけど。あ、ダメよローゼリア。ここで「わたくしにこんな所で休めと言うの?!」とか思っちゃ。それじゃ悪役令嬢に逆戻りだわ。今は緊急時なのだし、我慢しなくちゃ!

ローゼリアが自分を納得させていると、侍女が突然、壁に向かって両手を前に伸ばし「オープンセサミ!!」と訳の分からない言葉を大声で叫んだ。
するとゴゴゴッと岩が割れて動き出す。

ーッ、開いた!!!?

まるで魔法のような、有り得ない光景に目を疑う。


なんだ、魔術って大したことないって思ってたけど、やっぱり凄いんじゃない!変な呪文だったけど……おーぷんせさみ?


これが魔術大国の実力なのね~と感心していると、岩が完全に左右に割れて、その先に道が現れた。


「奥様、この呪文は世界共通なのです。」キリッ


え、だめじゃない?バレバレの呪文で隠し扉を開くのは。「冗談ですよ」ああ、そうよね、貴女たまにそういう意味不明な冗談を言うわね。


愉快な侍女に手を引かれ、岩を恐る恐る飛び越え進む。
先に行けば行くほど、明るくなっていることから、この先は外に繋がっているようだ。

そうしてたどり着いた終着点は、木漏れ日も美しい、森の中だった。

「奥様、先に狩猟小屋がございます。お疲れのところ申し訳ありませんが、そちらまで、もう少し頑張って下さい。」

確かに非常に疲れた。そもそも貴族令嬢のローゼリアは普段これほど歩くことはない。喉も渇いたし、休みたい。
……それでも


「……大丈夫よ、あと少しなら、頑張るわ。」


私は、もうって決めたもの。


✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


そうして、目的地の小屋に着いたローゼリアは、流石に体力切れで倒れ込んだ。

も、もう、一歩も歩けない……

そんなローゼリアを聖母のような慈愛に満ちた顔で侍女が見ている。まるで、初めて歩行した我が子を見るような目だ。

侍女の視線に気付いたローゼリアは、思わずシャキッと背筋を伸ばして貴族令嬢らしく姿勢を正し、無様な姿を晒してなんかいませんよ、とすまし顔をしてしまった。

そうやって、二人で戯れていると、太陽が空の真上に見えるような時間帯になっていた。

「奥様、こちらに非常食がございます。味はイマイチですが、栄養はありますので、どうぞお召し上がりください。」

「ありがとう、いただくわね。」



「奥様、私の手持ちの茶葉ですが、紅茶をお入れいたしましょうか?」

「え、紅茶があるの?嬉しい!いただくわ。」

「少しですが、クッキーもございます。」

「まぁ、クッキーまで!貴女の分もあるの?一緒に食べましょう!」



「奥様、足がお疲れでしょう。マッサージ用の香油を少し持っておりますので、こちらへ足をお預けください。」

「え、香油まで持ってたの?!…ありがたいけれど、貴女の有能さが怖くなってきたわね。」



「奥様、気分転換に楽器でもいかがですか?」

「え、が、楽器?」

「はい、私、少々笛を嗜んでおりまして」

「へ、へぇ。…って、それオーボエじゃない!?え、結構立派なケース付き」

「奥様、オーボエは剥き出しの状態では保管できない楽器なんですよ?」

「知ってるわよ?!だから驚いてるんでしょ!?」



「奥様、」

「次は何を出すつもり?!貴女のポケットはどんな大きさをしているの?!
さっきの演奏も素晴らしかったわ!
けれど、なぜかしら?変な恐怖を感じるのよ!「まさか〇〇はないわよね?」って聞いたら「あるよ。」って真顔で返される感じの恐怖よ!おわかり?!」

「……奥様、落ち着いてください。もう何も出しません。」

「っ!!そ、そうよね、ごめんなさい、私ったら取り乱して恥ずかしい。異常事態にどうかしてたわ。そうよね、もうさすがに何も出ないわよね。」

「……はい、モウカラッポです。」

「ん?何か棒読みだったような…」

「キノセイです。」


「…………。」


「…………。」


ふふふ、アハハハ、ふふふはははは…。


「ねぇ、真面目な話をしましょう?」

「はい、奥様。」

「さっきから、だいぶ時間が経つわよね?でも、救援部隊はまだ来ない…これって大丈夫なの?」

「……。いえ、残念ながら遅すぎます。何かあったとしか思えません。このままここにいては危険かもしれませんね。」

「貴女が場を和ませようと尽くしてくれた事には気付いています。ありがとう。でも、事は急を要するわ。もし、私が狙われているとしたら、早く安全を確保しなければ…」

「!…恐れ入ります。そうですね、に早急に奥様をご案内しなければ…」

、ね…」

それって……どこかしら??

「……しかありませんね。」

え、って、どこ??


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