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「普通の少年になりたかった。ただ、それだけだったんだ…。」
僕は、雨の中で冷たく横たわる男の子を見て、そう呟いた。冷静な頭とは裏腹に、心臓はばくばくと鳴り響く。耳鳴りが止まらない。その時の僕の心の中では、人間を手にかけた恐怖と言いようもない罪悪感、そして…これからの生活への高揚感が複雑に絡み合っていたのだったーー。
短編小説#2 「613」
僕は政治家の父と弁護士の母の元に生を受けた。俗にいうサラブレッドである。そして、優秀な父と母の元に生まれた時点で、僕から普通の少年としての生活は失われた。2歳頃、言葉をある程度理解し始めた頃から、両親の英才教育は始まった。礼儀を叩き込まれるところから始まり、国語、数学、理科社会…これらの科目を、僕は小学校入学までに習得した。そして、小学校を卒業する頃には、高校で習うような科目も完璧に習得してしまったのである。そんな僕を、世間は神童と呼び、持て囃した。両親も、会うたびに僕を褒め称えてくれた。しかし、僕はそのような賛辞に満足感を得ることは一度も無かった。僕は幼くして全てを得てしまったことで、何をするにもされるにも、虚無感が付き纏うようになっていたのである。そして、そんな日々を過ごす中で、僕は必然的にこんな願望を抱くようになった。
普通の生活を送りたい。
その願望は僕の心の中で日に日に大きくなっていたが、特別な存在として生まれてきた僕にとって、それは叶わぬことであった。
そんなある日の昼下がりのことであった。僕は近くの公園に出向き、日課である散歩をしていた。
「お兄ちゃん、もっと押してー!」
ブランコに乗る女の子が無邪気に言う。2年程散歩を続けているが、初めて見る女の子だった。そして、ブランコを押している少年に何気なく目を向ける。
「あんま勢いつけると怪我するぞー?」
その少年。恐らく女の子の兄であろうその少年の顔を見た時…僕は目を疑った。
その少年の顔は、僕と瓜二つだったのだ。
僕は声も出せずに、そこに立ち尽くした。初めはドッペルゲンガーかとも思ったが、そういった類のモノを一切信じていない僕は、すぐに思い直す。そして、状況を整理し考えた上で、あの少年は自分と顔がそっくりな別人であるという結論に達した。向こうはまだ僕に気づいていない。僕は咄嗟に身を隠し、その兄妹を観察することにした。しばらくすると、その兄妹は帰路に着いたので、僕は後を尾けていった。兄妹の家は普通の一軒家で、新築であるところから、最近引っ越してきたのだということが伺えた。
「ただいまー!」
「おかえりー」
兄妹がドアを開けると、母親らしき女性が温かく出迎えていた。その光景は、僕が理想とする「普通の生活」そのものであった。
同じ顔をしていても、こんなにも違うのか。
そしてその瞬間、僕の脳内は黒い欲望で満たされた。
奪いたいーー。
その後、家に帰ると、僕はあの少年とその家族のことを徹底的に調べあげた。そして、あれからも兄妹は公園にやって来ていたので、並行して観察も進めた。そして僕は、半年をかけて少年とその家族のことを知りつくした。そして中二の6月13日。僕は温め続けていた作戦を実行に移した。作戦はほぼ想定通りに進んだ。
「普通の少年になりたかった。ただ、それだけだったんだ…」
こうして僕は、神童を卒業した。
「お兄ちゃん、遅いなぁ…まだかなぁ…」
「ただいまー!」
「あ、帰って来た!おかえりー!」
「ただいま!いやー、急に雨が降ってきたからさ、もうびしょ濡れに…」
「あれ、お兄ちゃん…」
「ん?」
「…じゃ、ない?」
613。
僕は、雨の中で冷たく横たわる男の子を見て、そう呟いた。冷静な頭とは裏腹に、心臓はばくばくと鳴り響く。耳鳴りが止まらない。その時の僕の心の中では、人間を手にかけた恐怖と言いようもない罪悪感、そして…これからの生活への高揚感が複雑に絡み合っていたのだったーー。
短編小説#2 「613」
僕は政治家の父と弁護士の母の元に生を受けた。俗にいうサラブレッドである。そして、優秀な父と母の元に生まれた時点で、僕から普通の少年としての生活は失われた。2歳頃、言葉をある程度理解し始めた頃から、両親の英才教育は始まった。礼儀を叩き込まれるところから始まり、国語、数学、理科社会…これらの科目を、僕は小学校入学までに習得した。そして、小学校を卒業する頃には、高校で習うような科目も完璧に習得してしまったのである。そんな僕を、世間は神童と呼び、持て囃した。両親も、会うたびに僕を褒め称えてくれた。しかし、僕はそのような賛辞に満足感を得ることは一度も無かった。僕は幼くして全てを得てしまったことで、何をするにもされるにも、虚無感が付き纏うようになっていたのである。そして、そんな日々を過ごす中で、僕は必然的にこんな願望を抱くようになった。
普通の生活を送りたい。
その願望は僕の心の中で日に日に大きくなっていたが、特別な存在として生まれてきた僕にとって、それは叶わぬことであった。
そんなある日の昼下がりのことであった。僕は近くの公園に出向き、日課である散歩をしていた。
「お兄ちゃん、もっと押してー!」
ブランコに乗る女の子が無邪気に言う。2年程散歩を続けているが、初めて見る女の子だった。そして、ブランコを押している少年に何気なく目を向ける。
「あんま勢いつけると怪我するぞー?」
その少年。恐らく女の子の兄であろうその少年の顔を見た時…僕は目を疑った。
その少年の顔は、僕と瓜二つだったのだ。
僕は声も出せずに、そこに立ち尽くした。初めはドッペルゲンガーかとも思ったが、そういった類のモノを一切信じていない僕は、すぐに思い直す。そして、状況を整理し考えた上で、あの少年は自分と顔がそっくりな別人であるという結論に達した。向こうはまだ僕に気づいていない。僕は咄嗟に身を隠し、その兄妹を観察することにした。しばらくすると、その兄妹は帰路に着いたので、僕は後を尾けていった。兄妹の家は普通の一軒家で、新築であるところから、最近引っ越してきたのだということが伺えた。
「ただいまー!」
「おかえりー」
兄妹がドアを開けると、母親らしき女性が温かく出迎えていた。その光景は、僕が理想とする「普通の生活」そのものであった。
同じ顔をしていても、こんなにも違うのか。
そしてその瞬間、僕の脳内は黒い欲望で満たされた。
奪いたいーー。
その後、家に帰ると、僕はあの少年とその家族のことを徹底的に調べあげた。そして、あれからも兄妹は公園にやって来ていたので、並行して観察も進めた。そして僕は、半年をかけて少年とその家族のことを知りつくした。そして中二の6月13日。僕は温め続けていた作戦を実行に移した。作戦はほぼ想定通りに進んだ。
「普通の少年になりたかった。ただ、それだけだったんだ…」
こうして僕は、神童を卒業した。
「お兄ちゃん、遅いなぁ…まだかなぁ…」
「ただいまー!」
「あ、帰って来た!おかえりー!」
「ただいま!いやー、急に雨が降ってきたからさ、もうびしょ濡れに…」
「あれ、お兄ちゃん…」
「ん?」
「…じゃ、ない?」
613。
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