仄暗く愛おしい

零瑠~ぜる~

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仄暗く愛おしい

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 目の前で、次第に形をとり始める光に視線を固定しながらも鏡の意識は瑞樰へと向いていた。二重三重に、光に覆われ姿が見づらくなってきている。肉眼のみならば、彼女が一人でその場に立ち尽くしているようにしか見えない。「瑞樰・・・・」
呼び掛けても、答えは無い。
 瑞樰は、先程からずっと泣きながら見えない鏡乃信を探している。自分の中にると言われ、その身を取り巻いていると言われ自分自身を抱きしめるように両腕でぎゅっと体を押さえつけて。
瑞樰が強く自身を絞めるたびに、鏡乃信の光は輝きを増していた。
「ああ、凄まじい執着だな。瑞樰を、愛おしいと思う気持ちは疑い様もない。けれど、その気持ちは触れた者をも同じ奈落へと落としてしまう。」
雹樹の言葉に、僅かだが光が反応した。
「鏡乃信さんは、瑞樰さんを守っているんじゃないの?」
同じように、雹樹の言葉を聞いていた尊が問いかけにた。守る対象を「奈落」に落とすとはどういう意味なのか。
尊同様、クリスも言葉の意味を捕らえあぐねていた。話にしか、知らない相手だとは言え瑞樰が愛した人を悪く思いたくはない。
「こいつは、俺と同じ類の人間なんだろう。」
ただ一人だけ、鏡は薄笑いを浮かべた。
「同じ獣は、同類の匂いを嗅ぎ分ける。」
鏡の言葉に、雹樹も苦笑いを浮かべていた。
「鏡と同類って・・・・・」
「男の趣味、本当に悪いよ。瑞樰さん。」
尊もクリスも、二人の言葉に頭が痛くなった。鏡乃信の事は何も知らないに等しいが、鏡の事ならばイヤというほど知っている。彼が、どれだけ非常識な人間か。彼がどれだけ、非情で冷徹な人間か。自分にとって必要なもの以外は彼の意識に欠片すら残らない。記憶にも残らない、認識もされない。相手がどれだけ鏡に執着しようと、彼の興味をひくことは無い。
「「大事なモノは、一つだけなんだろう。」」
意図せず、雹樹と鏡の台詞がハモった。雹樹は相手を観察しての感想、鏡は自分と同じならば考えることも同じだろうという結論から。
『どうして、お前は瑞樰を抱いたんだ?』
 その時初めて、鏡乃信が声を発した。正確には、声ではなく思念と言うべきものだろう。
「ほう、会話もできるのか?」
鏡乃信の行動に、雹樹は驚きながらも感心していた。こんな存在になってしまっても、意識や目的を失わずにいられるだけでも稀だと言うのに。他者とコンタクトをとれるだけの、知性も残っているのかと。
『瑞樰は、触れる事さえ怖がったのに。』
鏡乃信の言葉に、その場の全員が息を飲んだ。彼が、何を指してそう言ったかを瞬時に悟ったからだ。
『どうして、お前は瑞樰を抱いたんだ?』

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