仄暗く愛おしい

零瑠~ぜる~

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泡沫の4

仄暗く愛おしい

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 告げられた言葉に、言い返さなかったのはなけなしの理性が働いたからだ。本当は、どうしてと叫んで雹樹に掴み掛りたかった。それでも、握った拳に力を入れることで鏡はその衝動を堪えた。
「力の譲渡の代償を、支払わされたのだ。これは、お前の罪。罰は、甘んじて受け入れろ。」
突き放すように雹樹が告げる言葉が、耳に痛い。
「瑞樰、他に違和感はあるか?僕と出会ってからの事で、分からないこととか。」
困ったように鏡を見つめている瑞樰に、雹樹が静かに問いかける。
山主が奪ったのが、鏡に関する記憶だけとは限らないからだ。他にも、瑞樰の中から消されているものがあるかもしれない。生きていくのに支障はないが、培ってきた大切な思い出を失うということは人間には計り知れないほどのダメージを与える。鏡が傷つくのは自業自得だが、瑞樰にまでとばっちりがきてはたまったものではない。
少しでも、違和感があれば早めに対処できるようにしておきたい。
「雹樹と会ってからの事?」
問いかけに暫し逡巡し、出来るだけ思い出せる範囲で正確に話し始めた。
「尊さん達の家で、お風呂を借りて。雹樹が、出てきて。鏡乃信が、私の傍に居てくれたって雹樹が教えてくれて。
・・・・・私、怪我をしたの?」
話ながら、所々で訝し気な表情を見せた。
「助からない位の、怪我だったから。だから、雹樹に尊さんとクリスさんのことをお願いした?」
話していておかしなところは無いと思いながらも、何かが違うと感じた。首を傾げながら、瑞樰は自分の言葉のどこがおかしいのか考えを巡らせたがどうしても答えに辿り着けなかった。違和感に気づきそうになると、何故か思考がぶれて頭の中に靄がかかる。
「消されたのは、こいつの事だけか。」
瑞樰の話を聞き、雹樹は安堵したように息をついた。
「山主は、礼を欠いたお前の事だけを瑞樰の中から消したようだ。」
それが、神の力を私欲のために使った愚かな人間に対する罰。
「雹樹、私はこの人を・・・」
二人のやり取りを見ながら、瑞樰が問い掛けた。どう考えても、二人の会話を聞く限り自分はこの人を知っている。そして、この人は自分の為に何か重大なことをしてしまったのではないかと不安が込み上げてくる。山主という単語が時折出てきたが、それが原因で自分の記憶に欠落箇所があるのだと。
「瑞樰は、なにも気にしなくても良いんだよ。今回の始末は、この人間とその仲間達に全て背負わせればいい。
静かに、眠ろうとした君を無理矢理呼び戻した罪はしっかりと背負って貰おう。」
瑞樰に向ける優しい笑みとは裏腹に、鏡に放たれた言葉は鋭く冷たいものだった。

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