仄暗く愛おしい

零瑠~ぜる~

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仄暗く愛おしい

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【可愛い子供、弱く小さな子供。蛟の大切な子供。】
【お前を、苦しめるつもりは無かったのに。】
【この人間に罰を与えただけなのに。お前の方が、苦しんでしまっている。】
 鏡の言葉に瑞樰が苦悩し始めた時、山主の声が一斉に響いてきた。
【蛟の大切な子を、苦しめるつもりは無かった。】
【可愛い子供の為になると、思った。】
【勝手な人間に、罰を与えただけなのに。】
声は、瑞樰以外にも聞こえているらしくその場にいた人間全員が四方を見回し声の主を探していた。雹樹だけは、聞こえてくる声に諦めともとれる溜息を吐いていた。
「山主、瑞樰の記憶ではなくこの男の記憶を消してくれれば良かったのに。」
【ごめん、蛟。】
【蛟にも、迷惑をかけてしまった。】
【人間の欲は怖いね。】
【この人間は、変に力があるから記憶を弄り辛かった。】
雹樹の言葉に、山主が返事を返した。山主のほうも、こんな結果になるとは思わなかったと困惑している。
山主は自身の力を勝手に使った鏡に罰を与えただけだった。それなのに、鏡よりも周囲の者達の方が苦しんでいる。鏡本人が落ち込んだように見えたのはほんの一瞬だけだった。余りにも予想外の展開に、これでは罰を与えた意味が無いとがっかりした。更に、久々に見つけたお気に入りの子供が困ってしまっている。自分達の力を分けてあげた子供は、蛟の愛し子だった。そのせいで、蛟まで困っている。
【この人間を、閉じ込めてしまえば良い?】
【寿命が尽きるまで、蛟達に近づけない様にしようか?】
雹樹達を困らせるのは本意ではないと必死に伝えてくる山主。困らせている一番の原因を、排除すれば全て丸く収まるだろうと提案してきた。そんな山主の声に、人間達は顔色を変えた。山主がその気になったら一瞬で、鏡を神のテリトリーに閉じ込めることが出来る。声を聞かせているのも、雹樹や瑞樰の為だけだ。尊やクリス、鏡だけならば問答無用で閉じ込められている。神と人間の時間の感覚は全く違う、神にとってのほんの少しは人間にとっては一生に値する場合がある。ほんの少し、閉じ込めるだけのつもりで人間を自分のテリトリーに入れてそのまま死なせてしまう。
 そんな目にあってたまるかと、瞬時に警戒対背を敷いた。閉じ込められてからでは、逃げ出すことなど容易ではない。それこそ、何十年という時間が流れてしまう。
【それとも、愛し子がこちらに来る?】
【蛟と一緒に、こちらで暮らす?】
【蛟も、こちらの方が暮らしやすいでしょう?】
【嫌な人間を入れるより、愛し子と一緒に暮らす方が良いね。】
気まぐれを体現するかのように、先程とは真逆のことを提案し始めた。しかも、その山主の提案に雹樹が嬉しそうな反応を見せていた。
  
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