仄暗く愛おしい

零瑠~ぜる~

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泡沫の4

仄暗く愛おしい

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 一連の騒動から半年、漸く瑞樰の周りに落ち着きが戻ってきた。
山主の元から帰ってから、瑞樰を案じてただ待っているしかできなかった一族の者達が泣きながら出迎えた上に彼女を取り囲んで離さなかった。予知していたこととはいえ、瑞樰を助けることが出来ず死なせてしまったと泣き崩れた。
「戻ってきてくれて嬉しいけど、また苦しめてしまった。」
人間としての領域を超えてしまった瑞樰に、皆一様に謝罪この言葉を述べた。自分達のように初めから、人間とは違うと分かって生きてきたのとは違う。一度は普通の人間として生を閉じている、なのに周囲の勝手な望みで引き戻されてしまった。そのことがこれから先、瑞樰をどれだけ苦しめるか。
「みんなは、何も悪くないでしょう?
私が、危険な目に合うってちゃんと教えてくれたし。それに、こうやって戻ってくれたんだから私は感謝しているよんだよ。みんなと離れるのは寂しかったから。」
苦悩する一族の者達に、瑞樰が気にしないでくれと言うと彼等はまた涙ぐんだ。瑞樰が、これからどれだけ嫌な思いをするか知っているだけに。
「お前達が、瑞樰の為に動いたことは分かっている。だからこれ以上、自分達を責めるのは止めろ。お前達の様な招く力を持つ者がそのように嘆いてばかりいては陰の気を呼び込んでしまうだろう。」
くよくよする者達を、雹樹が窘めると彼等も漸く落ち着きを取り戻した。悔やむ気持ちは当事者同士が幾ら言葉を尽くしても、答えが出ないことが多い。今回の事も、瑞樰が幾ら大丈夫だ気にするなと言っても彼等には響かなかった。だが、圧倒的強者である雹樹の言葉はある意味どんな説明よりも説得力がある。
まさに、神託である。
 一族の者達はそれで済んだが、尊やクリスさらに本当の当事者である鏡はそうはいかなかった。
瑞樰の記憶が一部、消されていることで彼等との間に微妙な緊張感が生まれていた。
瑞樰にとって、尊とクリスは命の恩人で大切な宝物の様な友人。だから、自分の死後、彼等の為に雹樹に酷いお願いまでしてしまった。そのことを、二人から責められたがそれすらも愛情だと理解しているから嬉しいと思えた。そんな中に、鏡も本来は含まれているのだと都度、説明されても瑞樰には理解できなかった。
「鏡さんという方の事は、知りません。」
説明されるたび、胸を刺すような痛みと共に口する言葉。その言葉を口にするたび、鏡も痛みを堪える様な瞳をした。そのことに、申し訳なさを感じながらも瑞樰は如何することも出来ずにいた。
「消された記憶は、やっぱり戻らないんだね。」
「神のすることだから、戻るとしたら山主様の気が変わったらって事に賭けるしか無いんじゃない?」
尊とクリスは折に触れ、何度も瑞樰に記憶の確認をするようになった。その度に、記憶は戻っていないことを話すと彼等は仕方が無いと言う風に笑った。
「むしろ、鏡はこの程度の罰で良かったって感謝しなけいけないと思うんだ。」
「確かに、命を取られたりしても不思議じゃない状態だったのに。」
罰当たりなことをした鏡が、悪いと説教を交えながらそれでもこの罰が自分の事でなくて良かったと心から安堵していた。 
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