仄暗く愛おしい

零瑠~ぜる~

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酔夢

仄暗く愛おしい

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 本業の仕事を終え、帰宅すると大抵は深夜を過ぎてしまう。そんな時間に、出迎えてくるものなど居る訳もなく寝静まった室内を物音をたてぬよう自室へと向かう。
鏡にとっては、これが瑞樰と出会うまでの日常だった。彼女と出会い惹かれ合い、かけがえのない存在となってからは出来るだけ瑞樰の傍に居るために出かけなければいけない仕事は他へ回していた。どうしても、自分が行かなければいけないモノだけは、仕方なしに出かけては速攻で片づけてきていた。鏡の所へ回されてくる仕事はそのほとんどが、汚れ仕事と言われるものだ。まっとうなところでは、相手にしてもらえず大金を積める者だけが門戸を叩くことが出来る。以来の八割が殺人だと言っても、過言ではない。毎日、何十件もの呪殺依頼を一族は請け負っている。
自分をないがしろにした家族を殺して欲しい、馬鹿にした部下を、上司を、殺して欲しい。そんな、依頼は日常茶飯事で中にはただ気に入らないからという理不尽な理由で依頼を出す者もいる。本来、呪殺という者は願う側も行う側もそれなりのリスクを伴うものだ。それゆえ、依頼内容は厳選され本当に他にどうすることも出来ない状況に追い込まれてしまった者だけが藁にも縋る想いで頼むのが普通である。だが、鏡の一族は元々がそのあたりの敷居が低い。提示する料金を支払えるのであれば、依頼主の事情など忖度しない。代わりに、本来背負うはずのリスクの説明も余程の高顧客で無ければ行わない。それが、依頼を受ける条件にもなっている。
「どんな結果になろうと、殺してくれればいい。」
依頼主のほとんどがそう言って、呪殺を頼んでいく。
 瑞樰が戻ってきてからは、今まで以上に仕事を請け負う回数が増えていた。理由は一にも二にも、瑞樰を守る為の
生活費を稼ぐためだ。少しでも、彼女の負担が少なくなるように。今でも十分に一般家庭の年収に匹敵するほどの収入を一度の依頼で得ているが、それでは不十分だとクリスや尊に怒鳴られた。
「僕達の仕事は、サラリーマンのように決まった金額が毎月貰えるものではないよね?
万が一、アクシデントが起きて仕事が出来ない状態になったらその間は完全に無収入になってしまうでしょう。自分だけなら、それでも何とかなるから良いけど。瑞樰さんに、そんな博打みたいな生活をさせる訳にはいかないよね?」
丁寧な説明ながらも、こんな事言わなくても分かっているよなと言う圧が半端なく強かった。仲間内でも一番、おっとりとしている尊ですらこれ程の圧で迫ってくるのだからクリスや、瑞樰の一族の者ではどれほどの勢いで詰め寄ってくるか。
もとより、瑞樰に金銭面でも生活の苦労など掛けるつもりは全くなかった鏡だが予想以上に周りの圧が強かった。
 この日も、何喧嘩の依頼終え皆が寝静まったころに帰宅した。
誰も、起きてなどいないと思い疲れた気持ちを溜息と共に吐き出した。
「おかえりなさい。」
誰もいないと思っていた場所から、不意に声を掛けられ不覚にも本気で驚いてしまった。
「っつ!?」
真っ暗な居リビングに、本来ならば自室で眠っているはずの瑞樰が静かにソファに座っていた。
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