仄暗く愛おしい

零瑠~ぜる~

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優しい思い

仄暗く愛おしい

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 憮然とした表情のまま、鏡は黙々と御幣を作っていた。普段の彼の仕事にはあまり使わない術具だが、あれば便利なので時間のある時に作り溜をしている。ぱっと見には、和紙で作られた綺麗な紙細工にしか見えないが術者が見れば喉から出が出るほど欲しがる代物だ。簡単な作りのモノでも、術者の力を1.5倍から2.0倍底上げしてくれる。
さらに、複雑で美しい細工の御幣に至っては4.0倍のブーストがかかる。熟練の術者だからこそ作れる、チートアイテムだ。鏡の家業が汚れ仕事を専門としているとはいえ、こういったアイテムだけでもかなりの需要がある。
今ほどの収入には届かないだろうが、一般人の何十倍もの収入になることは間違いない。鏡一人だけならば、今まで通り生きていけばいいが傍に瑞樰が居るとなると話は違ってくる。
「汚れ仕事は、極力自分では受けないようにして代わりに術具を売ればいいって言ってるのに。」
「本当にな!こっちは、お前の心配をしている訳じゃ無いってのに。瑞樰さんに万が一、火の粉が及ばないようにそうしろって言ってるんだっての。」
黙々と御幣を作り続けている鏡に、二人はぶつぶつと文句を言う。
「人間としては、限りなく屑だけどと。こいつの作る術具の性能は半端じゃない。この御幣一つがあるか無いかで、生き死にが変わってくる。それだけの物を作れるのに、本当に人の言うことを聞かない。」
美しく仕上げられた紙細工を眺めて、クリスが毒づく。同じ術者として、鏡の才能は素直に羨ましいと思っている。術単品、戦闘能力単品で見ればクリスも尊もそれほど引けはとらない。たが、鏡のように術具を作る才能は持ち合わせてはいなかった。術者のたしなみとして、作り方は知っているし作ることも出来る。だが、性能に大きな差が生じる。自分達が作った術具はあくまでも補助としての性能しか引き出せない。鏡の作り出す術具のように倍の効果やまして4.0倍のブーストなどかかりはしない。それほどのモノを作れるのに、鏡自身はそのことに一切関心が無い。
「つーか、今回かなりの数の術具作ってるけど内職なわけないよな?
こんなに、必要になる様な依頼を近々受けるってこと?」
普段ならば、3~5個も作れば十分な代物をすでに10個以上作っている。
ジト目気味に、クリスが問いかけるが返事は無い。彼自身、もとより返事など期待はしていないがそれでも気になった。どこぞの国の大統領でも暗殺に行くのかというような装備に匹敵するほどの術具、そんなものを黙々と作り続けられては心中穏やかではいられない。
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