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巡る縁は糸車の様に
貴美子
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貴美子
「先生。どうしたんです?ボーっとしちゃって」
「...ああ、いいえ、何でも無いわ。そうだ、この場所に、ディスプレーを移動しましょう」
「あっ、はい。良いですね。その方が」
デパートの服飾関係の従業員が、私の指示にしたがってクルクルよく働いている。
そう、私は「先生」なのだ。
*******************************
あまり仲の良くなかった両親。父親が事業に失敗してから、家族の幸せはどこかに行った。荒れる父、泣くだけの母、そして、その父の感情的な吐け口となったのが、あたいだった。
幼い時は、殴る、蹴るの虐待を受け、中学を卒業する頃、酒に溺れていた父親に犯された。
半狂乱になる母、悪びれぬ父、卒業と同時に、あたいは家を出た。
そこで、心を決めた。利用できる者は何でも利用して、のし上がる。バイトに明け暮れ、ある程度纏った金額になると、服飾関係の専門学校に入学した。親元から、通う生徒では無く、一人暮しのあまり裕福そうに見えない人を探した。
「あゆみ」に出会ったのは、そんな時だった。
ただ、真面目そうなそんな感じしかしない。心の中でほくそえんだ。利用できる。取りあえずは、住む所。
あゆみは、同じ家に住む事を快く同意した。全く疑いの目を向けずに。
利用された事も知らずに。
最初の一年は快適だった。怒鳴る乱暴者などいなかったし、あゆみは、バイトと、デザインを必死にこなしていた。あたいは、服飾の勉強をしながら、高額の給料をもらえる所を探しつづけ、とある、クラブに勤める様になった。
あゆみは、あたいが、遅くまで帰らないのは、どこかでデザイン案を練っているものと勘違いしていたが、実際は、あゆみが眠ってから、あゆみの没デザインをちょっと変えて、書き写していただけだった。
その頃勤めていたクラブ「ロワール」私の常連に、ある大手アパレルメーカーの人間がいた。その世界の話を聞くと、たいそう儲かるようだ。特にデザイナーならば。頭の中にあゆみのスケッチブックが過った。その客が言った。
「君、あの専門学校のデザイン科か?」
「ええ、そうです。なにかと御金かかっちゃって~」
「ふ~ん。こないだ、うちの若い者が行ってたんだ。壁際にいろんなデザインが張り出してあったろ。」
「ええ、もう直ぐコンテストなんですよ」
「知っている。君も出品するのかい?」
「そのつもりですけど」
「...そうか。あのデザインが君の物なら良いんだがな」
「どんな物です?」
男は言った。
「ほら、茶系統のシックな色合いの、70’sっぽいラインを組み合わせたやつさ。名前を良く見てなかったんだけど...」
あたいはそのデザイン画に覚えがあった。「あゆみ」のだ。咄嗟に口に出た言葉にあたい自身驚いた。
「それ、たぶん私です。リ・オリーのシリーズですね」
『リ・オリー』それは、私が提出したデザインにかかれているサイン。あゆみの作品を改竄した物の呼び名。
「『リ・オリー』か、いいね~~今度のコンテスト、優秀賞取ったら、うちと専属契約を結ぼう!!」
男はそう言って手を差し出した。
「ホントですか~~絶対ですよ~~」
酒の席の約束などは、風のように軽い。あたいなんか、もし、約束を全部果たしていたなら、20回以上結婚して、子供なんか40人以上いる事になる。しかし、これはチャンスかもしれない。
いいえ、チャンスよ。
チャンスにしなくては。
あたいは。悩まなかった。
あたいはコンテストに集中すると言って、彼女を一人にした。わたしがいてはまずい。
計画は簡単だった。なにも彼女を始末する必要は無い。
ただ、彼女のデッサンとスケッチブックが欲しいだけだ。
店に出入りを禁止された、若いのに、幾許かの御金を渡し、あゆみと、あたいが住んでいた家を荒らさせた。それだけ。『なにもとる必要はない。金目の物を奪っても良いし、とらなくても良い』
彼等は、簡単なバイトと思い、実行した。何を取っても良いと言うと、人間の獣性が剥き出しになる。良く知っている反応だった。御蔭で、部屋の中はめちゃくちゃになった。あとは、あゆみが帰る前に、スケッチブックとデッサンを頂く。それだけで良かった。
企みはうまく行った。あたいは、あゆみの大切なスケッチブックを手に入れ、それを元にコンテスト作品を作った。一番の脅威を排除したのだ。そして、その脅威の武器をあたしは手に入れた。
そして、コンテストに合格した。
チャンスを手に入れる為には、なんだってする。そう、裏切りも、犯罪も!
あたしは、その成果をぶら下げて、あのメーカーの男に逢いに行った。
「おめでとう、コンテスト良かったね」
「はい、有難う御座います。」
「で?何の用?」
「はい、こないだの話ですが...」
「ああ、専属デザイナーの話ね。今、上司を説得中なんだ。....もう少し時間がいるかな?所で今晩どう?」
ピンと来た。そうか、そう言う事か。あたしは、その晩その男と寝た。
そして、私は、専属デザイナーの地位を得た。チャンスを掴んだのだ。
*******************************
あるデパートの中の服飾部門で、デザイナー契約を結んだ。3年の間に私は、有名になった。『リ・オリー』のおかげたっだ。そう、あのデザイン スケッチブックの中からこの3年間、次々と新作を出し、大きくしたのだ。そのブランドを引っさげ、とうとう、個人デザイナーとして、デパートの一角を私のブティックにする事に成功した。
全ては、うまく行くはずだった。そう、妖艶に微笑み、何人もの男達を渡り歩き、その間、利用できる物は全て利用した。名誉、御金、ステータス。全ては私の物だった。
そう、あの時、あゆみを見つけるまでは。
あゆみは、そのデパートに勤めていた。私は、恐怖に肌が粟立った。
これからと言う時に!
私は強引な手段を取った。となり居た部長に冷たく言い放った。
「あの人とは、一緒に御仕事できません」
これで、私のこのデパートにおける位置も確認できる。一従業員と、私。どちらが重要なのか。
あんのじょう部長は私を取った。
あゆみは私の目の前から消えた。
しかし、まだ、恐怖は収まらない。
何故なら、あゆみのスケッチブックの残りがもう数少なくなって居た。私の実力が試される時が来たのだ。新たなシリーズを出さなければ、ここに出店できる時は短い。
やってやる。 また、新たに利用できる者を探し出し、そして、私はのしあがるのだ。
「先生、御盛況ですね。」
結城と言う男がにこやかに近づいてきた。
「有難う。」
「益々の御発展を、うちの為にも頑張ってくださいね」
「ええ、わかって居るわ」
「『リ・オリー』いいですね~。」
「有難う」
「次のシリーズは、どんな形になるんでしょうね」
「...み、みての御楽しみよ」
「それは、それは。楽しみです。では....ああ、織部さんは、通販営業部第三課への辞令が出ました。良かったですね」
その言葉と、彼の目の中に挑戦的なものが含まれていた事に気付いた。
「どう言う事?」
「ええ、あなたが、飛ばした人ですよ....」
「....御茶でもいかが?」
懐柔にかかろうとした私の言葉に、結城は、にべも無く断った。
「いや~~残念です。宮仕えはつらい、また、今度御一緒しましょう」
そういって、にこやかに、立ち去って行った。
彼の後ろ姿に、全身の産毛が立ち上がった。
こいつは、知っている。
そう、『リ・オリー』の秘密を知っている。
足元が崩れ落ちそうな不安が私の身体を締め付けた。
「先生。どうしたんです?ボーっとしちゃって」
「...ああ、いいえ、何でも無いわ。そうだ、この場所に、ディスプレーを移動しましょう」
「あっ、はい。良いですね。その方が」
デパートの服飾関係の従業員が、私の指示にしたがってクルクルよく働いている。
そう、私は「先生」なのだ。
*******************************
あまり仲の良くなかった両親。父親が事業に失敗してから、家族の幸せはどこかに行った。荒れる父、泣くだけの母、そして、その父の感情的な吐け口となったのが、あたいだった。
幼い時は、殴る、蹴るの虐待を受け、中学を卒業する頃、酒に溺れていた父親に犯された。
半狂乱になる母、悪びれぬ父、卒業と同時に、あたいは家を出た。
そこで、心を決めた。利用できる者は何でも利用して、のし上がる。バイトに明け暮れ、ある程度纏った金額になると、服飾関係の専門学校に入学した。親元から、通う生徒では無く、一人暮しのあまり裕福そうに見えない人を探した。
「あゆみ」に出会ったのは、そんな時だった。
ただ、真面目そうなそんな感じしかしない。心の中でほくそえんだ。利用できる。取りあえずは、住む所。
あゆみは、同じ家に住む事を快く同意した。全く疑いの目を向けずに。
利用された事も知らずに。
最初の一年は快適だった。怒鳴る乱暴者などいなかったし、あゆみは、バイトと、デザインを必死にこなしていた。あたいは、服飾の勉強をしながら、高額の給料をもらえる所を探しつづけ、とある、クラブに勤める様になった。
あゆみは、あたいが、遅くまで帰らないのは、どこかでデザイン案を練っているものと勘違いしていたが、実際は、あゆみが眠ってから、あゆみの没デザインをちょっと変えて、書き写していただけだった。
その頃勤めていたクラブ「ロワール」私の常連に、ある大手アパレルメーカーの人間がいた。その世界の話を聞くと、たいそう儲かるようだ。特にデザイナーならば。頭の中にあゆみのスケッチブックが過った。その客が言った。
「君、あの専門学校のデザイン科か?」
「ええ、そうです。なにかと御金かかっちゃって~」
「ふ~ん。こないだ、うちの若い者が行ってたんだ。壁際にいろんなデザインが張り出してあったろ。」
「ええ、もう直ぐコンテストなんですよ」
「知っている。君も出品するのかい?」
「そのつもりですけど」
「...そうか。あのデザインが君の物なら良いんだがな」
「どんな物です?」
男は言った。
「ほら、茶系統のシックな色合いの、70’sっぽいラインを組み合わせたやつさ。名前を良く見てなかったんだけど...」
あたいはそのデザイン画に覚えがあった。「あゆみ」のだ。咄嗟に口に出た言葉にあたい自身驚いた。
「それ、たぶん私です。リ・オリーのシリーズですね」
『リ・オリー』それは、私が提出したデザインにかかれているサイン。あゆみの作品を改竄した物の呼び名。
「『リ・オリー』か、いいね~~今度のコンテスト、優秀賞取ったら、うちと専属契約を結ぼう!!」
男はそう言って手を差し出した。
「ホントですか~~絶対ですよ~~」
酒の席の約束などは、風のように軽い。あたいなんか、もし、約束を全部果たしていたなら、20回以上結婚して、子供なんか40人以上いる事になる。しかし、これはチャンスかもしれない。
いいえ、チャンスよ。
チャンスにしなくては。
あたいは。悩まなかった。
あたいはコンテストに集中すると言って、彼女を一人にした。わたしがいてはまずい。
計画は簡単だった。なにも彼女を始末する必要は無い。
ただ、彼女のデッサンとスケッチブックが欲しいだけだ。
店に出入りを禁止された、若いのに、幾許かの御金を渡し、あゆみと、あたいが住んでいた家を荒らさせた。それだけ。『なにもとる必要はない。金目の物を奪っても良いし、とらなくても良い』
彼等は、簡単なバイトと思い、実行した。何を取っても良いと言うと、人間の獣性が剥き出しになる。良く知っている反応だった。御蔭で、部屋の中はめちゃくちゃになった。あとは、あゆみが帰る前に、スケッチブックとデッサンを頂く。それだけで良かった。
企みはうまく行った。あたいは、あゆみの大切なスケッチブックを手に入れ、それを元にコンテスト作品を作った。一番の脅威を排除したのだ。そして、その脅威の武器をあたしは手に入れた。
そして、コンテストに合格した。
チャンスを手に入れる為には、なんだってする。そう、裏切りも、犯罪も!
あたしは、その成果をぶら下げて、あのメーカーの男に逢いに行った。
「おめでとう、コンテスト良かったね」
「はい、有難う御座います。」
「で?何の用?」
「はい、こないだの話ですが...」
「ああ、専属デザイナーの話ね。今、上司を説得中なんだ。....もう少し時間がいるかな?所で今晩どう?」
ピンと来た。そうか、そう言う事か。あたしは、その晩その男と寝た。
そして、私は、専属デザイナーの地位を得た。チャンスを掴んだのだ。
*******************************
あるデパートの中の服飾部門で、デザイナー契約を結んだ。3年の間に私は、有名になった。『リ・オリー』のおかげたっだ。そう、あのデザイン スケッチブックの中からこの3年間、次々と新作を出し、大きくしたのだ。そのブランドを引っさげ、とうとう、個人デザイナーとして、デパートの一角を私のブティックにする事に成功した。
全ては、うまく行くはずだった。そう、妖艶に微笑み、何人もの男達を渡り歩き、その間、利用できる物は全て利用した。名誉、御金、ステータス。全ては私の物だった。
そう、あの時、あゆみを見つけるまでは。
あゆみは、そのデパートに勤めていた。私は、恐怖に肌が粟立った。
これからと言う時に!
私は強引な手段を取った。となり居た部長に冷たく言い放った。
「あの人とは、一緒に御仕事できません」
これで、私のこのデパートにおける位置も確認できる。一従業員と、私。どちらが重要なのか。
あんのじょう部長は私を取った。
あゆみは私の目の前から消えた。
しかし、まだ、恐怖は収まらない。
何故なら、あゆみのスケッチブックの残りがもう数少なくなって居た。私の実力が試される時が来たのだ。新たなシリーズを出さなければ、ここに出店できる時は短い。
やってやる。 また、新たに利用できる者を探し出し、そして、私はのしあがるのだ。
「先生、御盛況ですね。」
結城と言う男がにこやかに近づいてきた。
「有難う。」
「益々の御発展を、うちの為にも頑張ってくださいね」
「ええ、わかって居るわ」
「『リ・オリー』いいですね~。」
「有難う」
「次のシリーズは、どんな形になるんでしょうね」
「...み、みての御楽しみよ」
「それは、それは。楽しみです。では....ああ、織部さんは、通販営業部第三課への辞令が出ました。良かったですね」
その言葉と、彼の目の中に挑戦的なものが含まれていた事に気付いた。
「どう言う事?」
「ええ、あなたが、飛ばした人ですよ....」
「....御茶でもいかが?」
懐柔にかかろうとした私の言葉に、結城は、にべも無く断った。
「いや~~残念です。宮仕えはつらい、また、今度御一緒しましょう」
そういって、にこやかに、立ち去って行った。
彼の後ろ姿に、全身の産毛が立ち上がった。
こいつは、知っている。
そう、『リ・オリー』の秘密を知っている。
足元が崩れ落ちそうな不安が私の身体を締め付けた。
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