ウーカルの足音

龍槍 椀 

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幕間 その1 ウーカルの仲間達

六話 エント族 千年聖樹 精霊 リンドンの至誠 (1)

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 上には上がいる。

 この『化け物屋敷隠れ家』に連れてこられてから、強く思った事だ。 あの僻地の荒れた場所で育った俺は、それこそ世界を知らない馬鹿者だったと、そう思う。 高々、千年ちょっと生きただけで、高位の魔物に成れる筈も無い。

 へし折られ、意識を無くし、そして、いつの間にか運ばれ…… 今に至る。

 同じ千年聖樹である、ボボールの元に運ばれたのだと、そう『認識』できたのは、ほんの数刻前。 気が付いたら、何かオカシイ。 俺の本体とも云うべき千年聖樹の幹は、圧縮され、手槍の柄にされて居た。

 混乱が俺を包む。 同じ種族のボボールが、説明してくれなかったら、今も混乱の中に居たと思う。


 幾許か…… 時間を空けて、更に運ばれたのが、魔人の前。



 ――― いや、マジで?



 魔人の前に引き出され、圧縮され『柄』と成った身体から『霊体』を、無理やり・・・・引きずり出され、座らされている…… なんて事がされたなんて、考えられるか?

 深刻そうなボボールが傍に立って、その状況を補佐しているのが何とも言えない。 逃げ出すなんて、考える事さえ出来ない。 まるで、暴風雨に晒される、双葉の様な感覚…… はぁ…… 生き残れたと思ったのに、俺の人生は此処までか…… 


 ―――― まぁ、そんなもんさ、人生なんて……



 ―――― ☆ ―――― ☆ ――――



 俺の名はリンドン。



 リンドン=ウエイスト=ディスケット=スクラップ=ミレニ=ホリトリ という名だった。 『千年聖樹』だ。 いや、だったかな。 既に俺の身体は無く、今の身体は『幹』から作り出されたハルバードの柄となっている。 中に居る、『 霊体 』 と呼ばれる、” 存在 ”となった。 自力で魔力を得る事も出来ず、さりとて誰かに喰わせてもらうことも無い…… 



 単にハルバードの柄という役割を、与えられた『半端モノ』だった。



 そんな『物質』と『魂あるモノ』の境目をフラフラするモノと成ってしまったらしい。 意識を取り戻したのは、トンデモナイ魔力を備えた、魔人の前。 ハルバートの『』として『槍頭』と『宝珠』を繋ぐ一本の棒と成った後だった。 その魔人が云うに、俺が生き残り、こうやって曲がりなりにも『この世界』に魂が存在できるようになったのは、『役目・・』が有るから…… らしい。

 目の前の魔人でも凄いのに、それ以上の存在が、そう云った・・・・・とか。

 静かに魔人は口を開く。 紡がれる言葉に回復しかけた混乱に押し戻される。



「……上位の存在が、俺に『役割』を与えただと? 知らんぞ、そんなモノは」

「お前は、会った事が有るはずだぜ」

「えっ? 誰…… 誰だそれは?」

「お前を叩き折った、兎人…… いや、『精霊そのモノ』と、云える存在だ」

「……あぁ 何となく思い出しましたぜ。 過去の記憶を見せた、兎人族の小娘が『突然』目を怒らせて、俺をへし折った…… って、あの人かい?」

「あぁ…… そうだ」

「むむむッ…… しかし…… まぁ、あの人なら…… 判らんでもありやせんな」

「それ程のモノだったか、やはり」

「攻撃色の瞳に睨みつけられた時、一瞬ですべてを諦めましたもん。 こりゃ、叶わないって。 へし折られ、荒野に倒れた後、あの人に『廃龍の墓所』をぶっ壊してくれって『お願い』をしたのは、それが理由ですぜ。 俺じゃ、絶対に出来ない事を、その人はやってのけるんじゃないかってってね。 で、どうでした?」

「お前のは当たったようだ。 完膚なきまでにぶっ壊し、廃龍を滅し、復活出来ぬ様に封印した。 もちろん、たった『一人』でな」

「規格外すぎやしませんか?」

「ウーカルに危害を加えたんだ、そのくらいはするさ」

「ウーカル?」

「お前がこれから、死ぬ気で『護る』存在だ。 アレ・・もウーカルの中で眠っている」

「…………拒否は出来ない見たいですな」

アレ・・がそう望んだからな」

「むむむ…… そうですかい」

「一つ『聞いておく事・・・・・・』が有る」

「む、……何なりと」

「ウーカルに…… いや、アイツに意趣・・は在るか。 いくらアレの望みでも、お前に意趣が有れば、この役目はお前に与えない。 ウーカルに危害が加われば、アイツが出てきちまう。 そうなれば、ことわりのバランスが崩れ世界は崩壊する」

「……怒りや敵意と云う事なんだろうか?」

「そうだな、そう云う『負の感情』とも云えるな」

「……それを向ける相手は、あの娘では無いな」

「同胞か?」

「助けを願っても、無碍にされたのは、未だに思う事がある」

「ボボール爺は?」

「……長老は、仕方ないと思う。どうにも成らなくなってからの依頼だろ?」

「まぁな。 サバけた感情だな」

「もう、本体を失っているからな。 ……細々と意識を保つ事になるのか」

「まぁな。 ウーカルの傍に居れば、アイツが漏れ零す『魔力』の恩恵は与れるか。 そんなところだ」

「…………嫌って云う、選択肢は無いな。 道化と化すのは、良い事なのかもしれない。 もう、真面目に世界を想う事も無いだろうしな」

「『道化る』……か。 アイツが無茶しそうな時は、道化て道を正してやってくれ。 どうにも頑固な奴でな。 どうも、ウーカルは好奇心・・・が強すぎる」

「そうかい…… なんだか、楽しそうな響きではあるが?」

「……下手打つと、死ぬぞ?」

「もう、死んだも同然だしな。 せいぜい、道化て見せるぜ。 で、どうする?」

「……お前には、『精霊誓約』を結んでもらう。 契約主は俺。 お前の真名で、ウーカルの守護を命じる」

「リンドン=ウエイスト=ディスケット=スクラップ=ミレニ=ホリトリ という名でか? まぁ、いい。 どのみち、選択肢は無いのは知っている。 ……判った」




 儀式めいた精霊誓約で俺は縛られた。



 契約が成立するのに、暫く時間が掛る。




     ………… その間、俺は柄と成った幹の中で、泡沫の様に微睡んだ。



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