手の届く存在

スカーレット

文字の大きさ
5 / 144
本編

将来の展望

しおりを挟む
春海に連れて来られた場所。
それは道場だった。
その日は全体的に稽古を休みにしていたはずで、誰もいない。
館長も奥さんも、確か用事で出払っていると聞いた。

「私たちが出会った場所、覚えてるよね?」
「……そりゃなぁ」

色気も何もないが、確かに俺たちはここで出会った。
そして俺は、女子のこいつにコテンパンにされた。
多分今戦ってもコテンパンにされるんだろう。
身長は伸びても、結局埋まらない実力の差。

「中、入っていく?実は許可もらってるんだよね」
「へ?マジで?」

実際、春海は最初からそのつもりだったんだろうと思う。

「うん、デートで使いたいって言ったら、汚すなよって言われたけど」
「汚すって……」

何だ、俺の血糊で汚すつもりなの?
ガチでボコボコにされる様子を想像して少し身震いする。

「そういう汚すじゃないと思うんだけど…」

だからお前何なの?何で俺の考え読めるの?

「まぁ、こんなとこで立ち話してても仕方ないしな。入ろうぜ」

中は普段と何も変わらない、いつもの道場。
人がいないせいか、静かすぎて幽霊でも出そうな雰囲気ではある。
そういえば昔、ここで稽古中に死んだ人がいるとかいないとか聞いたことあるな……。
冗談の類だと思いたい。

「座布団持ってくるね」
「あ、ああ」

ずいぶんと準備のいいことで。
山田くんにでも持ってきてもらったらいいんじゃないかって思ったりしたが、実際に山田くんが現れたらさすがにびっくりだ。
手持ち無沙汰になってしまった俺は、初めて来た時の様にキョロキョロと道場の中を見回す。
特に変わった様子もない。

「お待たせ」

声と共に、水平に座布団が鋭く飛んでくる。

「わぶっ!」

咄嗟に避ける事もできず、鼻面に直撃を受けてもんどりうった。

「おま……殺す気かよ……鼻ツーンときた……」

多少の驚きと痛みはあったものの、所詮は座布団の一撃だ。
当たらなければどうということは……当たったんでしたね。

「あはは、ごめんごめん。まさか当たると思わなくて」

全然申し訳ない感じが伝わってこないのは気のせいですか、そうですか。
俺の顔面を経由して床に落下した座布団を拾い上げ、既に座っている春海の前に置く。

「んで、どうするんだ?二人が出会った場所っても色気も何もないんだが」

座布団の上に胡座をかいて、尚も周りを見回しながら言う。

「少しお話しようよ。こういうのも、たまにはいいでしょ?」
「たまにって、初デートじゃなかったか?」
「初だけど……二人で会うのは初めてじゃないじゃん」
「あーそうだな、わかったわかった」
「大輝はさ、高校どうするの?もう考えてる?」
「高校か……」

正直考えていなかった。
あれこれ我が儘言える身分じゃないし、何より私立なんかは候補から自然と外れる。

そうなると公立の、自分の学力に合った高校に行くことになるんだろう。
いや、先生の負担やらを考えるならいっそ中卒で働くのが正解なのかもしれないとさえ思った。
以前に先生にはそれを伝えたことがある。

「そんなこと、子供のあんたが考えなくていいから。高校くらいはきちんと出ておきなさい」

と猛反対をくらい、一度は捨てた考えではある。
とはいえ、まだ中学校に入ったばかりの身空で高校などと言われてもピンとこないのも確か。

「私ね、大輝と同じ高校行きたいと思ってるの」
「ふむ……」
「何、嫌なの?」
「ち、違う、そうじゃなくてさ」

慌てて否定する。
一瞬、春海から不穏なオーラを感じたのだ。
もちろん、違うというのは本当だ。

「そうじゃなくて、まだ高校とか言われても明確なイメージってやつがね」
「ああ……けど、割とあっという間だと思うよ?今、大輝は毎日楽しい?」
「楽しいよ。不便なこともなくはないけど、それなりに楽しんでると思う」
「なら、尚更あっという間だと思う。パパはそう言ってたし、私もそう思う」
「そうかもなぁ」

そう言ってる大人は何人も見てきたし、館長も確かそんなことを言ってた気がする。

「だからさ、私たち同じ高校に行くのを目標にしようよ。勉強苦手なら一緒に頑張ればいいんだし」
「春海は勉強得意なんだったか」
「今のところ、苦手科目はないかな」

本当に万能で羨ましい。
俺にも一割程度でいいから分けてほしいもんだ。

「一応聞くけど、それって公立の高校だよな?私立だと金銭的な問題でお手上げなんだよ」
「わかってるよ。公立の、共学の高校。パパは私立の女子校行かせたかったみたいだけどね。今はやりたい様にしなさいって言ってくれてる」

寛大な父ちゃんだな。
春海の話に、ふと同じ高校に通う二人を想像する。
……うん、悪くない。
それどころか、最高の生活じゃないか。
そもそも今お互い結構遠いところに住んでるし、会う時は大体春海がこっちまで出張ってくれている。
その負担を少しでも減らせるなら、それも良いのかもしれない。

「わかった、そう出来る様に頑張ろうか。で、高校の目星はつけてるのか?」

もちろん、と頷いて春海は持参した鞄を漁り、一冊のパンフレットを取り出す。
その高校の名前の一覧を見て、俺は今日一番疲れることになる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤクザのお嬢は25人の婚約者に迫られてるけど若頭が好き!

タタミ
恋愛
関東最大の極道組織・大蛇組組長の一人娘である大蛇姫子は、18歳の誕生日に父から「今年中に必ず結婚しろ」と命じられる。 姫子の抵抗虚しく、次から次へと夫候補の婚約者(仮)が現れては姫子と見合いをしていくことに。 しかし、姫子には子どもの頃からお目付け役として世話をしてくれている組員・望月大和に淡い恋心を抱き続けていて──? 全25人の婚約者から真実の愛を見つけることはできるのか!?今、抗争より熱い戦いの幕が上がる……!!

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

借りてきたカレ

しじましろ
恋愛
都合の良い存在であるはずのレンタル彼氏に振り回されて…… あらすじ システムエンジニアの萩野みさをは、仕事中毒でゾンビのような見た目になるほど働いている。 人の良さにつけ込まれ、面倒な仕事を押しつけられたり、必要のない物を買わされたり、損ばかりしているが、本人は好きでやっていることとあまり気にしていない。 人並みに結婚願望はあるものの、三十歳過ぎても男性経験はゼロ。 しかし、レンタル彼氏・キキとの出会いが、そんな色の無いみさをの日常を大きく変えていく。 基本的にはカラッと明るいラブコメですが、生き馬の目を抜くIT企業のお仕事ものでもあるので、癖のあるサブキャラや意外な展開もお楽しみください!

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

昔好きだったお姉さんが不倫されたので落としに行ったら後輩からも好かれていた

九戸政景
恋愛
高校三年生の柴代大和は、小学校一年生の頃からの付き合いである秋田泰希の姉である夕希に恋心を抱いていたが、夕希の結婚をきっかけに恋心を諦めていた。 そして小学生の頃の夢を見た日、泰希から大和は夕希の離婚を伝えられ、それと同時にある頼みをされる。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

処理中です...