11 / 69
ビフォー&アフター
しおりを挟むエレガントミュージック社の応接室を出た3人の表情は完全に萎れていた。
轟と会うまではレコードデビューのことしか考えていなかった。
契約書にサインするためのカッコいいボールペンを新たに買って持ってきたし、印鑑まで持参していた。
しかし、予想外の展開に言葉を失くした。
あれほど胸が高鳴っていたのに、今は心臓が動きを止めているのではないかと思うほど存在感を無くしていた。
今後のことを相談するために駅前の喫茶店に入った。
「どうする?」
タッキーがベスに視線を向けた。
「まさかね……」
ベスがキーボーを見た。
「前座の話だとは思わなかったよな~」
キーボーがうな垂れた。
「でも、プロへの扉が開いたことは間違いないよね」
タッキーが鼓舞しようとした。
「それはそうだけど……」
ベスの声が沈んだ。
「ドサ回りだからな~」
キーボーがため息をついた。
「じゃあ、やめるか?」
タッキーが語気を強めた。
「それはちょっと……」
ベスが戸惑ったような声を出した。
「親に相談してみようか」
キーボーが頼りなげに言った。
「そんなことしても意味ないだろ。反対されるに決まってんだから」
タッキーが気色ばんだ。
「確かに。オフクロに泣かれるのは目に見えてるしな」
ベスが何度も首を横に振った。
「まあな。自分を何様だと思っているんだ! 世間はそんなに甘いもんじゃない! いい加減に目を覚ませ! とかなんとか言われそうだよな」
キーボーが両手を広げて、肩をすくめた。
「当然だよ。留年したと思ったら今度は音楽で飯を食いたいだと? 何を考えているんだ! って雷を落とされるのがオチに決まってる」
タッキーが顔をしかめて、ブルブルッと顔を振った。
「家出するしかないか……」
キーボーがため息交じりに呟いた。
「母さん、泣くだろうな~」
ベスの顔が曇った。
「参ったな~」
それまで強気だったタッキーが頭を抱え込んだ。
「やっぱり断るしかないよな~」
キーボーが力なく呟いた。
「ドサ回りだからな~」
タッキーが肩を落とした。
「やっぱり無理だよな~」
ベスが諦め顔になった。
*
1週間後、エレガントミュージック社に出向いた3人は、神妙な面持ちで轟に向き合った。
「わかりました。残念だけど仕方が無いわね」
彼女があっさりと諦めた。
少しは引き止めてくれると思っていた3人は顔を見合わせたが、今更どうしようもないので、「済みません」と謝った。
すると彼女は苦笑いのような表情を浮かべたあと、「まあ、縁がなかったということで」と言って何故かさっぱりとしたような表情に変わった。
その時、同席していた男性社員が彼女に声をかけた。
「このポスター、無駄になっちゃったね」
彼は試作段階のようなポスターを手にしていた。
そのポスターに写っていたのはエレガントミュージック社所属の中では最も人気のあるバンドで、全国ツアーを告知するものだった。
しかしそれだけではなかった。
そのポスターの下のスペースには、『期待の新進バンド「ビフォー&アフター」初登場!』と書かれてあった。
それを見た瞬間、アッ! という声が3人同時に漏れた。
しかし、そんな様子を気にもしないように、「もういらないから」と言って、破るような仕草を彼女がした。
「そうだね」
彼は手に持ったポスターを破ろうとした。
「待ってください」
タッキーがテーブル越しに彼の両手に飛びついた。
タッキーが彼の手を封じている間に、ベスが彼の指を一本一本緩めていった。
それを見たキーボーがゆっくりとポスターを下の方に引っ張った。
彼の手からポスターが離れて、キーボーの手の中に納まった。
丸まったポスターを3人でゆっくり広げて、改めて下のスペースを凝視した。
『期待の新進バンド「ビフォー&アフター」初登場!』
3人が轟を一斉に見て詰め寄った。
「やります。やらせて下さい。お願いします」
*
話が決まればそのあとは早かった。
ツアーに向けての準備がどんどん進んでいった。
それはまるで既定路線に乗っかっているようだった。
すぐにギタリストを紹介されたのだ。
凄腕のミュージシャンだと言われたが、そんなふうには見えなかった。
髪はくしゃくしゃだし、ジーンズはヨレヨレだった。
しかし、初めて音合わせをした時に驚いた。
プロのギタリストのギターワークは流石に凄かった。
スナッチとはタイプの違うギタリストだったが、そのテクニックは超一流と言っても過言ではなかった。
すぐさまスタジオに籠って練習に明け暮れた。
年明けから始まる全国ツアーが目前に迫っていた。
前座として成功しなければその次はないことを肝に銘じて、覚悟を決めて練習に没頭した。
そして、何度も誓い合った。
「スナッチ、俺たちは必ず成功する。お前がプレゼントしてくれたロンリー・ローラでデビューするからな」
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。
NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。
中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。
しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。
助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。
無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。
だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。
この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。
この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった……
7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか?
NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。
※この作品だけを読まれても普通に面白いです。
関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】
【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】
【完結】幼馴染に裏切られたので協力者を得て復讐(イチャイチャ)しています。
猫都299
青春
坂上明には小学校から高校二年になった現在まで密かに片想いしていた人がいる。幼馴染の岸谷聡だ。親友の内巻晴菜とはそんな事も話せるくらい仲がよかった。そう思っていた。
ある日知った聡と晴菜の関係。
これは明が過去に募らせてしまった愚かなる純愛へ一矢報いる為、協力者と裏切り返す復讐(イチャイチャ)の物語である。
※2024年8月10日に完結しました! 応援ありがとうございました!(2024.8.10追記)
※小説家になろう、カクヨム、Nolaノベルにも投稿しています。
※主人公は常識的によくない事をしようとしていますので気になる方は読まずにブラウザバックをお願い致します。
※「キスの練習相手は〜」「幼馴染に裏切られたので〜」「ダブルラヴァーズ〜」「やり直しの人生では〜」等は同じ地方都市が舞台です。関連した人物も、たまに登場します。(2024.12.2追記)
※番外編追加中・更新は不定期です。(2025.1.30追記)←番外編も完結しました!(2025.9.11追記)
※【修正版】をベリーズカフェに投稿しています。Nolaノベルでは全話限定公開・修正中です。(2025.10.29追記)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
織田信長 -尾州払暁-
藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。
守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。
織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。
そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。
毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる