『ル・リアン』 ~絆、それは奇跡を生み出す力!~

光り輝く未来

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須尚正

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 最上と会った翌日、帰国していたキーボーから会いたいという電話があった。
 さっそくREIZを伴って彼のいるホテルへ向かった。

 会うなり、挨拶もそこそこに彼は本題に入った。

「難聴救済ミュージックエイドを立ち上げたい。協力してくれないか。大規模なライヴを日米欧で開催して、その収益を貧しい国の聴覚障害患者救済に使いたいんだ」

 燃えるような目だった。

「最上製薬の難聴治療薬NMEと骨伝導補聴器、超小型診断機器を買い取って、難聴患者や医師たちに無償提供を行いたいんだ。最上さんは原価で売ってもいいと言ってくれている。その上、3製品の利益の10パーセントを、難聴救済ミュージックエイドに寄付してくれるとまで言ってくれている。ありがたい話だ」

 それだけでなく、ビートローリングスとクイーン・クリムゾンの全面的な支援も取りつけてあるということだった。

 話を聞いて胸が熱くなった。
 音楽によって難聴患者を救う手助けができることは何よりも嬉しかったし、願ってもないことだった。
 それはREIZも同じようで、すぐさま全面的な協力を約束した。

        *

 難聴救済ミュージックエイドの運営委員会が立ち上がった。
 その理事長には最上笑美さんが就任した。
 薬の専門家であり、病気のことを良く理解している人物ということで彼女に白羽の矢が立ったのだ。

 彼女は二つ返事で承諾したようだ。
 夫が開発に関わり執念を傾けた難聴治療薬NMEと骨伝導補聴器、超小型診断機器を世の中の役に立てるためだったらなんでもやりたいと言ったらしい。
 そのため、彼女は診療所の薬局長というやりがいのある職を辞して理事長に専念することになった。
 そして、副理事長には妻の美麗が就任した。
 笑美理事長のたっての依頼だった。

「美麗さんは外国語大学の出身で、英語はもとより、フランス語、スペイン語、ポルトガル語が堪能でしょう。貧しい国の人達の多くがそれらの言語圏に居ることを考えると、どうしてもお力を貸していただきたいの」

 妻にそれを伝えた時、「笑美さんがわたしを……」と口を手で覆った。

「この齢になって、世界の難聴患者さんを救うお手伝いができるなんて。それも、あなたや麗華と一緒にできるなんて、なんて幸せなんでしょう」

 感極まった妻の肩を左手で優しく抱くと、震えるような声が耳に届いた。

「あなたと長崎で出会って、大阪へ行って、東京に来て、アメリカでも住居を持って、そして、今度は世界……。大学時代夢見ていたことが、外国語を勉強することで何かのお役に立ちたいと夢見たことが叶うなんて……」

 肩に置いた左手を妻の右手が覆った。
 その瞬間、なんとも表現できないような喜びが温もりとなって伝わってきた。
 それは世界で一番美しく麗しい温もりだった。

        *

 このプロジェクトの認知拡大のため、KIZUNAステーションのFM三局で『難聴救済ミュージックエイド』の告知を頻繁に流した。
 それを受けて、REIZとビートローリングス、クイーン・クリムゾンがホームページやSNSで何度も発信してくれた。
 その結果、前売り券は発売すると同時に完売し、その上、多額の寄付金を集めることができた。
 更に、『難聴患者に希望の音を』というボランティア組織が各地で立ち上がり、その輪が国外に広がっていった。
 親友・最上とニタス博士、音野良伝と冶金雅、最上とニタスの想いに共感したキーボー、そして、彼を強力に支援する音楽関係者の熱い魂が、不可能を可能に変えようとしていた。

        *

 難聴救済ミュージックエイド当日を迎えた。
 午前中の雨が嘘のように止み、開場する頃には雲間から陽が射し始めた。

 開演時間になり、大歓声の中、REIZがステージに現れた。
 スポットライトは麗華と令だけに当たっていたが、すぐに2人の後ろで演奏する4人のミュージシャンのシルエットが現れた。
 その瞬間、ドラムソロが始まった。
 スティックをくるくる回しながら、鮮やかなシンコペーションとローリングで観客を魅了した。

 令がスキンヘッドのドラマーを指差した。

「ドラムス、タッキー」

 大きな歓声が上がると、ベースのソロが始まった。
 チョッパーでの演奏だった。
 親指を弦に打ちつける独特な奏法で、低音から高音までぐいぐい乗せていく。
 そして、ベースとは思えない速弾きが始まった。

「ベース、ベス」

 またもや大きな歓声が巻き起こると、シンセサイザーによる金属的な響きのソロが始まった。
 音がギュインギュイン揺れながら、宇宙空間を超光速で瞬間移動する未来の飛行物体のように自由自在に飛び回った。
 更に、右手をもう1台のシンセサイザーに伸ばすと、2台のシンセサイザーで違うメロディーを奏で始めた。
 異次元の空間に連れ去られたようになった観客は目と口が開きっぱなしで、陶酔の世界に入っているようだった。

「キーボード、キーボー。俺のオヤジ」

 会場が一斉に沸いた。

 それを煽るように、ギターソロを始めた。
 この日のために練習を重ねてきた速弾きを連発した。
 世界の著名ギタリストにも負けないような速弾きの連続に興奮したのか、観客席から大きな歓声が上がった。

「ギター、スナッチ。麗華のオヤジ」

 またも会場が大きく沸いた。

 それを合図にしたかのように全員のアンサンブルが始まった。
 REIZとビフォー&アフターが合体したのだ。

 エンディングに近づいた。
 全員で飛び上がって全員で着地した瞬間、ジャン♪ という音で止めた。
 と同時に会場の明かりが消えた。

 ピアノの音が流れてきた。
 2台のピアノ合奏だ。
 それぞれにスポットライトが当たった。
 令が2人を紹介した。

「MOGAMIZ」

 最上と笑美の40年ぶりの合奏だった。
 ショパンの名曲がジャズ風にアレンジされ、華麗で優雅な音が会場を包み込んだ。
 観客はウットリとその音色に惹き込まれていった。

 MOGAMIZの演奏が終わるとステージにスモークが立ち込め、ステージ後方がせり上がってきた。
 それが止まると、ドラムソロが始まった。
 それも2人の。
 更に、スモークを吹き飛ばすように雷音が炸裂し、ギターのリフと共にヴォーカルのシャウトが始まった。
 それも2人で。
 絶叫が会場を埋め尽くした。
 興奮して客が泣いていた。
 ビートローリングスとクイーン・クリムゾンが一体となって現れたのだ。
 会場が揺れているように感じた。
 いや、揺れていた。
 観客の波動が会場を大きく揺らしていた。

 ビートローリングスとクイーン・クリムゾンの合奏が5曲続いたあと、コンサート最後の曲が始まった。
『サンライズ』
 ピアノとギターだけをバックに、明日への希望を込めた麗華と令の歌が響き渡った。
 そこに、ビフォー&アフター、MOGAMIZ、ビートローリングスとクイーン・クリムゾンが加わって大合唱となった。
 それは、観客を巻き込んだ壮大なシンフォニーとなって会場を揺らし始めた。
 そして、すべての魂が一体となっていった。

 演奏が終わると同時にステージの上から大きな幕が下りてきた。
 そこには、ミュージシャン全員の名前が大きな文字で描かれていた。
 その上に『KIZUNA』と書かれた更に大きな幕が下りてきた瞬間、大きな音と共に煙火が炸裂し、電子花火が左から右へ走りながら光った。
 そしてステージから観客席へと走り続けた。
 光とスモークの中で観客は肩を抱き合い、手を繋ぎ合い、いつまでも感動に浸っていた。

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