Get So Hell? 2nd!

二色燕𠀋

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境内の音

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 1861年、混沌としていた。
 年始め、江戸、麻布山あざぶやま善福寺ぜんぷくじへの帰途であった偉人が一人殺害される事件があった。

 事はそれから間もなくし、すぐ側の東禅寺とうぜんじ内にある英国の公使館が水戸藩士により襲撃される事件まで勃発。

 日本は一気に、目に見えて攘夷風潮へ傾いていた。

 幹斎かんさいの言った「寺などあっさり潰れるわい」は物理的にもなってきたもんだと、実感する。

 江戸、上井草村かみいくさむら
 朱鷺貴ときたかは上井草村善福寺という寺で、「手習塾」の師範をしていた。
 江戸では寺子屋を手習塾というのか、まず朱鷺貴が学んだことはそれだった。 

 そして「手習塾」とは、朱鷺貴が知る「寺子屋」とは認識が違う、いまのご時世のせいか「子弟」には、大人の浪人もいた。

 水戸藩士による英国公使館襲撃事件が西麻布山善福寺で起きた際、確かに、水戸藩から脱藩したという浪人は上井草村善福寺の手習塾から数名、消えたような気がする。
 名前が同じ寺。こちらの寺は数週間は無駄な対応に追われたものだった。

「中仙道往来、とするならば少々場所はそれるが、信州しんしゅうの上田を訪れた際、俺は真田信繁の兄である信之が眠る寺に世話になった」

 しかし、いま朱鷺貴は時世とは離れていた。

 中仙道を歩いてきた見聞がこんなことで役に立とうとは、始めは予想もしなかった。
 自分でまとめた「中仙道往来なかせんどうおうらい」を片手にこうして、郷土、歴史を教えようというのだが。

「流石に、残念ながら坊主でも墓を拝むことは出来なかった」

 指南を始めてすぐ、口下手な朱鷺貴は大苦戦を強いられた。どうにも師範とは、わかりやすく、如何にして子弟に事柄の興味を持たせるか、という面で半年にしてもまだ、自分の見聞がそれほど生きていない気がしていた。

「はい、終わり」

 これから反省会だな。毎度朱鷺貴はそう思うのだが、終われば案外、「南條法師、今日も良い手習い。ご苦労さまでございます」と、褒められはするのだ。

「すっかり板についてきましたなぁ」
「ははぁ、いやぁ…」

 和尚にそうも言われても、いや、なかなか自分のなかでは未だ浸透していないと、ぐるぐる、本日の指南「中仙道、信州について」について噛み砕く。

 頭に入ってこない。
 いつも通りに終えたと、ここ半年借りている部屋へ戻ろうかと考えたのだが「南條殿」と、呼び止められ、「へい?」と、妙な返答で応対してしまう。

條徳寺じょうとくじさんから正三日限で文が届いていますよ。急用かと思われますが…」
「急用?」

 急用とは、如何様か。
 和尚は袈裟から、朝に届いた文を出す。


六月十三日 付

 不景気、物騒な最中、公命より至急江戸から帰京するよう申し付ける。
 七日猶予を頂き期間内に帰郷の届け無ければ、朝敵処遇、脱藩相当となり寺院も処罰対象となり候。
 大体、長らく留学と銘打った事も時期に無理が祟る事柄。
 故、くれぐれも道中気を付け、早急に帰られたし。

 南條幹斎


 読んですぐに手紙をぶち破らん勢いの朱鷺貴は「はぁ!?」と困惑した。

「ちょ、七日ってなんなんっ、七日って…!!」
「差し支えなければ内容は…」
「…あと四日で京に着かねばお家が取り壊される勢いです」
「あらまぁ、ギリギリでしょうか」
「最悪だこれ…」
「すぐに準備を?
 藤宮ふじみやさんも先程丁度、本堂にいらっしゃってましたよ」

 …あぁそうだった。

「…あー、そうでしたそうでした…」
「…そうですねぇ…」

 些か、気まずい。

「…なかなか、咲きませんでしたねぇ、」

 少し残念そうに和尚はそう言った。

「まぁ、こちらで少々…迷惑は被ってしまったことでしょうし」
「本当はそうも思っていなかったでしょう?大丈夫ですよ、私もそうは思っていないですから。なのでまあ純粋に、出過ぎたことではありますがどう伝えようかと、南條殿もお悩みかと」
「はぁ…そうですねぇ…」

 ぼんやりと本堂の先を眺める。

 翡翠ひすいはあれから、近間の「千葉道場」へ通い始めた。
 その帰り、わりとこの寺に世話になり始めてすぐの頃から、村の女子と翡翠が賽銭箱の横で親しげに話しているのを目撃するようになったのだ。

「ん~…」

 恐らくそれは寺にとって良くない風潮となったに違いない。しかしそれは朱鷺貴にはなんとなく雰囲気で、としか伝わってこなかったのも事実ではある。

 これを期に、というのも気の毒ではあるが、確かに本来は、そうあるもの。だがそれが何故だか気まずい。つまり二人はそこそこに良い雰囲気、楽しそうに見えるのだ。

「…まぁ、まぁ、うーんこれも無理が祟る事柄…」

 ぶつぶつ悩み始めた朱鷺貴に、和尚も「そうですねぇ…」と肩を落とした。
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