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白刃の血判
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まず岡田が「半平太ー!邪魔だってー!」と声を掛けるが、返事はない。
はぁ、と溜め息を吐いた朱鷺貴が「仕方ねぇな…」と、わりと乱暴に戸を開けた。
武市は戸に背を向けて寝転がっていた。
何が楽しいんだか…と言いたい気持ちを押さえた朱鷺貴は思いの外脱力したように「武市さん…」と声を掛ける。
「…法要が入っている。離に移動して欲しい」
武市はちらっと朱鷺貴を見たが、やはり露骨に顔をそらす。
溜め息を吐きながら朱鷺貴は翡翠に「荷物を」と言いながら二人で堂の中に荷物を運び始めることにした。
流石に黙っていられない武市はむくりと起き「おい…」と唸るが、構わずに「トサキンの、お前も手伝ってくれ」と岡田に命じた。
「おい、坊主…!」
「手伝ってくれたらお前らの置場所を考えてやるけど」
「はぁ?」
「ここはとにかく法要で使」
「わかったわこのっ!」
観念して出て行く前に武市は「以蔵、龍馬はどないした、」と言うけれど。
「わからんき。多分、このまま脱藩じゃ」
「…脱藩…?」
「坊さん、こん壺は?」
「壺じゃない花瓶だ花瓶。じゃあ仏壇の…左側に」
「じゃぁわては、右ですか?」
「うんそー。重いし高いからお前ら気を付けろよ」
と会話をしながら手伝う岡田に「脱藩ってなんじゃ、」と武市は詰め寄ろうとするが「大将、香台。段の下」と朱鷺貴が指示をする。
「なんだそれっ」と言いつつ、武市は小さな机のような物を持った。
しかし、いざ持って行けば「違ぇよそりゃ教卓だよもう一個の方!」と、ちまちました仏具を飾る朱鷺貴にイライラしたように言われてしまう。
「提灯も右左なん?」
「見りゃわかんだろよろしく」
「じゃぁわては左やりますよ岡田さん」
「はぁい」
「岡田、だから」
「大将、だからもう一個の方を下に置けっつってんだよ使えねーな」
「何ぃっ、」
「坊さんそんなこと言わんでやってよ、普通やったことないやろ」
「まーえーわ、じゃ座布団敷いて。わかんだろ流石に」
あまりにも無下にされている武市は複雑な気がしたがふと、仕事をする三人を見て「ははっ、そうか」とふと笑った。
「…帰るか以蔵」
仕方なしに座布団を運びながらぽろっと言った武市に、岡田はなんの雑じり気もなく「うん」と返事をしながら提灯を運んだ。
「参勤交代も終わるし」
「…そうだな」
それから二人は素直に座布団を敷きながら「龍馬はなんだって?」だとか、「龍馬はシャンハイに行くらしい」だとか、話している。
「…そうか」
「そう言やぁ、紙切れを預かってきたんじゃ」
細々したものを飾る朱鷺貴に翡翠は「どう飾るんですか」と訪ねる。
「…ちょっとわかりにくいんだよな、まあえーわ、その台、左側になんか線香系を置いといて。うーん、経文は真ん中で。右は鐘系」
「はぁ、」
「なんとなく使いやすいように置いてみて。多分合ってると思うから」
「…大雑把ですねぇ」
使いやすいようにってどれがどうとかいまいちわからないんだけど…、香露、火消し、第二の火消し…?線香立てと左から置いていく。
ちらっと見た朱鷺貴が「あー違う違う逆だな」とよく分からない説明をしつつ「すまんわかった」と謝った。
「左から火消し線香立て前香露と…ん?数珠経文、ん、違うな右?んーと前香露の隣に経文数珠、奥に鈴手前に香合とあ、えっと鈴の横に蝋燭消しと」
なんだかんだで手が止まってしまい振り向いた朱鷺貴が「あっ、」と言うのと「なんだこれは」と武市が言うのが被った。
まだいたのか、いやその前に経掛けを引き忘れてしまったと「悪い翡翠、一回全部下ろして」と指示する。
というか、どうやらかなりぐちゃぐちゃになってしまったなと思ったが、俺のせいかと反省する。
「経掛けを忘れてたわ悪い」
「はい、あの、火消しと蝋燭消しって」
「かつ…うみふね?なんだこれは、」
「かつ…かいしゅうやないかな。龍馬がそげな名前を言っちょったかも」
「…護衛ってなんだ護衛って」
「護衛は守ることで」
「わかるわ、そうやない、なしておまんが?」
声がデカくなっていく土佐組に朱鷺貴も翡翠も視線を寄越す。
「…さぁ」
「幕人かこれは、土佐の重鎮やなかよね、なんや龍馬は誰と組むんじゃ、」
「わからんよ、なんや藤嶋と話とったけど、」
「あの男は一体なんなんや、」
「知らんよ」
「…あのぅ、言うならあの非道は男娼宿の」
「そっちやない!いや、そっちもやけどっ!」
…大混戦しているらしい。
面倒だなと朱鷺貴は側の鈴を鳴らし「はい終了~」と声を掛ける。
それぞれが話ながらも、朱鷺貴は仏具は綺麗に整えたようだ。
「取り敢えず堂は出るぞ。ホンマにそろそろ来るねん客が」
朱鷺貴が促し、取り敢えず4人で堂をあとにする。
はぁ、と溜め息を吐いた朱鷺貴が「仕方ねぇな…」と、わりと乱暴に戸を開けた。
武市は戸に背を向けて寝転がっていた。
何が楽しいんだか…と言いたい気持ちを押さえた朱鷺貴は思いの外脱力したように「武市さん…」と声を掛ける。
「…法要が入っている。離に移動して欲しい」
武市はちらっと朱鷺貴を見たが、やはり露骨に顔をそらす。
溜め息を吐きながら朱鷺貴は翡翠に「荷物を」と言いながら二人で堂の中に荷物を運び始めることにした。
流石に黙っていられない武市はむくりと起き「おい…」と唸るが、構わずに「トサキンの、お前も手伝ってくれ」と岡田に命じた。
「おい、坊主…!」
「手伝ってくれたらお前らの置場所を考えてやるけど」
「はぁ?」
「ここはとにかく法要で使」
「わかったわこのっ!」
観念して出て行く前に武市は「以蔵、龍馬はどないした、」と言うけれど。
「わからんき。多分、このまま脱藩じゃ」
「…脱藩…?」
「坊さん、こん壺は?」
「壺じゃない花瓶だ花瓶。じゃあ仏壇の…左側に」
「じゃぁわては、右ですか?」
「うんそー。重いし高いからお前ら気を付けろよ」
と会話をしながら手伝う岡田に「脱藩ってなんじゃ、」と武市は詰め寄ろうとするが「大将、香台。段の下」と朱鷺貴が指示をする。
「なんだそれっ」と言いつつ、武市は小さな机のような物を持った。
しかし、いざ持って行けば「違ぇよそりゃ教卓だよもう一個の方!」と、ちまちました仏具を飾る朱鷺貴にイライラしたように言われてしまう。
「提灯も右左なん?」
「見りゃわかんだろよろしく」
「じゃぁわては左やりますよ岡田さん」
「はぁい」
「岡田、だから」
「大将、だからもう一個の方を下に置けっつってんだよ使えねーな」
「何ぃっ、」
「坊さんそんなこと言わんでやってよ、普通やったことないやろ」
「まーえーわ、じゃ座布団敷いて。わかんだろ流石に」
あまりにも無下にされている武市は複雑な気がしたがふと、仕事をする三人を見て「ははっ、そうか」とふと笑った。
「…帰るか以蔵」
仕方なしに座布団を運びながらぽろっと言った武市に、岡田はなんの雑じり気もなく「うん」と返事をしながら提灯を運んだ。
「参勤交代も終わるし」
「…そうだな」
それから二人は素直に座布団を敷きながら「龍馬はなんだって?」だとか、「龍馬はシャンハイに行くらしい」だとか、話している。
「…そうか」
「そう言やぁ、紙切れを預かってきたんじゃ」
細々したものを飾る朱鷺貴に翡翠は「どう飾るんですか」と訪ねる。
「…ちょっとわかりにくいんだよな、まあえーわ、その台、左側になんか線香系を置いといて。うーん、経文は真ん中で。右は鐘系」
「はぁ、」
「なんとなく使いやすいように置いてみて。多分合ってると思うから」
「…大雑把ですねぇ」
使いやすいようにってどれがどうとかいまいちわからないんだけど…、香露、火消し、第二の火消し…?線香立てと左から置いていく。
ちらっと見た朱鷺貴が「あー違う違う逆だな」とよく分からない説明をしつつ「すまんわかった」と謝った。
「左から火消し線香立て前香露と…ん?数珠経文、ん、違うな右?んーと前香露の隣に経文数珠、奥に鈴手前に香合とあ、えっと鈴の横に蝋燭消しと」
なんだかんだで手が止まってしまい振り向いた朱鷺貴が「あっ、」と言うのと「なんだこれは」と武市が言うのが被った。
まだいたのか、いやその前に経掛けを引き忘れてしまったと「悪い翡翠、一回全部下ろして」と指示する。
というか、どうやらかなりぐちゃぐちゃになってしまったなと思ったが、俺のせいかと反省する。
「経掛けを忘れてたわ悪い」
「はい、あの、火消しと蝋燭消しって」
「かつ…うみふね?なんだこれは、」
「かつ…かいしゅうやないかな。龍馬がそげな名前を言っちょったかも」
「…護衛ってなんだ護衛って」
「護衛は守ることで」
「わかるわ、そうやない、なしておまんが?」
声がデカくなっていく土佐組に朱鷺貴も翡翠も視線を寄越す。
「…さぁ」
「幕人かこれは、土佐の重鎮やなかよね、なんや龍馬は誰と組むんじゃ、」
「わからんよ、なんや藤嶋と話とったけど、」
「あの男は一体なんなんや、」
「知らんよ」
「…あのぅ、言うならあの非道は男娼宿の」
「そっちやない!いや、そっちもやけどっ!」
…大混戦しているらしい。
面倒だなと朱鷺貴は側の鈴を鳴らし「はい終了~」と声を掛ける。
それぞれが話ながらも、朱鷺貴は仏具は綺麗に整えたようだ。
「取り敢えず堂は出るぞ。ホンマにそろそろ来るねん客が」
朱鷺貴が促し、取り敢えず4人で堂をあとにする。
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