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耳
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「おおおお前、だ、大事ないかえっ、」
しかしそうも盛大なので、ここまでくると自分は余程大事だったのかと、「どうも御心配を…」と翡翠が述べれば「やはりそうなんか!?」と、壮士は言った。
「…すまへん、先程悠蝉さんに聞きましたが、わてはどうやら寝ていたらしいですね」
「……あぁあ、盛大に寝ていた。寝ていたんよなぁ?」
「はい?」
「いや、怒ってないんやね?」
「え?」
なんのことだろうか。
「…いや覚えてないならええんやうん」
「…なんや皆して気持ち悪いですなぁ…。わては昼寝て昼起きただけやからホンマにようわからんで…、そんなにわてはその…皆様に心配されるような」
「あ、うんそうやね。うん心配されるようなことやったで…」
「…うーん…。岡田さんの事が最後に覚えてることなんやけどそれは心配されることでもないしなぁ…」
「岡田?」
「あぁトサキンの。岡田さんの指を治療し」
「指を治療したってなんや一体!?」
「あ、そーゆー感じなんやね。いやぁ廊下でシャキッと」
「え、全然知らんけどそんでトサキンは消えたんか、おい!」
「あ、消えたんですか素直に。よかったよかっ」
「あぁ忽然と消えたわ幽霊のようにっ!確かに朱鷺貴が追っ払ったとは聞きましたがっ」
「ですねぇ…」
なるほど壮士は謹慎中のことは一切知らなかった…いや、そもそもこの人はもしや「触らぬ神に祟りなし」な人なのかもしれないな。
だとしたら朱鷺貴の規律は最早鬼というか、なんというか。あんなダルそうな癖に意外とそういうことに関して厳しい人なのかもしれない。
…確かに、自分と旅をしてきた中でも、朱鷺貴は自分の心情を曲げなかったけれども。
しかしだから、トサキンに対しては取り敢えず働いてくれれば居ても良い、くらいに緩くは…あったのか。
「…んで、」
「はい?」
壮士はひっそりと声を潜め「その…覚えてないんやね?」と言ってきた。
「…せやから、一体何を」
「いや、ええんやで覚えてないんなら」
「よくわかりまへんけど」
「いやあんさんが縁側に寝ていたんよ、うん。そうそれだけで」
「縁側に寝ていたぁ!?」
なんだそれは。
「…ホンマに覚えてへんのね。せやから私が、まぁ目の前やったし朱鷺貴の部屋にあんさんを戻そうかとして」
「え?え?わてなんで縁側に寝とったん?」
「知らへんがな。和尚は「盛大に寝相が悪いなはっはっは」とこんな調子やし」
「……あぁあなるほど…漸く理解しました。すんまへん。もしやあんさん、わてに殺されかけませんでした?」
「…やっぱりよくあることなんっ!?」
なるほどそりゃぁ心配もされるだろうし煙たいだろう。
「えぇ…、最近は全くなかったんですがそんならホンマにすんまへん…、ちょっとした持病みたいなもんらしく」
「あぁ、まぁ聞いたけども…」
「自分でもどうなっているかはわからんのですけどね…。暴れるらしいです。
気付いたんはもう…男娼宿にいた頃の話で。店主にぶっ殺される勢いで引っ捕らえられたのが最初です」
「えっ、なにそれよくわかんない」
「いま考えれば、わりとあん人強いよなぁ~、傷ひとつない、いや元から傷はあるけどなんというか。ちょーど腹に墨入れた後やったから誘発しちまったかな、あちゃっ、みたいな感じで言われたんやけどどー思いますぅ?これ。死ぬほど痛いんですよこれ」
「あぁそうなん?いやホンマ凄くどうでもええ」
「まぁそんなんでその、まぁきっとわても最近知らず知らずとあん人やらなんやらで、心煩わしいと思っていたのかもしれまへん。ホンマに申し訳ない」
「あぁあ…そう、なるほどそん蝶のはあん主人がねぇ…」
「そないだらしない格好で寝てたんすねわては。一肌脱がんと案外わからん場所なんやけど」
「え、うーん、あぁそうやねもうほぼ脱げてた」
「うわぁ恥ずかしいわぁ~」
「…なんやあんさん、起きてりゃ思ったより取っつきやすいなぁ」
「はい?」
「いや、でも殺されかけたからなぁ。食えんガキやと思ったけどね」
なんだか、露骨に言っている事柄より含みがありそうな物言いだが、「まぁ、はぁ…」と返事をしておいた。
「…で、あんさんはなんでここへ?」
「あー、トキさんを探しながらなんか仕事せんとなぁと…忙しい聞きまして」
「…あー、朱鷺貴どこやったかな。あいつどこにでも現れるからなぁ、ホンマ幽霊かっつーの、幽霊嫌いなくせに。まぁ確かにうろちょろしとれば会えますね」
やはりこの二人仲が悪いらしいな。なんせ壮士は朱鷺貴を「狐狼狸」呼ばわりする。
しかし翡翠には、「じゃぁ片付けでも手伝ってくれん?」だなんて言ってくるようだ。
「はぁ、まぁ先日の件もあるのなら…」
「そーやね。どーせなら私の小姓やるか?あんなんよりええで?」
「いや、それはええです。あんさんはトキさん、嫌いみたいやけどわては好きなんで。恩だってまぁたくさんありますし」
「…あっそう」
それから壮士はつまらなそうな顔をして「灰に残った線香捨てとき」と翡翠に命じた。
しかしそうも盛大なので、ここまでくると自分は余程大事だったのかと、「どうも御心配を…」と翡翠が述べれば「やはりそうなんか!?」と、壮士は言った。
「…すまへん、先程悠蝉さんに聞きましたが、わてはどうやら寝ていたらしいですね」
「……あぁあ、盛大に寝ていた。寝ていたんよなぁ?」
「はい?」
「いや、怒ってないんやね?」
「え?」
なんのことだろうか。
「…いや覚えてないならええんやうん」
「…なんや皆して気持ち悪いですなぁ…。わては昼寝て昼起きただけやからホンマにようわからんで…、そんなにわてはその…皆様に心配されるような」
「あ、うんそうやね。うん心配されるようなことやったで…」
「…うーん…。岡田さんの事が最後に覚えてることなんやけどそれは心配されることでもないしなぁ…」
「岡田?」
「あぁトサキンの。岡田さんの指を治療し」
「指を治療したってなんや一体!?」
「あ、そーゆー感じなんやね。いやぁ廊下でシャキッと」
「え、全然知らんけどそんでトサキンは消えたんか、おい!」
「あ、消えたんですか素直に。よかったよかっ」
「あぁ忽然と消えたわ幽霊のようにっ!確かに朱鷺貴が追っ払ったとは聞きましたがっ」
「ですねぇ…」
なるほど壮士は謹慎中のことは一切知らなかった…いや、そもそもこの人はもしや「触らぬ神に祟りなし」な人なのかもしれないな。
だとしたら朱鷺貴の規律は最早鬼というか、なんというか。あんなダルそうな癖に意外とそういうことに関して厳しい人なのかもしれない。
…確かに、自分と旅をしてきた中でも、朱鷺貴は自分の心情を曲げなかったけれども。
しかしだから、トサキンに対しては取り敢えず働いてくれれば居ても良い、くらいに緩くは…あったのか。
「…んで、」
「はい?」
壮士はひっそりと声を潜め「その…覚えてないんやね?」と言ってきた。
「…せやから、一体何を」
「いや、ええんやで覚えてないんなら」
「よくわかりまへんけど」
「いやあんさんが縁側に寝ていたんよ、うん。そうそれだけで」
「縁側に寝ていたぁ!?」
なんだそれは。
「…ホンマに覚えてへんのね。せやから私が、まぁ目の前やったし朱鷺貴の部屋にあんさんを戻そうかとして」
「え?え?わてなんで縁側に寝とったん?」
「知らへんがな。和尚は「盛大に寝相が悪いなはっはっは」とこんな調子やし」
「……あぁあなるほど…漸く理解しました。すんまへん。もしやあんさん、わてに殺されかけませんでした?」
「…やっぱりよくあることなんっ!?」
なるほどそりゃぁ心配もされるだろうし煙たいだろう。
「えぇ…、最近は全くなかったんですがそんならホンマにすんまへん…、ちょっとした持病みたいなもんらしく」
「あぁ、まぁ聞いたけども…」
「自分でもどうなっているかはわからんのですけどね…。暴れるらしいです。
気付いたんはもう…男娼宿にいた頃の話で。店主にぶっ殺される勢いで引っ捕らえられたのが最初です」
「えっ、なにそれよくわかんない」
「いま考えれば、わりとあん人強いよなぁ~、傷ひとつない、いや元から傷はあるけどなんというか。ちょーど腹に墨入れた後やったから誘発しちまったかな、あちゃっ、みたいな感じで言われたんやけどどー思いますぅ?これ。死ぬほど痛いんですよこれ」
「あぁそうなん?いやホンマ凄くどうでもええ」
「まぁそんなんでその、まぁきっとわても最近知らず知らずとあん人やらなんやらで、心煩わしいと思っていたのかもしれまへん。ホンマに申し訳ない」
「あぁあ…そう、なるほどそん蝶のはあん主人がねぇ…」
「そないだらしない格好で寝てたんすねわては。一肌脱がんと案外わからん場所なんやけど」
「え、うーん、あぁそうやねもうほぼ脱げてた」
「うわぁ恥ずかしいわぁ~」
「…なんやあんさん、起きてりゃ思ったより取っつきやすいなぁ」
「はい?」
「いや、でも殺されかけたからなぁ。食えんガキやと思ったけどね」
なんだか、露骨に言っている事柄より含みがありそうな物言いだが、「まぁ、はぁ…」と返事をしておいた。
「…で、あんさんはなんでここへ?」
「あー、トキさんを探しながらなんか仕事せんとなぁと…忙しい聞きまして」
「…あー、朱鷺貴どこやったかな。あいつどこにでも現れるからなぁ、ホンマ幽霊かっつーの、幽霊嫌いなくせに。まぁ確かにうろちょろしとれば会えますね」
やはりこの二人仲が悪いらしいな。なんせ壮士は朱鷺貴を「狐狼狸」呼ばわりする。
しかし翡翠には、「じゃぁ片付けでも手伝ってくれん?」だなんて言ってくるようだ。
「はぁ、まぁ先日の件もあるのなら…」
「そーやね。どーせなら私の小姓やるか?あんなんよりええで?」
「いや、それはええです。あんさんはトキさん、嫌いみたいやけどわては好きなんで。恩だってまぁたくさんありますし」
「…あっそう」
それから壮士はつまらなそうな顔をして「灰に残った線香捨てとき」と翡翠に命じた。
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