Get So Hell? 2nd!

二色燕𠀋

文字の大きさ
60 / 79

3

しおりを挟む
 前日だった。

 同志久坂は叫んだ、「12人だぞ高杉!」と。
 それはまだ雪解けも早く待たない、12月の折りだった。

 名前はずらずらと書いても隔たりがない。

「何が言いたい」

 場所は品川だった。

 いつか、僕らは斬り合うことが決まっているだろう。

 学んだ同志に言った、子供の頃の竹刀の音が、耳の奥底で疼いたような気がした。それはまるで落書きのようなものだと思っていたのに。

 その洋館はまだ形を成してはいなかった。

「高杉、それでは行けない、」

 しかし崩れるとすればここしかない。
 落書きのような世迷い事などで足元が無くなるのは、その場の12人は確かにもう、嫌なことなはずなのに。

 残り10人の士気は高く、だがあと一歩で顔を見渡すほどの動揺が走る。
 それぞれ10分の1の形はここにある、だがどうだ、どうだっていうんだと詰め寄るには残り二人がそれぞれ冷静だった。

「……ここに来て、これを見て、見ろ久坂、ここは一体どこだ」
「……品川だ、江戸だ。かつて去った、その場所だ」
「僕たちはいま、どこにいる」
「……そんなのわかっている、日本だ、俺たちの守るべき志だ、」
「その守るべき志に何を迷う」

 わかっている。
 久坂は一度、危うく転覆しそうになったのだ。
 わかっている。
 だからこそ、わかっている。

「………俺はな、高杉」

 どこかで描いたその紙を、決して、異人のように「空論」だなどと言いたくはない。
 互いにそれは一致している、だからこそ竹刀の音がするはずなんだ。

「……高杉、今は素面だ。言おうか、いま事を荒立てれば誰がこの船を潰しにかかる。わかっているのか、」
「…ここは失敗しても良いと考える」
「そんな、」
「現時点での敗北は日本の敗北だ。久坂、楯は脆いものかもしれない、だからやるしかないんだ」
「無謀だ、こんなもの、」
「……この12人を誰が殺すと言った。だがまぁ死んでもいい、死ぬときはその程度だろうよ」
「…俺はそれほど志は低くない、」
「……なんだと?」

 一気に殺伐とした。
 気迫、理論、その他を超越し火がついたようだった。

 高杉の睨みには誰しも怯む気迫がある。
 だが「調子に乗るな、」と、どんな状況下でも楯を持つのは久坂だった。

「期は確かに遅い、しかし誰が味方したという、」
「ここにいる12人だ、久坂、君はそんなんだから空論だなどと言われたんだろ、今すぐあの世で先生に詫びを入れてこい、腰抜けが、失敗を恐れて何が立ちはだかる、悔しくないのか久坂」
「…貴様もう一度言ってみろ、」
「待ってくださいお二人とも」

 よもや。
 第三者である中級武士、井上いのうえ聞太もんただからこそ割って入った。

「…よもやいま殺り合うのならそれこそ空論ではありませんか。
 最後に生きればそれが絵空事ではない、それは異人共と同じです。それほどの気概で他10名はここにいる。違いますか」

 ぴんと、糸のように張り詰めた。だが井上はさらに続ける「私は松下村塾しょうかそんじゅくのものではありませんが」、

「だからこそ言う。確かに渡航すらしていませんよ、目の前のことで判断します。私は火付け役でよろしかったでしょうか」

 …凛とした青年だった。
 他9名だってそれに息を飲むほどに。

「………決行は明日の夜だ。寝込みを狙う。
 至り、恐れる者は皆帰れ。僕は酒があればそれでいい」

 引き下がった、と言うよりは腰を据えた高杉に何も返さずに久坂も「…まず酒だ」と腰を据える。

「…確かに悔しい。それは、」
「わかるよ。あの先生を見て悔しくなかったわけがないんだ」

 また、冷徹に戻ろうとする。
 それを出されれば何も返さずと息を潜めなければならないじゃないか。

 不味くなる酒などない。
 だが、旨くない酒もあるもんだと、結局その場は誰しも言葉は発っさなかったが、大酒飲みがふと「酒ねぇ…」と瓶を眺める頃には更けていた。

「…酒はなんでも火をつける。久坂、これでどうだ」
「…なんだ、」

 火照れば床が冷たく感じる。

「…あいつらは血のような酒を飲むんだ。知ってるか?まるで人と思えねぇ。長州にはこんなに綺麗な水がある」
「…それは水じゃない」
「そうだな、」

 そして目を閉じれば身震いさえする、あの冷たい海岸をいまでも忘れることが出来ない。

「……そうだな、」

 それでいい。
 捨てられてしまえばそれは雑巾と変わらない、床を…足元を綺麗に磨けば、それはあの塾を思い出すからだ。

 先生。
 空論は確かに潰すべきです。あの世できっちり詫びをいれるのは弟子として、当然なのです。貴方は一度も嘆かず、全く酷だ、志というものは。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)

三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。 佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。 幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。 ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。 又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。 海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。 一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。 事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。 果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。 シロの鼻が真実を追い詰める! 別サイトで発表した作品のR15版です。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

別れし夫婦の御定書(おさだめがき)

佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★ 嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。 離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。 月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。 おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。 されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて—— ※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。

対米戦、準備せよ!

湖灯
歴史・時代
大本営から特命を受けてサイパン島に視察に訪れた柏原総一郎大尉は、絶体絶命の危機に過去に移動する。 そして21世紀からタイムリーㇷ゚して過去の世界にやって来た、柳生義正と結城薫出会う。 3人は協力して悲惨な負け方をした太平洋戦争に勝つために様々な施策を試みる。 小説家になろうで、先行配信中!

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

処理中です...