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Hydrangea
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私はリンゴジュース、あとのみんなはビールで乾杯をしていた。
「初めてのバイトどうだった?」
「いやぁ…うーん…大変でした。けど楽しいかも」
「こっちから見ててもかなり緊張してたよね小夜ちゃん。
でも一発目でまさかのフレッドじいとかだったからまだ…ね」
「いい人だった!」
「うるせぇだけだよあんなじい」
とか言いつつマリちゃんはちょっと嬉しそうだった。
「じいってかあんたさ、マジでいいの?」
「え?」
嬉しそうだったのが一転、急に心配そうにマリちゃんはみっちゃんに言った。
「お宅のお父さん」
「あー。
いいの?って?人はいつか死ぬやろ」
「…いや、仕事のこと心配してんなら」
「そうやない。いやまぁ仕事が心配なんもあるんやけどそれ以前に、あの人は仕事休むほど、俺の優先順位に掠りもしないんよ。みんな心配してくれてありがたいんやけど」
すごく淡々と言うみっちゃんが怖かった。ホントに感情が何も入ってないような、まるで紙の上の字を目でなぞるくらいの感覚でしか頭に入ってこない。それくらいに言ってる本人が何もなく語る。
わからなくもないけど。だけど私は事情を知らない。
「…遥子ちゃん、なんて?」
「え?今から帰るって」
「うん…いや、お父さん何で…?」
「あー、何か言っとったけど…なんや、脳卒中?脳梗塞?わからん、なんか脳の倒れる系」
「…そっか。
まぁ他人が口出すことじゃねぇがお前にとっちゃ俺は大人だから説教する。お前、親のそーゆーのは案外、親のこと嫌いでも後悔するもんだぞ。それで死んじまったらなぁ、憎しみや悲しみとかそんなの、ホントにちっぽけなんだぜ?
目の前に広がるのが虚無だって嫌でも目につく瞬間なんだぞ」
「…そうやろね」
「それでも行かない?」
「行かん」
「あっそ。それってよっぽどだよね」
「…おっさん、そろそろ始めて帰りたいんやけど。約束あるし」
「ごめんねこんな話の中。それなんだけどさ、光也さん」
マリちゃんが話に割って入ってさらに空気が張りつめた。
「あの人…良い人そう?」
だけど探るようにマリちゃんがぎこちなく聞いた。
「…わかんない」
「…そっか」
お互いが一歩引いて黙りこむ。誰もなにも言えなくなって、みっちゃんが立ち上がり、バーカウンターに入って作業を開始した。水場辺りを洗浄して、お酒を確認したりしている。
「…光也さん…?」
「真里」
そんな背中に声を掛けるマリちゃん。それには、みっちゃんは振り向かない。
「…お前はいつまで俺と居る気?」
「は?なに、それ」
「…もうね、ええんよ」
「あんたさ、」
「うるさい」
そう言ったあと一度振り返ってマリちゃんを見る。マリちゃんが言葉に詰まって何も言えないでいる。そんな苦しそうなマリちゃんの表情をみて、みっちゃんは小さく溜め息を吐いた。そして悲しそうに緩く笑ってから「…ごめんなぁ」とネクタイを緩める。
「小夜、あとは店内モップかけたりガス線閉めたり電気消したりだから。ガス線は多分二人がやってるから大丈夫だと思うけど。小夜がやりそうなとこだとバーカウンターの掃除と店内の掃除くらいかな」
そんなみっちゃんの姿を見てマリちゃんはイライラしたように立ち上がり、黙って作業を開始。まだ座っている柏原さんは一言、「ガキみたいな喧嘩してんなお前ら」と言ってタバコを吸った。
「今回は光也が悪いな」
それにはなにも言い返さない。
「…まぁ一番わかってるだろうからそんなに言わないけどな」
「おっさん」
「なんだよ」
優しい口調のわりに、柏原さんは睨むようにみっちゃんを見た。それにみっちゃんは睨み返して答える。
「あんたホントに良い人だ。だけど今は黙っててくれないか?」
「…だから言わねぇっつってんだろ。ガキじゃねぇんだそんなに面倒なんてみてやんねぇよ」
なんとなく緩いイメージの柏原さんが、こんなに言葉が雑になることもあるのか。
「てめぇ今日は帰れや。見てるのうぜぇわ」
「…わかりました。すみません」
「小夜ちゃん、一応俺が教えるわ」
そう言って柏原さんが立ち上がり、みっちゃんが奥に引っ込んだ。
「悪いね小夜ちゃん。上がったのにね。あとでつけとくから」
「はい…いや、別に大丈夫です」
みっちゃんはすぐに着替えて、「お疲れさまです」と一声掛けてお店を出て行った。
ふと柏原さんが視線を送った先を見るとマリちゃんが、みっちゃんが去っていったドアを心配そうに眺めていた。柏原さんと目が合うと、気まずそうに目をそらされる。
「小夜ちゃん、ころころ言うこと変わってごめん。つけとくけど途中でいいや、真里と一緒に上がってやって」
「…はい」
「…あいつらの喧嘩はね、こうして収集つけないとダメなんだよね。
どっちも一歩引いてるからさ、人としては普通より二歩分足りてないってあいつらわかってないんだよね」
「…柏原さん、優しいですね、なんだかんだで」
「別に優しくはないよ。あいつらが好きなだけだよ。
真里ー」
「はい?」
呼ばれるとマリちゃんは奥から出てきた。
「…あのバカなんか自棄になってて面倒だから追って!こっちいいから!」
「…はぁ…」
「煮えきらないなお前もアイツも!早く!」
そう言われるとマリちゃんは仕方なくと言った感じでノロノロと奥へ引っ込んだ。
「小夜ちゃんごめんね。後は頼んだよ」
取り敢えず私はそのまま急いで外に出た。
夜の空気を感じないような東京。辺りを見渡しても一人で行けるとこなんてどこにもなくて。
「初めてのバイトどうだった?」
「いやぁ…うーん…大変でした。けど楽しいかも」
「こっちから見ててもかなり緊張してたよね小夜ちゃん。
でも一発目でまさかのフレッドじいとかだったからまだ…ね」
「いい人だった!」
「うるせぇだけだよあんなじい」
とか言いつつマリちゃんはちょっと嬉しそうだった。
「じいってかあんたさ、マジでいいの?」
「え?」
嬉しそうだったのが一転、急に心配そうにマリちゃんはみっちゃんに言った。
「お宅のお父さん」
「あー。
いいの?って?人はいつか死ぬやろ」
「…いや、仕事のこと心配してんなら」
「そうやない。いやまぁ仕事が心配なんもあるんやけどそれ以前に、あの人は仕事休むほど、俺の優先順位に掠りもしないんよ。みんな心配してくれてありがたいんやけど」
すごく淡々と言うみっちゃんが怖かった。ホントに感情が何も入ってないような、まるで紙の上の字を目でなぞるくらいの感覚でしか頭に入ってこない。それくらいに言ってる本人が何もなく語る。
わからなくもないけど。だけど私は事情を知らない。
「…遥子ちゃん、なんて?」
「え?今から帰るって」
「うん…いや、お父さん何で…?」
「あー、何か言っとったけど…なんや、脳卒中?脳梗塞?わからん、なんか脳の倒れる系」
「…そっか。
まぁ他人が口出すことじゃねぇがお前にとっちゃ俺は大人だから説教する。お前、親のそーゆーのは案外、親のこと嫌いでも後悔するもんだぞ。それで死んじまったらなぁ、憎しみや悲しみとかそんなの、ホントにちっぽけなんだぜ?
目の前に広がるのが虚無だって嫌でも目につく瞬間なんだぞ」
「…そうやろね」
「それでも行かない?」
「行かん」
「あっそ。それってよっぽどだよね」
「…おっさん、そろそろ始めて帰りたいんやけど。約束あるし」
「ごめんねこんな話の中。それなんだけどさ、光也さん」
マリちゃんが話に割って入ってさらに空気が張りつめた。
「あの人…良い人そう?」
だけど探るようにマリちゃんがぎこちなく聞いた。
「…わかんない」
「…そっか」
お互いが一歩引いて黙りこむ。誰もなにも言えなくなって、みっちゃんが立ち上がり、バーカウンターに入って作業を開始した。水場辺りを洗浄して、お酒を確認したりしている。
「…光也さん…?」
「真里」
そんな背中に声を掛けるマリちゃん。それには、みっちゃんは振り向かない。
「…お前はいつまで俺と居る気?」
「は?なに、それ」
「…もうね、ええんよ」
「あんたさ、」
「うるさい」
そう言ったあと一度振り返ってマリちゃんを見る。マリちゃんが言葉に詰まって何も言えないでいる。そんな苦しそうなマリちゃんの表情をみて、みっちゃんは小さく溜め息を吐いた。そして悲しそうに緩く笑ってから「…ごめんなぁ」とネクタイを緩める。
「小夜、あとは店内モップかけたりガス線閉めたり電気消したりだから。ガス線は多分二人がやってるから大丈夫だと思うけど。小夜がやりそうなとこだとバーカウンターの掃除と店内の掃除くらいかな」
そんなみっちゃんの姿を見てマリちゃんはイライラしたように立ち上がり、黙って作業を開始。まだ座っている柏原さんは一言、「ガキみたいな喧嘩してんなお前ら」と言ってタバコを吸った。
「今回は光也が悪いな」
それにはなにも言い返さない。
「…まぁ一番わかってるだろうからそんなに言わないけどな」
「おっさん」
「なんだよ」
優しい口調のわりに、柏原さんは睨むようにみっちゃんを見た。それにみっちゃんは睨み返して答える。
「あんたホントに良い人だ。だけど今は黙っててくれないか?」
「…だから言わねぇっつってんだろ。ガキじゃねぇんだそんなに面倒なんてみてやんねぇよ」
なんとなく緩いイメージの柏原さんが、こんなに言葉が雑になることもあるのか。
「てめぇ今日は帰れや。見てるのうぜぇわ」
「…わかりました。すみません」
「小夜ちゃん、一応俺が教えるわ」
そう言って柏原さんが立ち上がり、みっちゃんが奥に引っ込んだ。
「悪いね小夜ちゃん。上がったのにね。あとでつけとくから」
「はい…いや、別に大丈夫です」
みっちゃんはすぐに着替えて、「お疲れさまです」と一声掛けてお店を出て行った。
ふと柏原さんが視線を送った先を見るとマリちゃんが、みっちゃんが去っていったドアを心配そうに眺めていた。柏原さんと目が合うと、気まずそうに目をそらされる。
「小夜ちゃん、ころころ言うこと変わってごめん。つけとくけど途中でいいや、真里と一緒に上がってやって」
「…はい」
「…あいつらの喧嘩はね、こうして収集つけないとダメなんだよね。
どっちも一歩引いてるからさ、人としては普通より二歩分足りてないってあいつらわかってないんだよね」
「…柏原さん、優しいですね、なんだかんだで」
「別に優しくはないよ。あいつらが好きなだけだよ。
真里ー」
「はい?」
呼ばれるとマリちゃんは奥から出てきた。
「…あのバカなんか自棄になってて面倒だから追って!こっちいいから!」
「…はぁ…」
「煮えきらないなお前もアイツも!早く!」
そう言われるとマリちゃんは仕方なくと言った感じでノロノロと奥へ引っ込んだ。
「小夜ちゃんごめんね。後は頼んだよ」
取り敢えず私はそのまま急いで外に出た。
夜の空気を感じないような東京。辺りを見渡しても一人で行けるとこなんてどこにもなくて。
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