心中 Rock'n Beat!!

二色燕𠀋

文字の大きさ
6 / 74
卯月と紅葉

6

しおりを挟む
「なっ、」

 開けて唖然とした。

「あっ、」

 二人。穂咲兄さんと依田。

 依田、穂咲兄さんのオミアシをすりすりしている。穂咲兄さん台本片手に少し涙目。

 …ナニをしているの、お前ら。

「あ、亀ちゃん」

 顔を上げて依田は言い、穂咲兄さん気まずそうに正座をして背筋を伸ばした。

「な、なにしてるん?」

 ししょーも思わず唖然。
 あたしは勝手ながら昨日の依田の色々な話がフラッシュバックした。

 取り敢えず中に入ればししょー、動揺しすぎて震えた手で襖を閉め、凄くゆっくりと正座し、弟子達に向かい合った。

「いや、雀生師匠、これはですね、色々訳がありまして」
「まぁ…そのなんだ…。
 儂かてわかるやろ、穂咲。こんな姉ちゃん連れてきて所謂そのなんだ、アブノーマルやとは最近自覚しておった次第ではあるんやけど」
「えいや雀生師匠、ですから、」
「だが黙っといてくれ!頼む!こんなんこいつの、雀次の父親にバレたら『やはり三味線なんぞ』と殺されてしまうわというか雀次ぃぃ!お前、なにしてんねん!」
「え?稽古でっせ」
「は?はぁ?」
「いや、ねぇ、兄さん」
「いやぶん投げんなよ雀次。お前の師匠ヤバいやん」
「やっぱヤバいか、儂はヤバいか」
「あぁぁ、面倒だなぁ…」

 これは面白そうだ。見学しよう。
 なのに。

「あ、で亀ちゃんどうしたの?よく来れたね。ししょーのおかげ?」
「巻き込むんじゃねぇよバカ野郎!
 英語のテキス…参考書をあたしがてめぇに買い与えにわざわざここまで来てやったんだわバーカ!」

 そう言い切れば、何故かししょーの熱視線に穂咲兄さんの笑いを堪えた「あぁ嬉やお嬢様ぁあ」やらが沸く。
 茶化すように、というか思わずという感じに三味線を弾いてしまったのだろう依田に変態性を感じた。

「え、もしかして雀次、君さぁ、想い人ってこの子?」
「えっ、」

 ししょー心の底からの「えっ、」腹に響く低音。

「違いますよ兄さん堪忍してくださんせぇ。彼女はししょーの」
「雀次ぃ!」
「…彼女は俺の同居人ですぅ。訳あってお世話しとります。ね、亀ちゃん」
「そーです。あたしにも選ぶ権利ありですぅ。
 そいつの想い人のために英語の」
「亀ちゃん堪忍して」
「…あんたらは何を?え、依田、お前本気でヤバいのか」
「そうなんですよ亀ちゃん」

 急に亀ちゃん呼びになった穂咲兄さんは、にやっと笑って右手で左の裾を掴み、おいでおいで手招き。
 仕方なく穂咲兄さんの真横に座れば、ししょーの睨む視線。
 依田が、「はーいししょーには俺からせつめー」と、ししょーの肩を掴んで強引に話してるのが見える。

「実はね、」

 耳元で内緒話のように手を当ててくる兄さん。
 声通りすぎて大丈夫だろうかと思ったがその手で手元の台本を指差し、「ここ」と言ってくる。

 意外に低い声だな、あんた。

「ここの濡れ場がイマイチ俺の中で決まらないなぁと雀次に言ったら、ほな!って。
雀次もどうやら最近決まらないらしくて、これはもう足すりすりするしかないでしょってさ。あいつ変態だよね」
「ふっ、」

 笑っちまった。

「なにそれ!」
「だよな。笑っちゃって稽古どころじゃないけどあいつ至って真面目。『いや兄さん想い人を想い描いてください』ってさぁ!ムリだっつうの!
 でもなんかあいつおかしいなと思ったからそっから恋愛相談。今片想い中らしいねあいつ」
「あぁ、なるほどね」
「だから言ってやったわ!
『想い人想い描いて弾いてみろよ』って。したら君たちが来たわけさ」
「へぇ、」
「ちなみに君、好きな人は?」
「は?」
「いやぁ、どうせなら聞いとこうと」

 ちらっと穂咲兄さんと目が合った。
 あらっ。

「あいつは教えてくんないからさぁ、恋愛シーン、全く参考にならなかった」
「はぁ。
 私ぶっちゃけレズビアンなんでよくわかりませーん」

 あんた、獣の目をしていらっしゃるので。ちょっと先手を打ってやろうか。

 しかし何故か。
 ちょっと穂咲兄さん、息を吐いた。

「ふうん」

 一言言って依田を見て。

「三味線と太夫って、所謂夫婦と言われるわけよ。
 あんたと紅葉、似てるねぇ、そんなんに」

 しかしそれは少し慈悲深いような目付きなので。
 あぁ、単純にあんたわりと良い人なんかもね。じゃ、また先手で。

「いや、あいつもゲイだから」

 ゲイじゃないけどね。

 その一言に兄さん、驚いた表情であたしを一瞬見、「ふ、ははは!」と何故だか笑いだした。

「君ら楽しーね。よし。
 雀次、俺出来そーよ。足すりすりしなくていーから、雀生師匠もいらっしゃるし、一回合わせよ。強烈な濡れ場」
「えっ。どうしたの兄さん」
「いいから早くして。今日の音はでも最高だった。お初きっと喜んだよ『あぁ嬉や』よ、マジ。はい、早く早く」
「『早う殺して』的な?」
「いいから早くしろよ変態!俺は気が短いんだよ」
「はいはいわかりましたよ更年期障害!」

 それから何故だか。
 英語テキストを渡すまでに実に3回も「アゝ嬉や」を見せられた。
 流石に飽きた。だって実のところ文楽よくわかんないし。

 ただなんとなく『艶の穂咲太夫』と『芸道の鬼雀次』はわかった。
 この二人半端ないコントラストだ。

 確かに兄さんのお初(ヒロイン)、ヤバい。
 そして依田、本気で鬼。

「兄さんそこの間もう一回やりましょ。今のはズレた。俺がズレたかあんたがズレたか」
「待って明日も声が」
「俺も明日腱鞘炎なんではい、」

 とか言って無表情で二人、淫乱稽古をやり続けていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

恋人はメリーゴーランド少年だった~永遠の誓い編

夏目奈緖
BL
「恋人はメリーゴーランド少年だった」続編です。溺愛ドS社長×高校生。恋人同士になった二人の同棲物語。束縛と独占欲。。夏樹と黒崎は恋人同士。夏樹は友人からストーカー行為を受け、車へ押し込まれようとした際に怪我を負った。夏樹のことを守れずに悔やんだ黒崎は、二度と傷つけさせないと決心し、夏樹と同棲を始める。その結果、束縛と独占欲を向けるようになった。黒崎家という古い体質の家に生まれ、愛情を感じずに育った黒崎。結びつきの強い家庭環境で育った夏樹。お互いの価値観のすれ違いを経験し、お互いのトラウマを解消するストーリー。

これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー

小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。 でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。 もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……? 表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。 全年齢作品です。 ベリーズカフェ公開日 2022/09/21 アルファポリス公開日 2025/06/19 作品の無断転載はご遠慮ください。

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

処理中です...