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道行Music Beat
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年末を迎え、あたしは依田と依田の師匠、雀生と共に、大阪の依田家へ向かうこととなった。
「もしかすると亀ちゃん、義母に面倒を見てくれと、言われるかもしれない」
旅立つ前日、大晦日。依田はあたしが裁断した刺身をつまみにビールを飲みながらそう言った。
依田と住み始めてから3回目の大晦日、毎年依田は大阪の師匠の家に泊まるのだが、今年はそんな訳で、この家で依田とあたしは初めて一緒に過ごしている。
あたしももちろん、14歳で家を追い出されてしまった依田からしてもそんな家庭的なことは異例であった。
あたしは年明け、依田の婚約者と偽り、依田を追い出した魔性の女に会いに行くらしい。
「面倒?」
「父が死んだから、老後とか跡取り、孫の話もされると思う」
「…依田の家にあたしが入るってこと?」
「まぁ、俺が入る気がないから断るけどさ。嫌に思わないでね」
依田はいつも通り、優しい笑顔でそう言った。
「どうやって断るの?」
「…師匠には悪いけど、やっぱり摘発しようかなって思ってさ」
一瞬ぴんとこなかったが、「…告白?」と聞けば「いや、師匠は」と要らぬ気違いをしている。
「カミングアウト。お前いい加減覚えてよ」
「あ、うん」
「でもさぁ…。
婚約者として行くなら、それ効果あるの?」
「わかんない。けどさぁ、多分あの親頭悪いから。ドン引きさせて話す気もなくさせようかなみたいな」
「はぁ…」
どうなのかなぁ、それ。
「…やっぱダメかなぁ」
「うん。なかなか脇が甘いと思う」
「でもさぁ、俺が頭おかしければ、弟、まぁあの人の実の子にその話が行くと思わない?」
「まぁ…。
いっそあたしがなんか、妊娠出来ないとかどうよ」
「えー。そんなこと亀ちゃんに言わすくらいならEDだって言うわ」
「なにその妙な男気」
「えへへ~、かっこいい?ぱんく?ろっく?」
「全っ然。ドン引き」
「あ、じゃいいじゃん」
「いやぁ、違うんだよねぇ」
そうなの?とか言ってる依田に「まぁ、」と続ける。
「最早勢いだよ勢い。実際会ったことないんじゃわかんないじゃん?」
「まぁね。相当な女狐ってことしか知らないからねぇ」
遠い目をしながら缶ビールを飲み、テレビを見ては「あっ!亀ちゃん!」と無邪気に言った。
「もう10分切ったよ」
「あぁ、そう」
「どうせなら除夜の鐘、行けばよかったねぇ」
「師匠とは行くの?」
「いんや、」
依田はビールを置いて言う。
「蕎麦食って22時くらいには寝ちゃうね、師匠」
「あそうなんだ」
まぁそっか。
おじいちゃんだもんな、言うならば。
ハイパーだけど。
「亀ちゃんは?」
「ん?」
「いや、いつも一人で何してんのかなって」
「んー」
案外。
「あたしも寝てるかも」
「あそうなんだ。音楽のやつは観ないの?」
「んー、あたしが観たいの地上波じゃないからね」
「なにそれ」
「有料チャンネル」
「なにそれエロ」
「違うから。お金払ってみるやつ」
「なにそれエロ」
「違ぇっつうんだよこの猿!」
んなエロい気分で煩悩な年明け、したくないわ。
依田は立ち上がり、ビールを冷蔵庫から二本取って、一本を渡してきた。
「年越し乾杯しようよ亀ちゃん」
「ん、はいよ」
二人で開けて乾杯する。冷たい。
「今年はお世話になりました」
「来年もよろしく」
そう言うと依田は少し切なそうに笑い、浅い笑い笑窪で行った。
「いつまで、一緒にいるのかな、亀ちゃん」
確かに。
性癖故に結婚もせずに、ずっと、一年に3分の1くらいしか一緒にいない私たちは、一体いつまでここで暮らすのだろうか。
でも。
「…ある意味、ホントに死ぬまでいるなら、心中かもね」
心中には、逃避行だって必要だ。
あたしはあたしを生きていき、依田は依田を生きていく。
一人でグラシアをやると言ったのんちゃんだって、関わるかもしれないこの縁は、けして同じ分類として交わらないが、凄く、似ているんだ。
「…今年は、なんだか色々あったね依田」
「…そうだね。でもやっぱ、辛いことも楽しいことも、終われば次を求めるね」
なんだっ、
「お前無駄にかっこつけやがって」
「へへ~、かっこい?ぱんく?ろっく?
あっ!」
テレビでカウントダウンが始まる。合わせて「亀ちゃん、」と肩を無意識に引かれて、「5、4、3、2、1」と依田はキラキラしてテレビと一緒に数えて。
「明けまして、おめでとーう!」
再び乾杯をせがんでくる。
かんっ、と小さく乾杯して、それに笑顔な依田を見て。
柄にもなく、ちょっと安心と言うか、暖かさがあった。やだ、母性本能かしら。
「初めてだねぇ」
「そうだねぇ」
3年目にして漸く一年が開ける。
寂しくなかった、この、3年のうちの3分の1、1年。
「…今年も」
よろしく。
心のなかであたしはそう呟き、ビールと共に胃に流し込んだ。
「もしかすると亀ちゃん、義母に面倒を見てくれと、言われるかもしれない」
旅立つ前日、大晦日。依田はあたしが裁断した刺身をつまみにビールを飲みながらそう言った。
依田と住み始めてから3回目の大晦日、毎年依田は大阪の師匠の家に泊まるのだが、今年はそんな訳で、この家で依田とあたしは初めて一緒に過ごしている。
あたしももちろん、14歳で家を追い出されてしまった依田からしてもそんな家庭的なことは異例であった。
あたしは年明け、依田の婚約者と偽り、依田を追い出した魔性の女に会いに行くらしい。
「面倒?」
「父が死んだから、老後とか跡取り、孫の話もされると思う」
「…依田の家にあたしが入るってこと?」
「まぁ、俺が入る気がないから断るけどさ。嫌に思わないでね」
依田はいつも通り、優しい笑顔でそう言った。
「どうやって断るの?」
「…師匠には悪いけど、やっぱり摘発しようかなって思ってさ」
一瞬ぴんとこなかったが、「…告白?」と聞けば「いや、師匠は」と要らぬ気違いをしている。
「カミングアウト。お前いい加減覚えてよ」
「あ、うん」
「でもさぁ…。
婚約者として行くなら、それ効果あるの?」
「わかんない。けどさぁ、多分あの親頭悪いから。ドン引きさせて話す気もなくさせようかなみたいな」
「はぁ…」
どうなのかなぁ、それ。
「…やっぱダメかなぁ」
「うん。なかなか脇が甘いと思う」
「でもさぁ、俺が頭おかしければ、弟、まぁあの人の実の子にその話が行くと思わない?」
「まぁ…。
いっそあたしがなんか、妊娠出来ないとかどうよ」
「えー。そんなこと亀ちゃんに言わすくらいならEDだって言うわ」
「なにその妙な男気」
「えへへ~、かっこいい?ぱんく?ろっく?」
「全っ然。ドン引き」
「あ、じゃいいじゃん」
「いやぁ、違うんだよねぇ」
そうなの?とか言ってる依田に「まぁ、」と続ける。
「最早勢いだよ勢い。実際会ったことないんじゃわかんないじゃん?」
「まぁね。相当な女狐ってことしか知らないからねぇ」
遠い目をしながら缶ビールを飲み、テレビを見ては「あっ!亀ちゃん!」と無邪気に言った。
「もう10分切ったよ」
「あぁ、そう」
「どうせなら除夜の鐘、行けばよかったねぇ」
「師匠とは行くの?」
「いんや、」
依田はビールを置いて言う。
「蕎麦食って22時くらいには寝ちゃうね、師匠」
「あそうなんだ」
まぁそっか。
おじいちゃんだもんな、言うならば。
ハイパーだけど。
「亀ちゃんは?」
「ん?」
「いや、いつも一人で何してんのかなって」
「んー」
案外。
「あたしも寝てるかも」
「あそうなんだ。音楽のやつは観ないの?」
「んー、あたしが観たいの地上波じゃないからね」
「なにそれ」
「有料チャンネル」
「なにそれエロ」
「違うから。お金払ってみるやつ」
「なにそれエロ」
「違ぇっつうんだよこの猿!」
んなエロい気分で煩悩な年明け、したくないわ。
依田は立ち上がり、ビールを冷蔵庫から二本取って、一本を渡してきた。
「年越し乾杯しようよ亀ちゃん」
「ん、はいよ」
二人で開けて乾杯する。冷たい。
「今年はお世話になりました」
「来年もよろしく」
そう言うと依田は少し切なそうに笑い、浅い笑い笑窪で行った。
「いつまで、一緒にいるのかな、亀ちゃん」
確かに。
性癖故に結婚もせずに、ずっと、一年に3分の1くらいしか一緒にいない私たちは、一体いつまでここで暮らすのだろうか。
でも。
「…ある意味、ホントに死ぬまでいるなら、心中かもね」
心中には、逃避行だって必要だ。
あたしはあたしを生きていき、依田は依田を生きていく。
一人でグラシアをやると言ったのんちゃんだって、関わるかもしれないこの縁は、けして同じ分類として交わらないが、凄く、似ているんだ。
「…今年は、なんだか色々あったね依田」
「…そうだね。でもやっぱ、辛いことも楽しいことも、終われば次を求めるね」
なんだっ、
「お前無駄にかっこつけやがって」
「へへ~、かっこい?ぱんく?ろっく?
あっ!」
テレビでカウントダウンが始まる。合わせて「亀ちゃん、」と肩を無意識に引かれて、「5、4、3、2、1」と依田はキラキラしてテレビと一緒に数えて。
「明けまして、おめでとーう!」
再び乾杯をせがんでくる。
かんっ、と小さく乾杯して、それに笑顔な依田を見て。
柄にもなく、ちょっと安心と言うか、暖かさがあった。やだ、母性本能かしら。
「初めてだねぇ」
「そうだねぇ」
3年目にして漸く一年が開ける。
寂しくなかった、この、3年のうちの3分の1、1年。
「…今年も」
よろしく。
心のなかであたしはそう呟き、ビールと共に胃に流し込んだ。
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