drop【途中完結】

二色燕𠀋

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 じりじりと汗でトリガーが滑る。次のシリンダーはまだ、回せない。

 真っ直ぐと、無様な女でもなく自分を見つめてくる黒目にクロエは、少しばかり見つめ返しては……。
 朔太郎にはクロエが影を落としたような…いや、脱力したようにすら見えた。

 そうして黙り込んだクロエはポロっとレイラの髪から手を離し、「何が出来たって言う、」と呟いた。
 そのまま銃をぶら下げるように持つクロエはレイラを力なく見下ろし「何回だったと思う…?」と、完全に脱力しきったようだった。

「…あんたが、ルカを壁に打ち付けたの」
「…はっ、」
「108回だったよ、」

 そう言ったクロエはハッキリと朔太郎を見、無言で拳銃を投げて寄越した。
 しかし一段落も出来ないまま、彼はスカートに手を入れひとつだけ手榴弾を取り出し、「これが最後」と言った。

「覗かないでね」

 そう言って柵をひょいと越えたクロエに「待て、」と言うも、彼はピンを引き抜き二階の、一番奥の方へそれを放った。

 ふわっと落ちる彼よりも「待てっ!撃つなぁっ!」と下へ叫ぶ朔太郎の声は遅く、パン、と一発の銃声が鳴る。

 落ちたクロエの額からは血が出、そのままホールに落ちたようだった。

 朔太郎が「待てっ!」と連呼しながら急いで階段を下りる際に端に見たのは、銃口から煙を上げるミハイルで、彼はその場で泣いて歯を食い縛り、その銃口で自らの頭を打ち飛ばし倒れた。

 そうか、そうだったのか。

 確認する以前に「下がれぇっ!」とアレクが叫び前に出て牽制したのに数名の狙撃手は銃を下げた。

 朔太郎がクロエに駆け寄れば、「銃を捨てろ、警察だ!」とアレクもジョフもそれを守るように側へ寄った。

 クロエの傷は蟀谷をかすっただけで、反動で気絶しているだけだと確認し、まずはと朔太郎は、持参していたハンカチサイズの布でその傷を強く圧迫した。

「…被疑者自決により終幕。
 重要参考人兼器物損害罪としてクロエ・アヴェリンの身柄は行政公安科警察係が確保する。
 アレク、大丈夫そうだ。だが早く行こう」
「…サクちゃん、」

 答えないでいればアレクが「超格好いい」と、こんなときまで剽軽な事を言うが、ふざけた調子でもなかった。

「いや…、」

 少なからず。
 ミハイルが立っていた位置を見る朔太郎にアレクが「行こ、」と促した。

「…出来る仕事をまずは、」

 アレクがジョフに目配せすれば「鑑識部隊を滑らせればよろしいですか」と、呟くように言った。

「…FBIと、CIAなんでしたよね、一応」

 朔太郎はクロエの腕に肩を通しながら「使える新人だな」と平坦に言う。

 やはり思ったよりもクロエは軽かったし、熱かった。そして、反動か涙かはわからないがカラーコンタクトは外れ、黒子も綺麗さっぱり消えていた。

 クロエを非常口へ運ぶ最中、「…いつから気付いてたの」と、アレクが聞いてきた。

「…ミハイルは、」
「いや、」

 気付かなかったかと言えば嘘になる。
 それは彼の証言が、明確すぎる事への疑問だったけど…。

「…恐らく彼は、そうじゃない」

 自決とは、そういうことだ。

「…まぁ、」
「良く、ない……。クロエは、誰も殺さなかったんだから、」

 渋い顔のままの朔太郎にアレクは「…当たりチョーダイ」と言ってみる。

「…よくわからないけど」

 そんな同僚にまだ、と、「…タバコ吸いたい」とねだれば、アレクは勝手に、自由もない朔太郎のポケットから3つ飴をまさぐり、1つは袋を開けてやるのだった。
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