drop【途中完結】

二色燕𠀋

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 肘掛けに座りながら朔太郎を見下ろすクロエはコーヒーをごくっと飲むのみだった。

「あぁ…ありがと」
「俺が工作員だったらあんた今死んでるね。けど普通に顔怖い」
「…まぁ」

 入り込めば自覚がないと知っている。

「…で?俺が工作員だったらどうするの?」
「それにしちゃ情報が繋がりすぎてるな、下手に」
「でしょー。でもきっとチンピラより上というのは石を転がすのが仕事だよ」

 からかうように言うクロエに「ふむ…」と、急にタバコが吸いたくなった。

「…アニシン第二に繋げるには弱いが、爆破時期から輸入が始まっていそうだ」
「ふうん、フランス側カルテルでしょ。仲良くしておいて損はないだろうからね、なんて言うのは末端には関係ない。
 裏取ろうってのはどの程度なの?」
「1社取ればカルテルなんてあとはドンパチやる。1社取るには別の場所との比較さえあれば良い」
「となると外交関係になるんじゃないの?」
「別口でヤクザを当たるかな。ところでロシアではレミントンM700はおいくらだ」
「さぁ?まぁアメリカさんだし安くなきゃロシア人は買わないでしょ…と言いたいけどアメリカさんは良いの作るからねぇ」
「じゃぁ当のRPG-7なんてのは?」
「さぁ。扮装地域だとドル換算で800$から1000$てとこじゃない?」

 電卓を手にする。
  相場によるが1ドル100円だとすると8万円から10万円というところだろうか。うん、痛い数字。

「資金難もあるはずだな。そちらで当たっても良い」
「…見えてきそう?」
「どうかな。このカルテルのバックは知りたい。ただのゲリラにゃ売らないだろう、リスキーだ、と考えれば繋がってきそうだ。お前SKS撃てるか?」
「ん?何それどんなの?」
「んーAK-47あたりの」
「もしかして英語表記?CKCのこと?自動小銃の」
「それだそれ」

 なるほど、そういえばロシアはアルファベットの使い方も違うのかと思えば「あ、意外とそこはAK-47でやったよ」とクロエは答える。

「そもそもCKCは試供だし…」
「そうなのか」
「そうだよ。だってサクちゃんもAK-47でピンと来てるでしょ?少ないんだよ。軍事支給で練習したのも随分古いと思うけどなんでそんなもの?」

 眺めた。

「ん~…、どうなんだ、それって却ってCKCの方が高いのか?」
「お金の話ホント好きだね。どうかなぁ、マニアじゃないからわからないな」
「…そうか、なるほど。軍事支給って言ったよな」
「うん?そうじゃない?」
「軍と繋がったな。しかし分かりやすい。視点をゲリラから反らしてるような印象を受けるな。ちょっと港まで行くか…といってもFSBが介入してるなら」
「危ないねぇ」

 まぁ、そこは化け物一人いればなんとかなりそうだが、問題はFSBから漁港に通達があれば掴みにくい。
 いや、逆説か。

「漁船を見に行く程度で」
「…サクちゃん、段ボールはどうするの」
「あ?シュレッダー壊した本人が言うなよアホ」
「はーい。取り敢えず言うこと聞きまーす」
「まぁ送るけど、箔はつけようという話だ、まぁこれは確かに闇へ葬られるか、危険な賭けだけども」
「志低ーい」
「うるさいな。ゴールは金を積んででも公安でというわけで」
「はーい。ずるーい!」
「うるさいなじゃぁ直せバカ」

 へへへ、と途端に楽しそうな態度のクロエはふと、「こんな危ない橋俺と渡って良いの?」だなんてほざきやがる。

「さぁな。お前はクレイジーだからな」
「…どさくさに紛れて殺しちゃうかもしれないね」

 まぁな、と朔太郎が返す原理はわからないかもしれないが、クロエは一瞬だけ刹那な表情だったようだが、「それにしても」とまたにこっと笑って切り返した。

「随分詳しいんだね、普通の警官でしかも平和主義なんてロケランはピンと来ないんじゃない?」
「前の仕事はテロテロテロテロと物騒だったんだ」
「なるほどね、KGBみたい」

 そんな人がこんな状況。果たしてイカれてるのはどっちなんだかと考えたが、所謂似た者同士かもしれないと思える。なら、却って互いを殺すことに意味など発生しない、なら。

「気が楽かも」
「やっぱりイカれてるよお前」

 より一層自分の立ち位置がわからなくなる。
 「これしかない」と朔太郎は、ポケットからサイダーのラ・フランスをクロエに渡す。
 新しいやつ、とクロエは早速開けて口に入れたが「なにこれっ!」と、口のなかを攻撃されるようなシュワシュワに、寧ろ笑えてきた。

「爆弾だ」
「確かに」

 ところでその衣装で行くのかと言うのも爆弾な気がして、もういいやと自分は当たりに近いサイダーのプレーンを舐める。確かに爆弾だ、口の上が剥けそうだ。

「…やっぱこれ辞めるか」
「グミじゃダメなの?」
「銀歯が取れそうで嫌だ」

 いちいち来る「ナニソレ」は最早相手にしなくてもひとりでに解決しそうだと朔太郎は黙って飴を舐め続ける。まぁこういった博打はたまにでいい。自分はわりと擦る方だ。
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