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The 4th episode
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お望み通りに来栖の隣に座った。来栖さんはすぐにワインをオーダーした。
ロマネ・コンティの1983年。これ、いくらの年のやつなんだろう。まぁでもロマネ・コンティって高いよな。俺飲んでいいの?
「DRCで充分よね」
「はい…」
笑顔で答えてみたがよくわかってない正直。
ワインを持ってきた黒いスーツの、金髪の兄ちゃんが人懐っこい笑顔で、「今度、俺も飲ませてくださいね」なんて言っていた。
「貴方みたいな子供にはまだ早いわ」
金髪くん(絶対挨拶したけど名前を覚えていない)が去ってから取り敢えず俺は、「失礼しますね」と言って立ち上がり、コルクを抜いてワインクーラーにもう一度刺して座る。
「なに飲みますか?」
「ジントニック」
取り敢えず近くにいたウェイターに2杯頼む。すぐに持ってきてくれて、取り敢えず乾杯。
一口飲むと、「今日はちょっと薄いわね」と来栖さんは言う。
「作り直しますか?」
「いえ、いいわ。
貴方、この仕事はじめて?」
「まぁ、はい」
「そのわりに慣れてるのね」
「そうですか?俺結構戸惑ってますよ」
「正直ね」
来栖さんは、やたら艶っぽい視線で俺を見つめてくる。
逃げるように一口ジントニックを飲むと、確かに、少し薄いような気がした。
「確かに、ちょっと薄いですね」
そう言って微笑みかけると、「貴方なら、もう少し濃いのを作る?」と聞かれる。下品な女。
「その日の気分によるかな。でも、ワインの前ならいいような気もします」
「あらそう」
「ワインなら、やっぱりチーズですか?来栖さん、お腹すいてませんか?嫌いなものとかありますか?」
「…優しいのね」
「これくらい、当然ですよ」
促すと来栖さんは微笑んで、メニューを指してくれた。意外に素直な人だ。言われたものをオーダーする。
ジントニックが飲み終わる頃には来栖さんと打ち解けていた。
ワインの温度もそろそろ良さそうだ。慎重に持って、冷えたグラスに注ぐ。来栖は注ぎ終わって香りを味わっている。
それから二人で乾杯した。人生初のロマネ・コンティ。
「人生初です」
「あら、そうなの?」
「はい」
「じゃぁ楽しんで」
一口飲んでみる。
口当たりがいい、と言うよりなんだろう、雑味がない。ワインの嫌さがないんだ。
「…どう?」
「なんて言うんだろ、雑味がないですね…多分」
食レポで言ったらアウト。そんな俺を見て来栖は上品に笑う。
「…すみません、こんなことしか言えないや」
「貴方は純粋ね。そーゆーの好きよ」
「あぁ、あとは…。
血みたい」
「え?」
「色が。だから、なんか…」
血を飲んでいるみたいだ。
なのに、あっさりしている。
「…面白い」
「こんなことしか言えませんよ?」
「ねぇ、」
来栖は少し身を乗り出すように俺の肩に手を置き、耳元で内緒話をするように囁く。
「この後、どうするの?」
潤んだ瞳、湿った吐息。なんだかんだで3杯目のワイン。多分酔っている。
「ダメですよ。浅井さんに殺される」
「その前に私が貴方を殺すわ」
「嫌だなぁ、怖い」
「私ね、とても良い物持ってるの」
そう言うと来栖は鞄の中からポシェットを取りだし、その中から粉末の粉が入った薬包と、さっき浅井も持っていたアフターピルを取り出した。
「これ、凄くいいの」
「へぇ、何、それ」
「こっちはわかるでしょ?」
アフターピルを翳される。
「…浅井さんにさっきもらったけど」
「アフターピルなんて嘘よ。これ、物凄く気持ちよくなる薬なのよ?」
「…そうなんだ」
「こっちはね、体の奥から熱と一緒に欲望が掻き立てられる…」
「…それ、ヤバくないの?」
「大丈夫よ。合法だもの」
仕方ねぇな。
「へぇ…」
「浅井には黙ってるんだけどね」
「どうして?」
「こっちの薬は怒るの。自分が知らない私になるから」
「意外と独占欲あるんだね」
「そうよ。ねぇ、あの」
仕方ねぇ。
太もも辺りに手を置き、耳元に口を寄せる。腰を抱くように密着し、「そんなに浅井さんじゃダメなの?」と問いかける。
彼女は完璧にとろんとした目をしていた。
「綺麗だね、あんた」
すっかり手懐けられた猫のような瞳で。肩に腕をまわして来たのでそれを制する。
「浅井さんにバレたらやだなぁ」
「上手いわね」
「違うよ。
俺は潔癖性なの。他の男を感じるのが嫌だ」
「物は言いようね。
いいわ、黙っててあげる」
「本当に?内緒だよ」
我ながら上出来スマイルなんじゃないかと思う。俺もわりと潤の事なんて言えないな。
残りのワインを飲みきって来栖は立ち上がり、俺の手を取る。
「少し酔ったみたい。気分が悪い」
近くにいた洋巳に来栖はそう告げる。洋巳は、「大丈夫ですか!?」と慌てるが、手にはペットボトルの水をすでに用意していた。
なるほど、これが常套手段なのか。
「少し外に出てくる」
「…珍しいですね。どうしましょう…」
洋巳と目が合う。不安そうに見てくるのでやんわり笑い、
「俺が酔わせちゃったから。面倒見ますよ。
来栖さん、大丈夫?ごめんなさいね」
来栖は抱きつくようにスーツにしがみついてきた。
ロマネ・コンティの1983年。これ、いくらの年のやつなんだろう。まぁでもロマネ・コンティって高いよな。俺飲んでいいの?
「DRCで充分よね」
「はい…」
笑顔で答えてみたがよくわかってない正直。
ワインを持ってきた黒いスーツの、金髪の兄ちゃんが人懐っこい笑顔で、「今度、俺も飲ませてくださいね」なんて言っていた。
「貴方みたいな子供にはまだ早いわ」
金髪くん(絶対挨拶したけど名前を覚えていない)が去ってから取り敢えず俺は、「失礼しますね」と言って立ち上がり、コルクを抜いてワインクーラーにもう一度刺して座る。
「なに飲みますか?」
「ジントニック」
取り敢えず近くにいたウェイターに2杯頼む。すぐに持ってきてくれて、取り敢えず乾杯。
一口飲むと、「今日はちょっと薄いわね」と来栖さんは言う。
「作り直しますか?」
「いえ、いいわ。
貴方、この仕事はじめて?」
「まぁ、はい」
「そのわりに慣れてるのね」
「そうですか?俺結構戸惑ってますよ」
「正直ね」
来栖さんは、やたら艶っぽい視線で俺を見つめてくる。
逃げるように一口ジントニックを飲むと、確かに、少し薄いような気がした。
「確かに、ちょっと薄いですね」
そう言って微笑みかけると、「貴方なら、もう少し濃いのを作る?」と聞かれる。下品な女。
「その日の気分によるかな。でも、ワインの前ならいいような気もします」
「あらそう」
「ワインなら、やっぱりチーズですか?来栖さん、お腹すいてませんか?嫌いなものとかありますか?」
「…優しいのね」
「これくらい、当然ですよ」
促すと来栖さんは微笑んで、メニューを指してくれた。意外に素直な人だ。言われたものをオーダーする。
ジントニックが飲み終わる頃には来栖さんと打ち解けていた。
ワインの温度もそろそろ良さそうだ。慎重に持って、冷えたグラスに注ぐ。来栖は注ぎ終わって香りを味わっている。
それから二人で乾杯した。人生初のロマネ・コンティ。
「人生初です」
「あら、そうなの?」
「はい」
「じゃぁ楽しんで」
一口飲んでみる。
口当たりがいい、と言うよりなんだろう、雑味がない。ワインの嫌さがないんだ。
「…どう?」
「なんて言うんだろ、雑味がないですね…多分」
食レポで言ったらアウト。そんな俺を見て来栖は上品に笑う。
「…すみません、こんなことしか言えないや」
「貴方は純粋ね。そーゆーの好きよ」
「あぁ、あとは…。
血みたい」
「え?」
「色が。だから、なんか…」
血を飲んでいるみたいだ。
なのに、あっさりしている。
「…面白い」
「こんなことしか言えませんよ?」
「ねぇ、」
来栖は少し身を乗り出すように俺の肩に手を置き、耳元で内緒話をするように囁く。
「この後、どうするの?」
潤んだ瞳、湿った吐息。なんだかんだで3杯目のワイン。多分酔っている。
「ダメですよ。浅井さんに殺される」
「その前に私が貴方を殺すわ」
「嫌だなぁ、怖い」
「私ね、とても良い物持ってるの」
そう言うと来栖は鞄の中からポシェットを取りだし、その中から粉末の粉が入った薬包と、さっき浅井も持っていたアフターピルを取り出した。
「これ、凄くいいの」
「へぇ、何、それ」
「こっちはわかるでしょ?」
アフターピルを翳される。
「…浅井さんにさっきもらったけど」
「アフターピルなんて嘘よ。これ、物凄く気持ちよくなる薬なのよ?」
「…そうなんだ」
「こっちはね、体の奥から熱と一緒に欲望が掻き立てられる…」
「…それ、ヤバくないの?」
「大丈夫よ。合法だもの」
仕方ねぇな。
「へぇ…」
「浅井には黙ってるんだけどね」
「どうして?」
「こっちの薬は怒るの。自分が知らない私になるから」
「意外と独占欲あるんだね」
「そうよ。ねぇ、あの」
仕方ねぇ。
太もも辺りに手を置き、耳元に口を寄せる。腰を抱くように密着し、「そんなに浅井さんじゃダメなの?」と問いかける。
彼女は完璧にとろんとした目をしていた。
「綺麗だね、あんた」
すっかり手懐けられた猫のような瞳で。肩に腕をまわして来たのでそれを制する。
「浅井さんにバレたらやだなぁ」
「上手いわね」
「違うよ。
俺は潔癖性なの。他の男を感じるのが嫌だ」
「物は言いようね。
いいわ、黙っててあげる」
「本当に?内緒だよ」
我ながら上出来スマイルなんじゃないかと思う。俺もわりと潤の事なんて言えないな。
残りのワインを飲みきって来栖は立ち上がり、俺の手を取る。
「少し酔ったみたい。気分が悪い」
近くにいた洋巳に来栖はそう告げる。洋巳は、「大丈夫ですか!?」と慌てるが、手にはペットボトルの水をすでに用意していた。
なるほど、これが常套手段なのか。
「少し外に出てくる」
「…珍しいですね。どうしましょう…」
洋巳と目が合う。不安そうに見てくるのでやんわり笑い、
「俺が酔わせちゃったから。面倒見ますよ。
来栖さん、大丈夫?ごめんなさいね」
来栖は抱きつくようにスーツにしがみついてきた。
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