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The 4th episode
14
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これで漸く仕事に打ち込める。今日のデータを出来るところまで纏めておこう。
パソコンに向かった。潤が後ろで、「悪かったよ」と渋々謝った。
まるで子供みたいだ。
「わかったよ姫」
「ねぇ、前から聞こうと思ってたんだけど、その姫ってなんなの?」
「お前すげぇワガママじゃん」
「…なるほどね」
納得するんだ。てか、だったら俺の王子はなんなんだ。
「じゃぁ王子は?」
「うーん、ピッタリじゃん」
「は?」
「全然わかんない、勘弁してよ」
「高田さんは納得したよ」
確かにあの人もたまに潤のことを姫って言うな。
「あぁ、よくこいつのこと王子って言うわ。ホテルの時、王子連れてけって言われて、久しぶり過ぎて誰だかわかんなかったもん」
あぁ、そう言えばそんな会話してたな。
「こいつが出てきた時ガッカリしたよ」
「すっげぇ嫌そうだったな確かに」
そんな話をしていれば、件の高田から電話がかかってきた。
通話にしてから肩と耳にケータイを挟み、パソコンを打ち込み続ける。
「はい、スミダ!」
『元気だなぁ。どうだった』
「ちっといま報告書作ってるんですが。肩痛ぇんですけど」
隣では、「器用だなぁ」と、後ろでは、「気持ち悪くなんねぇの?」と声が聞こえる。俺は聖徳太子じゃないっつーの。
『あ、荒川と姫がいるね。仲良くやってそうで何よりだ』
出た姫。
「上司に気に入られると損だね」
「まったくだ。しかしこーゆースキルがつくんだな」
「いらねー」
「ちょっと二人うるさい!
で?なんっすか」
『いや、5課の…』
「あ、あぁ…」
確かにここでしていい話ではないな。
『…まぁそうだな。
気が変わった。早急に會澤組を潰してくれ』
「は?」
またまた無茶ぶりを…。
「え、だって、まだ」
『ちょっと状況が変わった。逮捕するだけの証拠掴めたら即ガサ入れから逮捕』
「えぇぇ…」
んなこと言ったら今すぐ逮捕だけど、こっちとしてはもうちょい掴みたいんだけど。
「こっちとしてはもうちょい掴みたいんだけど」
『こっちは早く會澤組を潰して欲しい、以上』
「はぁぁ!?」
ぶちっと電話が切れた。
「え?なに?」
「…なんでもない」
話すわけにはいかない。
「そのわりに不服そうだな」
「…政宗、」
ここで手を引いてしまっては…。
明日にでもガサ入れしたとしたら多分、大して何も得ずに今日の捜査も、意味もなく終わってしまう。
「流星?」
「…ちょっと重くなってもいいですか?仕事」
「…充分重いけど聞いてやろうか」
「証券会社ゼウス。こちらを調べてください。ただ…相手は結構強者です。
多分、ここを叩いたら埃しか出てこない。その埃がまた…」
「ゴキブリレベルってか」
「そうですね」
「いいだろう。バルサン炊いてやる」
「ここは、龍ヶ崎と手を組んでるのは間違いないんですが…。
予想ですが、どうも相手方はこちらの動向に詳しいんですよ。なんで…龍ヶ崎から手を引こうとしているんじゃないかと思うんです」
「つまり?」
「龍ヶ崎、會澤組を突き詰められてないからまだモヤモヤしていますが、ここがエレボスと繋がっていたとします。そこから手を引く可能性としては、會澤組が検挙されると自分達にも被害が来る。どういう面で?という話なんです」
ゼウスの取引先もまだモヤが掛かっているが、ここは他にもエレボスの糸口がありそうだ。
「まぁ自分らが単純に捕まるからか、もしくわエレボスの糸口があるとバレるからか…だったら早々に切っちまった方がいいわな」
「調べてみないことにはわかりませんが多分、他にもゼウスはエレボスと繋がっていそうな気がするんですよ」
「お前さ、」
政宗は諭すような口調で言う。
「やっぱりなんか、首つっこんだな」
「しかも黙ってな」
なかなか誤魔化せないな、この二人は。
しかしまだ、言えない。
「いや、ちょっとです」
「嘘だね」
「詳しすぎるよね。高田さんに言われた?」
「違うよ。
たまたま會澤組を調べてたら出てきただけだ。珍しいなと思ってな。Hestiaだって、ゼウスが出資してる」
「まぁ…いいけど」
「頑固だからねぇ、この男は」
それ以上は追求してこなかった。
引いてくれたようだ。
「…無駄にしたくないんだ。全部これで終わりにしたい」
「…それは俺も潤も一緒だよ」
「でもさ、俺らさ、終わったら、なにする?」
そう言われたら確かに。
「…俺きっと公務員辞めると思うよ。多分」
「俺は相変わらず定年までやるだろうな」
「俺は…」
俺は…。
何するんだろう。
あぁ、手が止まってる。
そう思ってキーボードを打とうとしたら手が震えていた。ここのところ毎日だ。
仕方なくタバコに火をつけた。味がしないタバコは随分時間が掛かった。
それからは雑談をして部署に向かった。着いて各自解散。二人はそれぞれ帰宅した。
俺は部署に戻り、ひとまずまとめて気が付いたら一度突っ伏して眠ってしまっていた。
手を噛んでパソコンに向かうも、全然頭が回らない。
帰ろうにもそれすら面倒だし、なにより焦りがあった。
しかし、思い直して一度家に戻り、シャワーを浴びて着替えの準備をして今度は自宅のパソコンに向かう。
あとはひたすら、今日の盗聴器のデータを再生し、考える。
気が付けば夜は明けていた。今から寝ては多分起きられない。
そのまま寝ずに出勤。早めに行って一人パソコンに向かっていた。
そのうち政宗が出勤してくる。
「おはよう」
「…ん」
そんな時間かと思ってみれば9時。随分お早い出勤だ。
「お前、大丈夫か?」
「あ?うん…いま話掛けないで」
時間がない。
しかしそれでいて時間がある。
余裕がないのだ。
イライラしながら一度気分を変えに、部署を出た。
パソコンに向かった。潤が後ろで、「悪かったよ」と渋々謝った。
まるで子供みたいだ。
「わかったよ姫」
「ねぇ、前から聞こうと思ってたんだけど、その姫ってなんなの?」
「お前すげぇワガママじゃん」
「…なるほどね」
納得するんだ。てか、だったら俺の王子はなんなんだ。
「じゃぁ王子は?」
「うーん、ピッタリじゃん」
「は?」
「全然わかんない、勘弁してよ」
「高田さんは納得したよ」
確かにあの人もたまに潤のことを姫って言うな。
「あぁ、よくこいつのこと王子って言うわ。ホテルの時、王子連れてけって言われて、久しぶり過ぎて誰だかわかんなかったもん」
あぁ、そう言えばそんな会話してたな。
「こいつが出てきた時ガッカリしたよ」
「すっげぇ嫌そうだったな確かに」
そんな話をしていれば、件の高田から電話がかかってきた。
通話にしてから肩と耳にケータイを挟み、パソコンを打ち込み続ける。
「はい、スミダ!」
『元気だなぁ。どうだった』
「ちっといま報告書作ってるんですが。肩痛ぇんですけど」
隣では、「器用だなぁ」と、後ろでは、「気持ち悪くなんねぇの?」と声が聞こえる。俺は聖徳太子じゃないっつーの。
『あ、荒川と姫がいるね。仲良くやってそうで何よりだ』
出た姫。
「上司に気に入られると損だね」
「まったくだ。しかしこーゆースキルがつくんだな」
「いらねー」
「ちょっと二人うるさい!
で?なんっすか」
『いや、5課の…』
「あ、あぁ…」
確かにここでしていい話ではないな。
『…まぁそうだな。
気が変わった。早急に會澤組を潰してくれ』
「は?」
またまた無茶ぶりを…。
「え、だって、まだ」
『ちょっと状況が変わった。逮捕するだけの証拠掴めたら即ガサ入れから逮捕』
「えぇぇ…」
んなこと言ったら今すぐ逮捕だけど、こっちとしてはもうちょい掴みたいんだけど。
「こっちとしてはもうちょい掴みたいんだけど」
『こっちは早く會澤組を潰して欲しい、以上』
「はぁぁ!?」
ぶちっと電話が切れた。
「え?なに?」
「…なんでもない」
話すわけにはいかない。
「そのわりに不服そうだな」
「…政宗、」
ここで手を引いてしまっては…。
明日にでもガサ入れしたとしたら多分、大して何も得ずに今日の捜査も、意味もなく終わってしまう。
「流星?」
「…ちょっと重くなってもいいですか?仕事」
「…充分重いけど聞いてやろうか」
「証券会社ゼウス。こちらを調べてください。ただ…相手は結構強者です。
多分、ここを叩いたら埃しか出てこない。その埃がまた…」
「ゴキブリレベルってか」
「そうですね」
「いいだろう。バルサン炊いてやる」
「ここは、龍ヶ崎と手を組んでるのは間違いないんですが…。
予想ですが、どうも相手方はこちらの動向に詳しいんですよ。なんで…龍ヶ崎から手を引こうとしているんじゃないかと思うんです」
「つまり?」
「龍ヶ崎、會澤組を突き詰められてないからまだモヤモヤしていますが、ここがエレボスと繋がっていたとします。そこから手を引く可能性としては、會澤組が検挙されると自分達にも被害が来る。どういう面で?という話なんです」
ゼウスの取引先もまだモヤが掛かっているが、ここは他にもエレボスの糸口がありそうだ。
「まぁ自分らが単純に捕まるからか、もしくわエレボスの糸口があるとバレるからか…だったら早々に切っちまった方がいいわな」
「調べてみないことにはわかりませんが多分、他にもゼウスはエレボスと繋がっていそうな気がするんですよ」
「お前さ、」
政宗は諭すような口調で言う。
「やっぱりなんか、首つっこんだな」
「しかも黙ってな」
なかなか誤魔化せないな、この二人は。
しかしまだ、言えない。
「いや、ちょっとです」
「嘘だね」
「詳しすぎるよね。高田さんに言われた?」
「違うよ。
たまたま會澤組を調べてたら出てきただけだ。珍しいなと思ってな。Hestiaだって、ゼウスが出資してる」
「まぁ…いいけど」
「頑固だからねぇ、この男は」
それ以上は追求してこなかった。
引いてくれたようだ。
「…無駄にしたくないんだ。全部これで終わりにしたい」
「…それは俺も潤も一緒だよ」
「でもさ、俺らさ、終わったら、なにする?」
そう言われたら確かに。
「…俺きっと公務員辞めると思うよ。多分」
「俺は相変わらず定年までやるだろうな」
「俺は…」
俺は…。
何するんだろう。
あぁ、手が止まってる。
そう思ってキーボードを打とうとしたら手が震えていた。ここのところ毎日だ。
仕方なくタバコに火をつけた。味がしないタバコは随分時間が掛かった。
それからは雑談をして部署に向かった。着いて各自解散。二人はそれぞれ帰宅した。
俺は部署に戻り、ひとまずまとめて気が付いたら一度突っ伏して眠ってしまっていた。
手を噛んでパソコンに向かうも、全然頭が回らない。
帰ろうにもそれすら面倒だし、なにより焦りがあった。
しかし、思い直して一度家に戻り、シャワーを浴びて着替えの準備をして今度は自宅のパソコンに向かう。
あとはひたすら、今日の盗聴器のデータを再生し、考える。
気が付けば夜は明けていた。今から寝ては多分起きられない。
そのまま寝ずに出勤。早めに行って一人パソコンに向かっていた。
そのうち政宗が出勤してくる。
「おはよう」
「…ん」
そんな時間かと思ってみれば9時。随分お早い出勤だ。
「お前、大丈夫か?」
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しかしそれでいて時間がある。
余裕がないのだ。
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