ノスタルジック・エゴイスト

二色燕𠀋

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Past episode four

12

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 潤も流星も出勤した。

 なんとなく、お互い隣に座っていて暗い雰囲気なのは感じ取った。
 どちらともなく落ち着かなくて、「なぁ」と声を掛けては黙りこんで。

「…何だよ」
「いや、」
「…葬式みてぇな空気」

 お互い早めに出勤したくせに、仕事をなかなかする気にはなれなくて。
 どちらも無言でいるうちにいたたまれなくなり、流星がタバコを吸いに行こうとした時だった。
 丁度、政宗が出勤してきた。顔を見て早々、「いたか」と、青白い顔で言ってくるから。

 何かがあったのだと、それだけで伝わってきた。

「…おはようございます」
「おぅ…お前らだけか、来てんの」
「はい」
「…まぁいい。
 昨日のことだけど」
「あぁ、はい」
「え、なにどうしたの?」
「お前ら、あれからなにか知らない?」

 そう言われて、答えるべきか、渋る雰囲気が流れる。それは露骨すぎるもので。

「何かあったかお前ら」
「いや、樹実が…」
「樹実さん、なんかあったの?」

 そこでまた妙な雰囲気が流れた。
 お互い、それぞれの事情を知らないのだ。

「樹実が…帰ってこねぇんだよ、あれから」
「え…マジ?
 ちょっと待って、俺も…雨さんが」
「え?」
「一緒に帰って来て、朝起きたら、置き手紙と家の鍵が置いてあって…」
「なにそれ…」
「ちょっと待った、お前らそれ、昨日ってことか?」
「うん」
「政宗は?」

 政宗はひとつ重い溜め息を吐いて、それから言いにくそうに言った。

「…昨日、陸帰ってきてねぇだろ?」
「え、うん」
「あれはだって」
「怪文書が届いてな。まぁ、警察や政府の内部組織の、結構えぐい、けどわりとガチなネタが克明に記されたもんでな。その中にウチの情報もあった。
 現在の捜査状況やらなんやら、もう嘘偽りなく丸々記した紙だった。それが、発見されたんだが…。
 昨日踏み込んだ宗教組織の、教祖が使ってるデスクの中だった。
 確かにやつらは、エレボスはここ最近、俺たちを、まるで見張っているかのように先回りして捜査の手を逃れ俺たちを威嚇し、結局俺たちは何も得られないまま終わってきていた。
 ところが昨日は打って変わって、どちらも踏み込みに成功したよな?」
「はい…」
「お前ら、昨日踏み込んだとき陸をどうした?」
「…人も殺せなかったので、辞めちまえって渇入れて置いてきましたけど、わりと初期に」
「だよな?俺もそれは無線で聞いていた。
 それからどうした?」 
「は?」

 そう言えば、帰りも別に拾って帰ったわけではない。

「え、あんたが送ってったとかじゃなかったの?」
「つまり、帰りにはいなかったのか…」
「は?」
「いや、もったえぶって悪かった。これな」

 そう言って政宗は、書類の束を渡してきた。

 陸はどうやら殺害されたようだった。
 その内容が現場写真と共に、鮮明に記されていた。

「えっ」
「何…これ」
「死亡推定時刻は午後17時から20時くらい…と、少しブレがあるんだが、あのあと現場検証で違う課が入った際に発見されたそうだ。
 なんでも、ご丁寧に講堂の棺の中にあったそうだ」
「は、」
「そこでまず俺たちに嫌疑が掛けられたわけだが、それがどうも不鮮明でな。なんでかなと思っていたんだが、樹実と…熱海さんが帰らないと今聞いて少し、胸騒ぎがする」
「…なるほど」
「それって」
「無事なら良いが…」

 そんな不穏な空気が流れている最中だった。

「…おはよう、お前ら、」

 銀河が出勤。朝に似つかわしくない、不安そうな表情だ。そして、銀河が引き連れるようにして後ろから現れた人物は。

「揃ったのか?これで」

 知らない人物。
 歳は40代くらいの、グレーのスーツを来た背が低めの、なんだかひょろっとした人物。しかし、そんな小物っぽさとは非対称的に、襟元の『FBI』のバッチが威厳を醸し出していた。

「あんたは?」

 銀河以外が、なんとなく警戒心のようなものをその男に向ける。だがその男は、そんなことには微動だにしなかった。

「まぁ、初めましてだよね。聞き覚えない?俺の声」
「誰おっさん?」
「…ここはあんたのような、最早よくわかんないくらいにお偉い方が来るような場所じゃぁ」
「荒川政宗、だろう?君には一番世話になってるだろうねウチの部下が」
「は?」
「申し遅れた。ここのボスのボス、FBI日本支部の高田たかだ創太そうただ」
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