ノスタルジック・エゴイスト

二色燕𠀋

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The 10th episode

9

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 一流ホテルレストランの13階くらいについたとき、正直、正気の沙汰ではないだろうと思った。

 第一気が気ではない。こんなところに得たいの知れない初めて会うようなヤツを連れ込もうだなんて。
 そして何より相手は、こちらも確かに遅れると一報は入れたがそれでも遅れてくるだなんて。

 これは完全に今日はカスったな。そう思い、帰ろうかと思って潤が席を立った時だった。

「君かい?日谷ひのやくんは…」

 ホテルマンに案内されて、なんとなくそれっぽい雰囲気(警視庁長官)の、男がニタニタと笑って悪びれもなく現れた。

 白っぽいグレーのスーツに凄く薄い水色のチェックシャツ、赤と黄色のストライプネクタイなのが凄く変態っぽい。加えて銀縁眼鏡。絶対曲者だ。
 これは勝手な潤の偏見だがネクタイの色が派手な奴は大体変態だ。

 しかしなんだか細身でどこか不健康そう。シャツにシワすらないからか、かなり神経質そうに見える。はっきり言って潤にはやりにくいタイプだ。

「はい、すみませんこちらの都合で。日谷ひのやじゅんと申します」
「いやいや、私の方が遅れてしまって。待たせてしまったね」
「いえ、今来たんで」

 ホントのところ気が短いし、加えて遅刻されるのが何より嫌いだと言うのに20分は待った。お陰で酔いは嫌でも冷めた。

 なのに俺はどうしてこんな誰だかよく分からない、多分隠れ変態だろうお偉いさんに中くらいの笑顔で中くらいの頭の下げ方をしているの?大人になったの俺。

 と少し不服ではあったが今は我慢。それがどうやらじわじわと項を成してきているようで狙い通り、隠れ変態(速見秀次郎)は、感心したのかなんなのか、潤を凝視して「ほぅ…」と漏らした。

 なんだよほぅて。今時居るかよ江戸かよと潤が内心意味のわからないツッコミをしているのは恐らく、先程まで流星と調子こいて酒を飲みまくっていたせいだろう。
 なんだかんだで完全にはアルコールが抜けていないようだ。空き時間をあの鉄面皮と過ごそうとしたのが間違いだった。

「まぁ、座ってください、遠慮せず…」
「あぁ、はい」

 なんだか凄く嬉しそうに椅子を促されてしまっては、速見を待つことなく潤は会釈をして「失礼します」と取り敢えず仄かな笑みを向け、ジャケットを掛けようとすると、手を出された。

 うわぁそう言うの職業柄メチャクチャ嫌なんですけどつーかお前マジメにその筋マナーがなってないねと潤はイラっとしたが、控えめな笑顔で

「大丈夫です。どうぞお掛けになってください」

と、相手に着席を促した。

 不思議そうな顔をして速見は向かい側の席に座った。上官安定の指組み頬杖ポーズで潤を見つめ、やっぱりニタニタと笑っている。

「いやぁ、なんというか君…お上品だねぇ」

 まぁな。
 元はてめぇなんかより遥かにお偉すぎてちょっと立ち眩みするくらいの官僚の息子だからな、染み付いちゃったもんは離れないんだよ。

 速見はそれからテキトーに料理と、多分ワインをオーダーした。

 やべぇなこれ以上飲んだら俺アル中で倒れるんじゃねぇの?
 とか頭の隅で思いながらも、取り敢えず笑顔を絶やさないでおいた。

「あ、申し遅れました。警視庁長官の速見秀次郎です」
「改めまして、日谷純と申します。今回友人の横山から話を聞き及びましてこちらに伺いました。普段は、大使館で働いております」
「大使館?」
「はい。俺、元FBIなんですよー」
「それはそれは…」

 3割?4割くらいは嘘じゃないだろう。

「若いのに優秀ですね」
「気に入って頂けました?
 速見さん、気に入らないと雇ってくれないって聞いたんで」

 はい、ここで見せる上級スマイル。

「いやぁ、今のところ君が一番いいね…」

 はい、来た。って…。
 ん?

「あら、そう言っていただけると幸い…」

 それはどういった意味だろうか果たして。

「やっぱりその…貴方のSPともなるとそれなりの方が名乗りをあげるのでは?」

 これは斬り込むしかない。

「それがさぁなんかデスクワークしかやったことがないノンキャリアと、出世にしか興味がないよくわからない、現場にすら行ったことないようなヤツしか来なかったんだよ」

 当たった、よかった、そういう意味で。

「まぁ、速見さん専属のSPなんてきっとステータスなんでしょ」
「君、正直って言われない?」
「まぁ、不思議と…」

 速見が頼んだワインと、なんだかわからない、取り敢えず凄く高そうな量が少ない、最早これは料理というより食材だろうという物が運ばれてきた。

 ちゃんと冷やされたワインを明け、グラスにほんのちょっとだけ注ぎ、乾杯する。
 もうこいつの感性とか感覚がわからない。
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