ノスタルジック・エゴイスト

二色燕𠀋

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The 12nd episode

9

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 一人になってふと、伊緒が寝ているのが目についた。

やっぱお前、こっちのが伸び伸びしてるじゃねぇかよ。自分が情けないねぇ。

 そう思って俺が伊緒の顔を覗き込む。
 何故かその瞬間に伊緒が噎せたので取り敢えず胸を撫でる。

何?俺アレルギー?ごめんなさいなんだけど。

そういえば未だこいつの寝顔とか見たことないや。

 とかぼんやり考えてたら起こしてしまったらしく、「流星さん?」と、少し苦しそうに言われた。

「はい、すみません」
「…は?」
「いや、なんか俺アレルギーのようでしたので」

 俺を無視して伊緒はまた目を閉じてしまった。この頃こいつ、本性を出してきやがったな。
 立ち上がり戻ろうとすると、急に左手を取られた。何この子。

 しかし伊緒は、人の左手をただ握っただけで、健やかな寝息を立ててしまった。
 なんだろう、全然心理がわかってやれない。ただまぁ、こんなんで健やかに眠ってくれるなら、手くらい貸してやろうとしばらくそのまま側にいた。
 伊緒の力が弱まり手を引き抜いて立ち上がろうとしたとき、政宗が唖然として俺を見ていた。

「…ついに酔ったか」

 黙って立ち上がり、ソファに戻る。隣に裸族の政宗がボスっと座り、そして麦茶を目の前に置かれた。

「どうしたの急に」
「寝てる姿初めて見た」
「あぁそう。かぁいいよなぁ」
「気色悪いっすねゴリラ」
「人の寝顔って可愛くない?」
「気色悪いっすね、あんた」
「んだよ」
「てかコーヒー飲みたい」
「我慢しろ。ない」
「嘘だよあるよ多分」
「あるけどない。いまはダメ」
「はいはい。飲む?」
「うん」

 仕方なく自分でコーヒーを準備しようと立とうとしたら、「わかったよ」と言い、政宗に手で制された。

最初からそうしてくれ。

 麦茶ももらった。インスタントコーヒーの香りがして、無償にタバコが吸いたくなって咥える。
 俺の100円ライターのオイルがなかった。仕方なく、案外きっちり置かれていた隣の、マルボロの箱の上に置いてあったライターを拝借。

 よく見りゃ、ラブホテルのライターだった。

クソ野郎、一体どこのアバズレと行きやがるんだ。今更いるのかセフレや恋人なんぞ。それともそういった店か。

 わざわざ店名が見えるように戻しておく。
 味が肺に染みる。というか一口目を浅く吸ってしまったせいで噎せた。

「え、大丈夫?労咳ろうがい?」

今時それ言わないよアホかよ。

 無機質に俺の前に置かれたマグカップに、なんかかわいらしー猫の絵がプリントされていて再び噎せてしまった。似合わなすぎる。

「流星?」
「かっ、ちょっ、」

二口分のタバコをどうか返して欲しい。

「はいはい」

 なのになんか、俺がこうなってしまった諸悪の根元である政宗に背中を擦られる。

何この構図。苦し紛れに政宗の横腹を殴った。案外頑丈だ、流石ゴリラ。

「なんだよ可愛いな」
「やめれ、死ぬいい加減っ。どこからツッコむべきだバカ!」
「うわ、それ可愛くない」
「まずライター、次にカップ。二口分のタバコ返せやクソゴリラ!」

 俺の恨み言を聞き流し、政宗は悠々とタバコを吸って楽しそうに人のことを眺めている。なんだこの無駄な大人の余裕感。

「お前ってそーゆーとこあるよな」
「あぁ!?」
「あら怖い。残念ながら恋人じゃないのよー。そのカップは伊緒りんの、ライターはワンナイトでーす」
「はぁ、そうですか。伊緒りんの勝手に使っていいの?つかこんなんかよ」
「大丈夫っしょ。猫好きなんだってさ」
「へぇー」

知らんかったわ素直に。

「ワンナイトはなぁ、ついこの前、日本支部で会った何歳だっけな、22とかほざいた女の子。ありえないよなぁ。
 まぁ多分お前と同い年くらいだよ。なぁんかやけにぐいぐいくるからさぁ」
「いや聞いてねぇし」
「一緒にちょろっと潜入捜査したよ」
「はぁ、もしかしてちょっと背が低めの英国大使館で働いてる」
「ん?知り合い」

 溜め息が出た。
そいつには俺は散々、覚えがあった。

「…潜入捜査した後、致しちゃった?」
「言い方。
 まぁだってあんなね、その…積極的でしたらね、俺がいくらお前の7個上とはいえ現役ですからねまだまだ」
「あー、財布見た?多分3万抜かれてね?」
「は?」
「ちなみに潤は2万だったってさ」
「は?え?ついていけない」
「その女ねぇ…」

こーゆうのは極上の笑顔で伝えて差し上げよう。
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