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The 18th episode
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地下から歩いて1階の出口、ここが塞がっている、というか燃えている。
あたりには煙とガソリンの匂いがして。
そんな陳腐な方法、却って思い付かないわ。何目的だよと見てみれば、白衣を着た40代くらいの男が途方にくれ、諒斗に銃を向けていた。ポリタンクが足元にある。多分、頭から濡れてるし、こいつの犯行だろうが。
「てめえっ!」
諒斗の声。
マトリーズと諒斗がそいつと対峙しているがどうも、諒斗もびしゃびしゃだ。
「あれなに」
潤が唖然としたように言った。
それは俺が聞きたい。
なんだこのカオス的状況。
「お前ら公安がここをぶっ壊したんだろ」
響き渡る低い声。多分あの男だろう。
どうやら誰も、この興奮のなか俺たちに気付いていないらしいが、
「あんた、それでも医者かおい!」
びしゃびしゃな諒斗が吠える。というか拳銃を向けているが。
「…あいつはアホか」
恐らくお前、ガソリン吹っ掛けられたんじゃないの?それ。
「早坂、やめろ」
「燃えるぞバカ」
そんな諒斗を捕らえているマトリーズ辻井と吉川。
「なんだかなぁ…」
頭が痛くなるわ、アホ3人。
「諒斗…」
ポツリと瞬が呟く。
「どーすんのぶちょー」
「…瞬、裏口」
はどこだ、と聞こうと振り向けば、スライドを引く音。
下に構え、向かおうとする瞬に、「バカかお前、」と制する。
「ですが、」
「裏口はどこだって」
「どの道ここにずっといたら俺一酸化炭素が腹から滲み出て死んじゃうんですけど」
呆れたように言い、それから「仕方ないねぇ」と潤は歩き出した。
えっ、なにそれ。
「わりとあーゆー自殺願望系テロリスト、俺扱い慣れてんだよぶちょー」
「はっ!?」
「瞬ちゃん、背後よろしく。ぶちょー、まぁ見てなさいよ。逃げ口なんて、あいつから聞けばいいよ」
漸く医者野郎がこちらに気付いたらしい。ふと潤が笑ったのが見える。
「お仲間登場だーい。諒斗、銃下げな」
マガジンが落ち、ゆったりと替えのマガジンを込め、潤は諒斗の方に銃口を向けて歩いていて行く。
「潤さ」
「余所見すんなよこのチビ」
唖然とした諒斗は肩の力を抜いたらしい。マトリーズ吉川が諒斗に銃を下げさせた。犯人の銃口はそれから潤に向く。
なにこれ、見守ってろって?
瞬が息を呑んだのがわかった。
あぁそうね。まだ俺の部下いたわ。
「お前、潤の援護しろ。交渉は潤に任せよう」
「え?」
「あいつは撃たない。
だが潤は背後が甘い、お前に任せた。あの無能二人とアホ一匹逃がす頭で俺は行こう。お前まず一発撃てちゃう状況なの覚えとけよな。暴発させんなよ。
おいどうしたてめえら、何してんだよこのアホ!マトリーズと諒斗、一歩下がれ!」
声を掛ける。漸く後ろにいた瞬も歩き出す。
潤は俺の声を聞き、瞬時に銃口を医者野郎に向けた。
俺はまず3人に、「なんだこの様は」と問う。
「…一棟の職員を逃がす作業をしていたら、その中にあの人が…。急にあれ持って戻ってきて…」
「あれは一般人だな?一度外に逃がした、というわけか」
「いや、建物内にいました」
どうやらマトリーズ二人は訳がわかっていないようだ。
「どうなんだ諒斗」
「後ろからぶん投げるようにガソリンを撒き始めて掛かりました。俺はどちらかと言えば外にいたので。振り向いたらあいつあんだけびしょびょでタンク持ってたから、やべえと思って取り抑えようと中に入ったらライターで…」
「マトリーズは何をしてた」
「中から誘導です」
「のわりにびしゃびしゃじゃねぇのな」
「俺が取り抑えるのをやめさせたので」
なるほど。
「お前にしては良い判断だな。
何故あいつを逃がしたかはもういい。まず諒斗は撃つな、燃える。
吉川くん、今は君が諒斗の銃を持ってる。射撃技術が問われるな」
「あの、あの人は、」
辻井が潤を見て言う。どうやら狼狽えているらしい
「交渉人だ、ああ見えて。
お前ら窓から逃げる覚悟で行けよ」
俺がそう宥めれば、漸く肩の力を抜いたのがわかった。
「なんだあんたは」
「通りすがりの公安だよ」
低い声だ。わりとさっきので潤は堪えているだろう。声を張るのも辛そうだが、話し方はやはり飄々としていて胡散臭い。
「なんでこんなことしたの」
ふと潤はタバコを咥えた火をつけた。そして銃を下げる。
「はぁ?」
「あんた犯罪者だけど一般市民だからね。こっちには生かして逮捕する義務がある」
「はぁ、」
「その前に鬱憤くらい聞いてやるよ。死にたきゃ飛び込めば?多分、あんた騙されてるだろうから一つくらい聞いてやろうかと思ったんだけど」
「騙されてるってなんだよ」
「誰にんなポリタンクなんて頂いたのこんな時期に。あんた、最初から死ぬ気ないだろ。
これやれば逃がしてやるとでも言われたか?例えば、『研究データとサンプルは俺が帝都に持ち帰る。お前は証拠を消してこい』とかな。若林という新任かな?」
「…なんだ、お前」
「その若林は麻薬取締部の潜入捜査員だよ、あんた、ここで死んだら犬死にだよ」
「お前、何を知ってる」
「帝都も残念ながら今やテロ勃発中だ。まぁ恐らくあんた、逃げ帰ったところで殺されるのがオチだ。俺たちはここにいた麻薬取締部副部長の里中栄を助けに来たが、その人は見事にテロ集団に染まっちまってた。
来てみりゃこの様だ。あんたは何を誰に言われてこれやってるか読めないが、やつらからしたら恐らくあんたはモブだ」
「里中と若林が、麻薬取締部?」
「やっぱ知らないんだ。いまや若林は帝都に逃げテロ荷担疑惑だがな」
「なんだと…」
「どうやら里中か若林に吹っ掛けられたようだな。残念ながらあんたの研究成果なんざ今や紙屑だ。生きて帰ったところであんたはいた記録すら残らないだろうな、お医者様。ここ最近の新薬研究なんて、麻薬取締部がマークしている事案だったんだよ。
大学全体の犯行だろうなぁ」
「そうか」
医者はオートマチックのスライドを引いた。潤はそれでも銃を上げない。
あたりには煙とガソリンの匂いがして。
そんな陳腐な方法、却って思い付かないわ。何目的だよと見てみれば、白衣を着た40代くらいの男が途方にくれ、諒斗に銃を向けていた。ポリタンクが足元にある。多分、頭から濡れてるし、こいつの犯行だろうが。
「てめえっ!」
諒斗の声。
マトリーズと諒斗がそいつと対峙しているがどうも、諒斗もびしゃびしゃだ。
「あれなに」
潤が唖然としたように言った。
それは俺が聞きたい。
なんだこのカオス的状況。
「お前ら公安がここをぶっ壊したんだろ」
響き渡る低い声。多分あの男だろう。
どうやら誰も、この興奮のなか俺たちに気付いていないらしいが、
「あんた、それでも医者かおい!」
びしゃびしゃな諒斗が吠える。というか拳銃を向けているが。
「…あいつはアホか」
恐らくお前、ガソリン吹っ掛けられたんじゃないの?それ。
「早坂、やめろ」
「燃えるぞバカ」
そんな諒斗を捕らえているマトリーズ辻井と吉川。
「なんだかなぁ…」
頭が痛くなるわ、アホ3人。
「諒斗…」
ポツリと瞬が呟く。
「どーすんのぶちょー」
「…瞬、裏口」
はどこだ、と聞こうと振り向けば、スライドを引く音。
下に構え、向かおうとする瞬に、「バカかお前、」と制する。
「ですが、」
「裏口はどこだって」
「どの道ここにずっといたら俺一酸化炭素が腹から滲み出て死んじゃうんですけど」
呆れたように言い、それから「仕方ないねぇ」と潤は歩き出した。
えっ、なにそれ。
「わりとあーゆー自殺願望系テロリスト、俺扱い慣れてんだよぶちょー」
「はっ!?」
「瞬ちゃん、背後よろしく。ぶちょー、まぁ見てなさいよ。逃げ口なんて、あいつから聞けばいいよ」
漸く医者野郎がこちらに気付いたらしい。ふと潤が笑ったのが見える。
「お仲間登場だーい。諒斗、銃下げな」
マガジンが落ち、ゆったりと替えのマガジンを込め、潤は諒斗の方に銃口を向けて歩いていて行く。
「潤さ」
「余所見すんなよこのチビ」
唖然とした諒斗は肩の力を抜いたらしい。マトリーズ吉川が諒斗に銃を下げさせた。犯人の銃口はそれから潤に向く。
なにこれ、見守ってろって?
瞬が息を呑んだのがわかった。
あぁそうね。まだ俺の部下いたわ。
「お前、潤の援護しろ。交渉は潤に任せよう」
「え?」
「あいつは撃たない。
だが潤は背後が甘い、お前に任せた。あの無能二人とアホ一匹逃がす頭で俺は行こう。お前まず一発撃てちゃう状況なの覚えとけよな。暴発させんなよ。
おいどうしたてめえら、何してんだよこのアホ!マトリーズと諒斗、一歩下がれ!」
声を掛ける。漸く後ろにいた瞬も歩き出す。
潤は俺の声を聞き、瞬時に銃口を医者野郎に向けた。
俺はまず3人に、「なんだこの様は」と問う。
「…一棟の職員を逃がす作業をしていたら、その中にあの人が…。急にあれ持って戻ってきて…」
「あれは一般人だな?一度外に逃がした、というわけか」
「いや、建物内にいました」
どうやらマトリーズ二人は訳がわかっていないようだ。
「どうなんだ諒斗」
「後ろからぶん投げるようにガソリンを撒き始めて掛かりました。俺はどちらかと言えば外にいたので。振り向いたらあいつあんだけびしょびょでタンク持ってたから、やべえと思って取り抑えようと中に入ったらライターで…」
「マトリーズは何をしてた」
「中から誘導です」
「のわりにびしゃびしゃじゃねぇのな」
「俺が取り抑えるのをやめさせたので」
なるほど。
「お前にしては良い判断だな。
何故あいつを逃がしたかはもういい。まず諒斗は撃つな、燃える。
吉川くん、今は君が諒斗の銃を持ってる。射撃技術が問われるな」
「あの、あの人は、」
辻井が潤を見て言う。どうやら狼狽えているらしい
「交渉人だ、ああ見えて。
お前ら窓から逃げる覚悟で行けよ」
俺がそう宥めれば、漸く肩の力を抜いたのがわかった。
「なんだあんたは」
「通りすがりの公安だよ」
低い声だ。わりとさっきので潤は堪えているだろう。声を張るのも辛そうだが、話し方はやはり飄々としていて胡散臭い。
「なんでこんなことしたの」
ふと潤はタバコを咥えた火をつけた。そして銃を下げる。
「はぁ?」
「あんた犯罪者だけど一般市民だからね。こっちには生かして逮捕する義務がある」
「はぁ、」
「その前に鬱憤くらい聞いてやるよ。死にたきゃ飛び込めば?多分、あんた騙されてるだろうから一つくらい聞いてやろうかと思ったんだけど」
「騙されてるってなんだよ」
「誰にんなポリタンクなんて頂いたのこんな時期に。あんた、最初から死ぬ気ないだろ。
これやれば逃がしてやるとでも言われたか?例えば、『研究データとサンプルは俺が帝都に持ち帰る。お前は証拠を消してこい』とかな。若林という新任かな?」
「…なんだ、お前」
「その若林は麻薬取締部の潜入捜査員だよ、あんた、ここで死んだら犬死にだよ」
「お前、何を知ってる」
「帝都も残念ながら今やテロ勃発中だ。まぁ恐らくあんた、逃げ帰ったところで殺されるのがオチだ。俺たちはここにいた麻薬取締部副部長の里中栄を助けに来たが、その人は見事にテロ集団に染まっちまってた。
来てみりゃこの様だ。あんたは何を誰に言われてこれやってるか読めないが、やつらからしたら恐らくあんたはモブだ」
「里中と若林が、麻薬取締部?」
「やっぱ知らないんだ。いまや若林は帝都に逃げテロ荷担疑惑だがな」
「なんだと…」
「どうやら里中か若林に吹っ掛けられたようだな。残念ながらあんたの研究成果なんざ今や紙屑だ。生きて帰ったところであんたはいた記録すら残らないだろうな、お医者様。ここ最近の新薬研究なんて、麻薬取締部がマークしている事案だったんだよ。
大学全体の犯行だろうなぁ」
「そうか」
医者はオートマチックのスライドを引いた。潤はそれでも銃を上げない。
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