ノスタルジック・エゴイスト

二色燕𠀋

文字の大きさ
238 / 376
The 18th episode

4

しおりを挟む
「射殺どころか手榴弾でぶっ殺してやるからな。いいか、その学者、死んだとなったら…二度目はないからな、諒斗」

 そう言うと。
 どうやらあの、自殺した学者を思い出したようで。

「…若輩者の同僚のケツはてめえに任せた」

恭太を、思い出す。

「…はい、すんません。
 着替えたらそっち行っていいっすか」
「好きにしろ。それはちゃんと吉川を信頼してからだな、お前が」
「はい」

 交渉成立。 

「潤」

 正直。
 潤がいなければこの事態の終息、俺に出来たんだろうか。だが一言言いたい。

「なんだ、悪かっ」
「ぶっ殺すぞてめえ」

無茶苦茶やりやがって。

 潤はふと笑い、「うるせぇよ単細胞」と憎まれ口を叩いた。

「辻井くん。
 互いに気持ちは同じだ。わかるか?」
「はぁ」
「だから俺は君にあいつらを託さない。君は部長に会うべきだ」
「…なるほどね」
「わかったらついて来い」

 それしかいまの俺には言えない。

「…人質ってやつっすね」
「そうだ」

 なんと言われようが、君らはまだ若い。しかしならば、現場に向かうべきだ。
 上司、同僚の裏切りの果ては目に見える。一度その道を通ればどんな結末を迎えるか、俺は…。

「あんた冷たいな」

多分、そうだ。

「いや、流星はクソほどつまんないくらいにお人好しだよ」

 潤がそういえば辻井くんは黙った。
まだ、まだだ。

『俺がフィリピン土産であげたんだよ。デカくて持ちにくいから知人にあげたって言ってたけど』
『じゃぁ君に託そうか。樹実のことは』

 結局。

『恐らくは…彼の狂気はどこからだったんだろうな、いま思うと。俺には多分、見えてこないんだよ壽美田くん。だから君が交渉役だ。現場監督は荒川くんに任せた。白澤しらさわくんは指揮を取れ。星川くんも、熱海あたみの話を聞いてきなさい』

 何もまだ見えていない。
 辻井をちらっと見る。
 あの、悲劇がそこに浮かぶようで。

「辻井くん」
「…なんすか」
「…俺も昔、仲間を死なせた。あれから何も見えてない」
「…は、」

 動揺していた。
 俺が何を言いたいかわかる日は、君には来るべきではないと信じたい。

「俺だって、仲間の死は、そりゃぁ…」
「その先が出口です」

 学者が言って話は途切れた。
 階段の突き当たり。地下の黒煙がここにも登っているのが見える。

「通る際には息を止めろよ~、慣れててもキツいからな」

 潤のふざけ口調が聞こえる。
確かに、そうだな。

「多分、見えなければ連鎖は止まらないんだよ、辻井くん」
「…流星、悪いけどお前、そのドア開けて。俺多分無理だ」

 後ろから潤が言った。
 振り向けば、冷や汗なのかなんなのか。だが潤が俺を睨む目付きは、昔のままだ。

「そうだな、お前の傷が開くなこれ。
 その学者、瞬、抱えといてやれ」

 仕方なく肩を回して扉を回そうとするも、まずノブが回らない。

 仕方ない。銃で鍵をぶっ壊そうと思って掴んだのが、たまたまデザートイーグルで。

…胸クソ悪ぃな。

 一発撃って衝撃。肩に負荷がある。
慣れたが、やはりそれも胸クソ悪い。

 ノブを少し回して蹴っ飛ばした。あっさり開いて、俺は扉を押さえて全員外に出した。

 全員出たところで振り向いてみた。最早大学内は煙で見えない。
 漸く浴びた酸素に詰まる息はまだ、黒煙が逃げて、太陽があって。
 扉を閉めた。医者は俺の指示通り、潤ではなく瞬が抱えていて。

 潤がふと、「ぷはっ、」と、両膝に両手をついて息をした。全員、漸く日の目を見たような顔つきだった。

「全員酸素不足か?」

 ふざけた口調で聞いてみた。

「喋れてんなら問題ねぇか。潤、腹から煙出てんぞ」

 漸くタバコを取りだし、火をつける。

「てめえだよバカ!」

元気そうでなにより。

 裏口に、優秀なことに車が配置されていた。どうやらその車には見覚えがある。
 助手席に霞が乗っていた。
 後部座席が開き、伊緒が「流星さん!」と出てきた。
 運転席には原田部長。

「おまたせ」
「愛蘭さんから連絡があって、みんな連絡が取れないって、」
「あ、忘れてたな。電源オフってんだ」

 取り敢えずは原田さんの方へ行き事情を話す。
 要求は車一台、護送用。
 すぐに無線を飛ばしてくれた。

「…ご苦労様です」
「政宗一人が残ってるんですね」
「あぁ」
「こちらから一人は向かわせました。まぁ道すがら事情を話します。
 結果、里中氏は死亡しました」
「…な、」
共謀罪きょうぼうざいでパクろうかと思いましたが、敵方に目の前で」
「あいつ…」

 ふと、後ろを見返す。
 不服、というか悔しそうな辻井やら、恐縮した吉川。
 少し顔色が悪い潤に、びしゃびしゃな諒斗、同じくびしゃびしゃな容疑者を抱えた瞬。

俺にもあんたにも仲間はいる。

「…取り敢えず帝都までお願いします。道すがらちゃんとお話ししますが今は彼らを」
「…わかりました」

 帝都に向かう辻井と潤を手招きし、護送車が来るまで取り敢えずタバコを吸おうかと思ったが、近くに待機していたらしい。帝都に引っ張ったマトリの部下(確か上條)が運転していた。
 促せば学者を引っ張る瞬と、吉川と諒斗がその車へ向かった。

「流星さん」
「ん?」

 振り返り、瞬が言った。

「健闘を祈ります」
「ブレッグアレッグ」

 諒斗も便乗してそう言う。

「…ありがとう」

思わずにやけた。が、

「気持ち悪ぃな鉄面皮」
「うるせぇ」

 潤のいつも通りな軽口に、タバコを揉み消し、後部車両に乗り込んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

灰かぶりの姉

吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。 「今日からあなたのお父さんと妹だよ」 そう言われたあの日から…。 * * * 『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。 国枝 那月×野口 航平の過去編です。

月城副社長うっかり結婚する 〜仮面夫婦は背中で泣く〜

白亜凛
恋愛
佐藤弥衣 25歳 yayoi × 月城尊 29歳 takeru 母が亡くなり、失意の中現れた謎の御曹司 彼は、母が持っていた指輪を探しているという。 指輪を巡る秘密を探し、 私、弥衣は、愛のない結婚をしようと思います。

27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?

藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。 結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの? もう、みんな、うるさい! 私は私。好きに生きさせてよね。 この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。 彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。 私の人生に彩りをくれる、その人。 その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。 ⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。 ⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。

愛のかたち

凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。 ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は…… 情けない男の不器用な愛。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

黄金の魔族姫

風和ふわ
恋愛
「エレナ・フィンスターニス! お前との婚約を今ここで破棄する! そして今から僕の婚約者はこの現聖女のレイナ・リュミエミルだ!」 「エレナ様、婚約者と神の寵愛をもらっちゃってごめんね? 譲ってくれて本当にありがとう!」  とある出来事をきっかけに聖女の恩恵を受けれなくなったエレナは「罪人の元聖女」として婚約者の王太子にも婚約破棄され、処刑された──はずだった!  ──え!? どうして魔王が私を助けてくれるの!? しかも娘になれだって!?  これは、婚約破棄された元聖女が人外魔王(※実はとっても優しい)の娘になって、チートな治癒魔法を極めたり、地味で落ちこぼれと馬鹿にされていたはずの王太子(※実は超絶美形)と恋に落ちたりして、周りに愛されながら幸せになっていくお話です。  ──え? 婚約破棄を取り消したい? もう一度やり直そう? もう想い人がいるので無理です!   ※拙作「皆さん、紹介します。こちら私を溺愛するパパの“魔王”です!」のリメイク版。 ※表紙は自作ではありません。

初恋

藍沢咲良
青春
高校3年生。 制服が着られる最後の年に、私達は出会った。 思った通りにはなかなかできない。 もどかしいことばかり。 それでも、愛おしい日々。 ※素敵な表紙をポリン先生に描いて頂きました。ポリン先生の作品↓ https://www.comico.jp/articleList.nhn?titleNo=31039&f=a ※この作品は「小説家になろう」「エブリスタ」でも連載しています。 8/28公開分で完結となります。 最後まで御愛読頂けると嬉しいです。 ※エブリスタにてスター特典「初恋〜それから〜」「同窓会」を公開しております。「初恋」の続編です。

処理中です...