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The 20th episode
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「潤、どうした…」
血が流れる。皿が割れている。
「ちょっと、潤、」
その手を掴まれ我に返った。
「あ、ごめん、」
祥ちゃんを見てから皿を眺めれば「全くもう、」と言われ、一度血が出た指を、出しっぱなしにしていた水につけられ、根本を強く握られた。
そのまま「ちょっと待って」と祥ちゃんは言い、すぐに後ろの食器棚の引き出しから消毒液と大きな絆創膏を取りだし、消毒されて手の平に絆創膏を張られた。
「…すぐ風呂入るからいいよ」
「どうやったら掌を怪我するんだよ。不器用だなぁ、」
優しく笑って、俺は背を押されてソファに座らせられた。
向かいに祥ちゃんがしゃがみ俺の頭に手を伸ばす。反射的に目を瞑ったら優しく髪を撫でられて、再び目を開けた。
「ぼーっとしてたけど、大丈夫か」
「うん…」
「なんか嫌なこと思い出したんでしょ」
「いや、」
うん。
「嫌じゃないこと思い出した」
「そう」
「祥ちゃんごめん、皿割った」
「いいよそれは。はい、座ってて」
立ち際に抱きすくめられた。彼は一言俺に言う、「落ち着かないことがあったら言ってよ」と。
「メンタル不健康が一番恐ろしいよ潤」
「ん、はい」
温もりは去り、後のシンクに祥ちゃんは立つ。風呂場の湯の音がする。
「あ、俺やるよ祥ちゃん」
「ん、いいや。大丈夫だよ」
「ごめんなさい…」
「何、」
祥ちゃんはシンクから俺を見下ろして、ふと笑う。
「子供みたいな顔してるよ潤」
「え?」
「何、そんなに怯えないでよ。これくらい。
ただまぁじゃぁ…次はお風呂係り、潤かな」
「んー」
「ははっ。またクビになったね。まぁ俺、家事好きだからいいや」
「はぁい…」
なんだか悪いことしたけど。
ホントに祥ちゃん、別に気にしてなさそう。
「祥ちゃんは寛大だね」
「そーだね。潤には厳しくしなきゃいけないかな?」
「んー」
「でもさ、厳しくしたら潤ガチへこみするからね、そっちのケアのがめんどい」
「ひどいなぁ」
間があった。
がしゃがしゃ食器を処理する音がしてから、また祥ちゃんは隣に戻ってきて座り、タバコに火をつける。俺もそうした。
「嫌じゃないことって、何を思い出したの?」
「んー、昔の保護者との生活」
「そっか。
その頃から、君は変われた?」
「どうかなぁ」
変われてはいない。
変わったとすれば。
「劣化した」
「歳食った証拠だね」
「祥ちゃんは、どう?」
「ん?」
「昔と変わったの?」
「うん、断然。俺は進化したね」
「なにそれ」
「昔の俺はもっと世の中に批判的だった」
あぁ、確かにね。テロ紛いだもんね。
祥ちゃんは静かに笑う。
「あとはやっぱ、楽しくなった。世界がね」
「そうなの」
「うん。それは潤のおかげだよ」
「え?」
「うん。君って飽きない。いつでも安寧をくれる」
「こんな情緒不安定でも?」
「ははっ、自分で言っちゃうのも面白い。けどホント。人のことを考えられるようになったよ」
祥ちゃんは笑いつつも、わりと真剣に真っ直ぐ俺を見てきて。
濁りのないそれに少し、何故だか怖くなる自分がいた。俺ってそんなに強くないと、見るようで。
「もっと沢山色々な物が欲しくなった」
「…風呂見てくる」
ちょっといたたまれなくて、そうやって俺はその場を去る。
祥ちゃんは俺のおかげと言うが、俺が祥ちゃんに何を与えたのか。それがわからなくて戸惑う。
けど祥ちゃんはなんだか会った頃から、何か、飢えたような目をしている。それが活力かもしれない。
「あっ」
湯は溢れていた。
風呂係りは早くも失格かもしれない。蛇口を捻って湯を閉じ、一息吐いて提案を考える。
「祥ちゃぁぁん」
風呂場から叫べば「なにぃ?」と聞こえたので言う。
「先に入る!」
そして洗面所の引き戸を閉めた。
なんとなく祥ちゃんの笑い声を聞いた気もした。ついでに「溺れんなよ 」もあったような気がする。
血が流れる。皿が割れている。
「ちょっと、潤、」
その手を掴まれ我に返った。
「あ、ごめん、」
祥ちゃんを見てから皿を眺めれば「全くもう、」と言われ、一度血が出た指を、出しっぱなしにしていた水につけられ、根本を強く握られた。
そのまま「ちょっと待って」と祥ちゃんは言い、すぐに後ろの食器棚の引き出しから消毒液と大きな絆創膏を取りだし、消毒されて手の平に絆創膏を張られた。
「…すぐ風呂入るからいいよ」
「どうやったら掌を怪我するんだよ。不器用だなぁ、」
優しく笑って、俺は背を押されてソファに座らせられた。
向かいに祥ちゃんがしゃがみ俺の頭に手を伸ばす。反射的に目を瞑ったら優しく髪を撫でられて、再び目を開けた。
「ぼーっとしてたけど、大丈夫か」
「うん…」
「なんか嫌なこと思い出したんでしょ」
「いや、」
うん。
「嫌じゃないこと思い出した」
「そう」
「祥ちゃんごめん、皿割った」
「いいよそれは。はい、座ってて」
立ち際に抱きすくめられた。彼は一言俺に言う、「落ち着かないことがあったら言ってよ」と。
「メンタル不健康が一番恐ろしいよ潤」
「ん、はい」
温もりは去り、後のシンクに祥ちゃんは立つ。風呂場の湯の音がする。
「あ、俺やるよ祥ちゃん」
「ん、いいや。大丈夫だよ」
「ごめんなさい…」
「何、」
祥ちゃんはシンクから俺を見下ろして、ふと笑う。
「子供みたいな顔してるよ潤」
「え?」
「何、そんなに怯えないでよ。これくらい。
ただまぁじゃぁ…次はお風呂係り、潤かな」
「んー」
「ははっ。またクビになったね。まぁ俺、家事好きだからいいや」
「はぁい…」
なんだか悪いことしたけど。
ホントに祥ちゃん、別に気にしてなさそう。
「祥ちゃんは寛大だね」
「そーだね。潤には厳しくしなきゃいけないかな?」
「んー」
「でもさ、厳しくしたら潤ガチへこみするからね、そっちのケアのがめんどい」
「ひどいなぁ」
間があった。
がしゃがしゃ食器を処理する音がしてから、また祥ちゃんは隣に戻ってきて座り、タバコに火をつける。俺もそうした。
「嫌じゃないことって、何を思い出したの?」
「んー、昔の保護者との生活」
「そっか。
その頃から、君は変われた?」
「どうかなぁ」
変われてはいない。
変わったとすれば。
「劣化した」
「歳食った証拠だね」
「祥ちゃんは、どう?」
「ん?」
「昔と変わったの?」
「うん、断然。俺は進化したね」
「なにそれ」
「昔の俺はもっと世の中に批判的だった」
あぁ、確かにね。テロ紛いだもんね。
祥ちゃんは静かに笑う。
「あとはやっぱ、楽しくなった。世界がね」
「そうなの」
「うん。それは潤のおかげだよ」
「え?」
「うん。君って飽きない。いつでも安寧をくれる」
「こんな情緒不安定でも?」
「ははっ、自分で言っちゃうのも面白い。けどホント。人のことを考えられるようになったよ」
祥ちゃんは笑いつつも、わりと真剣に真っ直ぐ俺を見てきて。
濁りのないそれに少し、何故だか怖くなる自分がいた。俺ってそんなに強くないと、見るようで。
「もっと沢山色々な物が欲しくなった」
「…風呂見てくる」
ちょっといたたまれなくて、そうやって俺はその場を去る。
祥ちゃんは俺のおかげと言うが、俺が祥ちゃんに何を与えたのか。それがわからなくて戸惑う。
けど祥ちゃんはなんだか会った頃から、何か、飢えたような目をしている。それが活力かもしれない。
「あっ」
湯は溢れていた。
風呂係りは早くも失格かもしれない。蛇口を捻って湯を閉じ、一息吐いて提案を考える。
「祥ちゃぁぁん」
風呂場から叫べば「なにぃ?」と聞こえたので言う。
「先に入る!」
そして洗面所の引き戸を閉めた。
なんとなく祥ちゃんの笑い声を聞いた気もした。ついでに「溺れんなよ 」もあったような気がする。
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