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小鳥網
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「お前は、ホント、強いな」
「そうですか?そう言ってもらえると嬉しいかも」
「すげぇ強いよ。俺なんて…」
血の繋がった兄妹ですら、そんな信頼関係が築けていないというのに。
「俺のとこなんてさ、全然だよ。こっちがいくら伝えようとしても昔から聞く耳持たないし、あっちも、心なんて開いてくれない。だってさ、あいつ、辛いとか、言ってくれないんだ。
言ってくれたらどんなにいいか。聞いてあげられたら、どんなにいいか。こっちはさ、もういいんだよ。もうあいつのわがままなんて慣れてるんだよ今更。悪いことをしたとして、それを怒ったり一緒に考えたりする覚悟があるよっての、昔から全然伝わらないんだよ。
昔からそうなんだ。ちっちゃいことで嘘吐いて、つまんない言い訳して。そりゃぁ怒るよ?でもそのあと一緒に、なんで嘘吐いたのか、嘘はなんでいけないのかって考えてきたはずだったんだよ。
でも、こんなに長年、あぁ、伝わってなかったのかって思ったら、なんかもう、虚しくなっちゃってさ」
「それって本当に伝わってないのかな?」
「…え?」
「だって、伝わってなかったら…そもそも嘘吐いたり怒られたりする意味すらわからないでしょ?意味がわかってるから、いまの状態なんじゃないですか?」
「なんで?」
「なんて言うか…。私だったら、やってはいけないこと、つまり嘘を吐くことをやってしまう、これは、意味がないときにはやらないし、意味がわからずやってしまったなら、そんなに繰り返さないかな、と。何かのSOSかもしれないし、サインかもしれない。
私のお兄さん、よく嘘吐くんです。でもそれには大体意味があるし、SOSの時があるんです。でもそれって、嘘を吐くのがどんなことかって、わかってないと、伝わってないと出来ないと思いません?」
「確かに、そういう見方もある。けど、根っからの嘘吐きだったら?」
「うーん。でも、嘘吐いたあとのことって、多分わかってるでしょ?バレるか、隠し通せてもそれだけを背負うか。根っからの嘘吐きなら、私なんかより遥かにわかっているはず」
言われてみれば理穂の嘘は、確かに自己防衛で小癪なものが大半だけど、そう俺がわかっているということは、理穂にも思いが伝わってると言うことかもしれない。
「一喜先輩の強さは、優しいところだと思いますよ?だって、人の話をじっくり聞いて、もしくは聞こうとして、わかろうとしてくれるじゃないですか。伝えようとしてくれるじゃないですか。それって相手からしたら、実はもの凄く助かるし支えになると思うんですよね」
「…まあ…」
そうだといいけど。
「なーんてね。偉そうなこと言ってごめんなさい。
私もちょっと一喜先輩の気持ち、わかるなって思ったら、言わずにはいられなくなっちゃった」
「え?」
「私もよく嘘吐かれるし、なんか一人で悩んでも言ってくれないし、たまに喧嘩するし。もうなんなの?って思うこともたくさんあるんです。でも…私は、それでもやっぱり彼と…一緒にいたいんです。兄妹で…家族でいたいんですよ。みっちゃんもマリちゃんも、大好きだから」
そう話す小夜は、切なそうだが、笑っていた。
「いつまで一緒にいられるかわかんないんですけどね。世間から見たら曖昧な存在だし。でも多分、離ればなれになっても、私たちはまたいつか、会えそうな気がするんです。なんとなくだけど」
小夜の家庭事情をよくは知らないけど。
「なんか、小夜と小夜のお兄さん達は…俺も…そうあって欲しいな」
なんとなくそう思う。
「それ聞いたら、うちのお兄さん、喜ぶかな。照れるかな」
そう嬉しそうに言う小夜がなんだかとても眩しくて。
「小夜」
「はい?」
「…聞けてよかったよ。なんだか…気持ちが暖かくなった」
小夜の話はいつもそうだ。
小夜の笑顔はいつもほっとする。
小夜といると、なんだか地に足ついているような、そんな感覚になる。安心感が生まれる。
「それはよかった。今日の一喜先輩はなんだか、寂しそうだったから」
「え?」
「はー!」
小夜はベンチから降りて伸びをした。肩よりも下、肩甲骨を隠すくらいまで伸びた髪がキラキラと日の光で輝く。
「明日で学校も終わりだー!」
そっか。そういえば。
「私、丁度こっちに来て二年なんです」
「こっち?」
「はい。8歳から一年の夏まで、三重にいたので。
人生の半分くらいは三重なんです」
「なんでこっちにまた来たの?」
「うーん…。まぁ、向こうの高校楽しくなくて。なんか授業も合ってなかったし。行かなくなっちゃったんですよね。そしたらお父さんが、行きたいところに行きなさいって。
元々行きたいところじゃなかったんです、向こうの高校。
だから、こっちに一人暮しのつもりで来ました。最初は一人暮ししてたんです。けど、いろいろあって今は3人で暮らしてます。ここまで来るのに、大変だったなぁ…」
きっと、小夜も小夜の家族も人知れない苦労をしているんだろう。
そんな素振りなんて、全く見せないのに。
「お前って、やっぱり凄いわ」
「え?」
「いや、なんでもねぇよ」
俺も立ち上がって伸びをしてみた。
「はー!俺も疲れたなぁ」
「こうすると、疲れがちょっと癒える気がしません?」
「うん、するかも」
しばらく二人で伸びをしてみる。気付いたときには二人で、「何してんだろうね」とか言って笑い合えていた。
そしてそれからまた、本の話やらなんやら雑談をして、気が付いたら小夜のバイトの時間が迫ってきて。
途中まで一緒に帰ることにした。別れ際、
「ありがとう、小夜。少し、楽になったよ」
「お役に立てて何よりです」
また明日。
そう言って別れた。
その言葉でなんとなく繋がれているような気がして、なんだか心地よかった。
あぁそうか、俺は純粋に…。
でも、果たしてこれは。
「そうですか?そう言ってもらえると嬉しいかも」
「すげぇ強いよ。俺なんて…」
血の繋がった兄妹ですら、そんな信頼関係が築けていないというのに。
「俺のとこなんてさ、全然だよ。こっちがいくら伝えようとしても昔から聞く耳持たないし、あっちも、心なんて開いてくれない。だってさ、あいつ、辛いとか、言ってくれないんだ。
言ってくれたらどんなにいいか。聞いてあげられたら、どんなにいいか。こっちはさ、もういいんだよ。もうあいつのわがままなんて慣れてるんだよ今更。悪いことをしたとして、それを怒ったり一緒に考えたりする覚悟があるよっての、昔から全然伝わらないんだよ。
昔からそうなんだ。ちっちゃいことで嘘吐いて、つまんない言い訳して。そりゃぁ怒るよ?でもそのあと一緒に、なんで嘘吐いたのか、嘘はなんでいけないのかって考えてきたはずだったんだよ。
でも、こんなに長年、あぁ、伝わってなかったのかって思ったら、なんかもう、虚しくなっちゃってさ」
「それって本当に伝わってないのかな?」
「…え?」
「だって、伝わってなかったら…そもそも嘘吐いたり怒られたりする意味すらわからないでしょ?意味がわかってるから、いまの状態なんじゃないですか?」
「なんで?」
「なんて言うか…。私だったら、やってはいけないこと、つまり嘘を吐くことをやってしまう、これは、意味がないときにはやらないし、意味がわからずやってしまったなら、そんなに繰り返さないかな、と。何かのSOSかもしれないし、サインかもしれない。
私のお兄さん、よく嘘吐くんです。でもそれには大体意味があるし、SOSの時があるんです。でもそれって、嘘を吐くのがどんなことかって、わかってないと、伝わってないと出来ないと思いません?」
「確かに、そういう見方もある。けど、根っからの嘘吐きだったら?」
「うーん。でも、嘘吐いたあとのことって、多分わかってるでしょ?バレるか、隠し通せてもそれだけを背負うか。根っからの嘘吐きなら、私なんかより遥かにわかっているはず」
言われてみれば理穂の嘘は、確かに自己防衛で小癪なものが大半だけど、そう俺がわかっているということは、理穂にも思いが伝わってると言うことかもしれない。
「一喜先輩の強さは、優しいところだと思いますよ?だって、人の話をじっくり聞いて、もしくは聞こうとして、わかろうとしてくれるじゃないですか。伝えようとしてくれるじゃないですか。それって相手からしたら、実はもの凄く助かるし支えになると思うんですよね」
「…まあ…」
そうだといいけど。
「なーんてね。偉そうなこと言ってごめんなさい。
私もちょっと一喜先輩の気持ち、わかるなって思ったら、言わずにはいられなくなっちゃった」
「え?」
「私もよく嘘吐かれるし、なんか一人で悩んでも言ってくれないし、たまに喧嘩するし。もうなんなの?って思うこともたくさんあるんです。でも…私は、それでもやっぱり彼と…一緒にいたいんです。兄妹で…家族でいたいんですよ。みっちゃんもマリちゃんも、大好きだから」
そう話す小夜は、切なそうだが、笑っていた。
「いつまで一緒にいられるかわかんないんですけどね。世間から見たら曖昧な存在だし。でも多分、離ればなれになっても、私たちはまたいつか、会えそうな気がするんです。なんとなくだけど」
小夜の家庭事情をよくは知らないけど。
「なんか、小夜と小夜のお兄さん達は…俺も…そうあって欲しいな」
なんとなくそう思う。
「それ聞いたら、うちのお兄さん、喜ぶかな。照れるかな」
そう嬉しそうに言う小夜がなんだかとても眩しくて。
「小夜」
「はい?」
「…聞けてよかったよ。なんだか…気持ちが暖かくなった」
小夜の話はいつもそうだ。
小夜の笑顔はいつもほっとする。
小夜といると、なんだか地に足ついているような、そんな感覚になる。安心感が生まれる。
「それはよかった。今日の一喜先輩はなんだか、寂しそうだったから」
「え?」
「はー!」
小夜はベンチから降りて伸びをした。肩よりも下、肩甲骨を隠すくらいまで伸びた髪がキラキラと日の光で輝く。
「明日で学校も終わりだー!」
そっか。そういえば。
「私、丁度こっちに来て二年なんです」
「こっち?」
「はい。8歳から一年の夏まで、三重にいたので。
人生の半分くらいは三重なんです」
「なんでこっちにまた来たの?」
「うーん…。まぁ、向こうの高校楽しくなくて。なんか授業も合ってなかったし。行かなくなっちゃったんですよね。そしたらお父さんが、行きたいところに行きなさいって。
元々行きたいところじゃなかったんです、向こうの高校。
だから、こっちに一人暮しのつもりで来ました。最初は一人暮ししてたんです。けど、いろいろあって今は3人で暮らしてます。ここまで来るのに、大変だったなぁ…」
きっと、小夜も小夜の家族も人知れない苦労をしているんだろう。
そんな素振りなんて、全く見せないのに。
「お前って、やっぱり凄いわ」
「え?」
「いや、なんでもねぇよ」
俺も立ち上がって伸びをしてみた。
「はー!俺も疲れたなぁ」
「こうすると、疲れがちょっと癒える気がしません?」
「うん、するかも」
しばらく二人で伸びをしてみる。気付いたときには二人で、「何してんだろうね」とか言って笑い合えていた。
そしてそれからまた、本の話やらなんやら雑談をして、気が付いたら小夜のバイトの時間が迫ってきて。
途中まで一緒に帰ることにした。別れ際、
「ありがとう、小夜。少し、楽になったよ」
「お役に立てて何よりです」
また明日。
そう言って別れた。
その言葉でなんとなく繋がれているような気がして、なんだか心地よかった。
あぁそうか、俺は純粋に…。
でも、果たしてこれは。
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