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Act.3
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「…まぁ、これでいいです。僕、こういう方が落ち着くから」
白に混じるこの自然な鉛筆画くらいが。
コーヒーをまた飲む。正直味はわからないかも知れない。だって、歯磨きカップだし。
「…え?
いや、ちゃんとしたのをさ、」
「貴方もつくづくわからない人ですね。第一、ナルシストなのにどうしてそんなに自信がないんですか」
「え、それグサッとさらっと言うの!?」
きっと、この人にはこの価値観はわからないだろう。
真っ白い壁、天井、滅菌された空気、世界からの謝絶がどれほどか。自然がどんなに美しいと思えるか。
白を汚す自然がどれ程尊いものなのか、想像なんて出来ないでしょう。その汚しには白にない呼吸障害がある、細菌ガスだってあるだろう。けれどそれを綺麗に侵食し、何より色もあるんだ。
「きっと…わからないと思いますよ、五十嵐さんには」
貴方が描いた色鉛筆が、どれ程僕の世界をそれら不純物で汚して綺麗にしたのかなんて。
しかし僕の言葉は時に彼の頭をそう、何か確実に思考で汚してしまうらしい。曇る表情に鋭い視線をさせてしまう。僕は恐らく、彼の清潔ではないこの部屋には必要ないかも。
「…じゃぁ、作ってやろうか。カップ」
「…へ?」
「いや…」
僕は一体何で思考を埋めたのだろう。五十嵐は俯いて、今度は分かりやすい表情でそっぽ向いてしまった。
「その絵、あんまり好きじゃねぇんだ俺。歯磨きカップにするくらいには」
「え、なんでっ、」
なんでだろう。やはり五十嵐には僕の、この然り気無いリスペクトがわからないのか、でも、カップにしたんじゃないのか。僕には到底理解が出来ない。
「それは画家を投げ出そうとして、でも家でふといたずらに書いたやつだから。精神的には汚れた気持ちで描いたような、そんなやつ」
「…なんですかそれ」
「まぁ、怒るかもしれねぇけどうーん、カップ作りに行こう。それはお前にやるが、もっと、多分好きだろうと思うやつがあるから」
「はぁ?」
流石に腹立ってきた。
バカにされている気がしてならない。僕の、ファンの精神なんてわからないからそうやって自堕落に自己防衛なんてするんじゃないの。
「…全っ然人の気なんて」
「あーうるさいうるさい。だからやるっつってんだよ。
はい、支度して。出掛けるぞ」
「は?」
「お前大体アシスタントだろ。上手くいったら大量生産して売るからテキトーに画集持ってけ」
言い終わって速攻にケータイを手にし、どこかに掛け始めて「もしもし」と話している。
「あ、もしもし?お久しぶり、画家の五十嵐です」
なんだこのゴキブリ画家。本気でムカつく。
ああそうですかと僕は部屋の、最早そこかしこにある画集(といっても3冊)とか、漫画とか週刊紙とかエロ雑誌とか、話している間に全部集める。
五十嵐が業務的な短い電話を終えた瞬間を狙い、まずエロ雑誌をぶん投げてやる。胸を寄せて儚げ、というか媚売り売りの“美乳激射”がページをヒラヒラとさせ五十嵐の肩に当たってぶちまけられる。
「痛っ、バ、かなのおまっ、」
続いてなんか青春系の少女マンガっぽい絵柄の単行本、胸にヒット。「痛い、痛いから!」で本気で腹立ってきた。画集二作を投げる。そのあたりで「待てちょっとマジで!」と怒鳴られた。
最後の『崩壊』。これを掲げた瞬間に、一瞬、自分が泣きそうなほどキレていることに気が付いて、なかなか降ろせなくなってしまった。
僕の腕が若干震えていることに気付いたらしい五十嵐に、「佐奈斗、」と落ち着いた、嗜める声で名前を呼ばれ虚しく『崩壊』を下げる。
「…何怒ってんだよ」
お前の、何もわかんないとこだよっ。
声は出ない。悔しさが勝る気がした。
「…とにかく用意して。画集はそれな」
そして意外にも落ち着いた声なのがムカつく。このクソ野郎、人をなんだと
そっか。僕って幽霊じゃん。空気じゃん。
脱力した。
「すみません、たまにあるんです」
と適当なことを言って投げてしまった画集二作を拾う。五十嵐は立ち上がり、僕の声を聞いたか聞いてないかは不明だが、一度二階へ向かってしまった。
拾って、虚しさにやり場がなくなり、散らしてしまったエロ雑誌と漫画をまとめてテーブルの下へ置いた。
ついでに僕も、グレーの少し長いニットとブラックのパンツに着替える。
正直、その身一つで来てしまったので、服はこれしか持っていないのだ。
あ、サイズ間違えて買ったからとかいって五十嵐に押し付けられたワイシャツ?シャツがあったか。
あとは外に出ないから関係ない。五十嵐から借りた、というか貰った、五十嵐が着なくなったワンサイズでかい服を寝間着にしているくらい。僕のものなんて後は五十嵐が買い与えてくれた最低限の日用品しかないのだ。
僕はここにすらほとんど、いないのかもしれないな。
白に混じるこの自然な鉛筆画くらいが。
コーヒーをまた飲む。正直味はわからないかも知れない。だって、歯磨きカップだし。
「…え?
いや、ちゃんとしたのをさ、」
「貴方もつくづくわからない人ですね。第一、ナルシストなのにどうしてそんなに自信がないんですか」
「え、それグサッとさらっと言うの!?」
きっと、この人にはこの価値観はわからないだろう。
真っ白い壁、天井、滅菌された空気、世界からの謝絶がどれほどか。自然がどんなに美しいと思えるか。
白を汚す自然がどれ程尊いものなのか、想像なんて出来ないでしょう。その汚しには白にない呼吸障害がある、細菌ガスだってあるだろう。けれどそれを綺麗に侵食し、何より色もあるんだ。
「きっと…わからないと思いますよ、五十嵐さんには」
貴方が描いた色鉛筆が、どれ程僕の世界をそれら不純物で汚して綺麗にしたのかなんて。
しかし僕の言葉は時に彼の頭をそう、何か確実に思考で汚してしまうらしい。曇る表情に鋭い視線をさせてしまう。僕は恐らく、彼の清潔ではないこの部屋には必要ないかも。
「…じゃぁ、作ってやろうか。カップ」
「…へ?」
「いや…」
僕は一体何で思考を埋めたのだろう。五十嵐は俯いて、今度は分かりやすい表情でそっぽ向いてしまった。
「その絵、あんまり好きじゃねぇんだ俺。歯磨きカップにするくらいには」
「え、なんでっ、」
なんでだろう。やはり五十嵐には僕の、この然り気無いリスペクトがわからないのか、でも、カップにしたんじゃないのか。僕には到底理解が出来ない。
「それは画家を投げ出そうとして、でも家でふといたずらに書いたやつだから。精神的には汚れた気持ちで描いたような、そんなやつ」
「…なんですかそれ」
「まぁ、怒るかもしれねぇけどうーん、カップ作りに行こう。それはお前にやるが、もっと、多分好きだろうと思うやつがあるから」
「はぁ?」
流石に腹立ってきた。
バカにされている気がしてならない。僕の、ファンの精神なんてわからないからそうやって自堕落に自己防衛なんてするんじゃないの。
「…全っ然人の気なんて」
「あーうるさいうるさい。だからやるっつってんだよ。
はい、支度して。出掛けるぞ」
「は?」
「お前大体アシスタントだろ。上手くいったら大量生産して売るからテキトーに画集持ってけ」
言い終わって速攻にケータイを手にし、どこかに掛け始めて「もしもし」と話している。
「あ、もしもし?お久しぶり、画家の五十嵐です」
なんだこのゴキブリ画家。本気でムカつく。
ああそうですかと僕は部屋の、最早そこかしこにある画集(といっても3冊)とか、漫画とか週刊紙とかエロ雑誌とか、話している間に全部集める。
五十嵐が業務的な短い電話を終えた瞬間を狙い、まずエロ雑誌をぶん投げてやる。胸を寄せて儚げ、というか媚売り売りの“美乳激射”がページをヒラヒラとさせ五十嵐の肩に当たってぶちまけられる。
「痛っ、バ、かなのおまっ、」
続いてなんか青春系の少女マンガっぽい絵柄の単行本、胸にヒット。「痛い、痛いから!」で本気で腹立ってきた。画集二作を投げる。そのあたりで「待てちょっとマジで!」と怒鳴られた。
最後の『崩壊』。これを掲げた瞬間に、一瞬、自分が泣きそうなほどキレていることに気が付いて、なかなか降ろせなくなってしまった。
僕の腕が若干震えていることに気付いたらしい五十嵐に、「佐奈斗、」と落ち着いた、嗜める声で名前を呼ばれ虚しく『崩壊』を下げる。
「…何怒ってんだよ」
お前の、何もわかんないとこだよっ。
声は出ない。悔しさが勝る気がした。
「…とにかく用意して。画集はそれな」
そして意外にも落ち着いた声なのがムカつく。このクソ野郎、人をなんだと
そっか。僕って幽霊じゃん。空気じゃん。
脱力した。
「すみません、たまにあるんです」
と適当なことを言って投げてしまった画集二作を拾う。五十嵐は立ち上がり、僕の声を聞いたか聞いてないかは不明だが、一度二階へ向かってしまった。
拾って、虚しさにやり場がなくなり、散らしてしまったエロ雑誌と漫画をまとめてテーブルの下へ置いた。
ついでに僕も、グレーの少し長いニットとブラックのパンツに着替える。
正直、その身一つで来てしまったので、服はこれしか持っていないのだ。
あ、サイズ間違えて買ったからとかいって五十嵐に押し付けられたワイシャツ?シャツがあったか。
あとは外に出ないから関係ない。五十嵐から借りた、というか貰った、五十嵐が着なくなったワンサイズでかい服を寝間着にしているくらい。僕のものなんて後は五十嵐が買い与えてくれた最低限の日用品しかないのだ。
僕はここにすらほとんど、いないのかもしれないな。
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